【第一話】突然タコと出会った日①
『カキンッ カキンッ』
作業場に鋼を打つ音が響く。
町はずれにある小さな刀工、僕はそこで刀を作っている。
刀を作り、一人の職人として独立してから早5年、僕は刀鍛冶として最大の出世時に来ていた。
有名な王国の騎士団長即位の際、刀使いであるその騎士団長から「王前での騎士の誓いに使用する刀を納品していただきたい」との依頼があった。
今まで一般騎士用の刀ばかり作ってきたが、初めての儀式ようの刀の作成である。
これが成功さえすれば、極東の武器である刀の認知度も上がり、自分の名声も上がる。
一世一代の大勝負が来た時、それは起こった。
『カキンッ ヌチョッ!』
今まで作業場で聞いたことのないような音が聞こえた。
明らかに鋼を打った時の金属音ではなく、柔らかくてねばねばしたような、水っぽい音がした。
近くにスライムでも湧いたか? そう思い、窓からあたりを見回すが何もいない。
ただの気のせいだろうと、再び金槌を鋼に下ろすと
『ヌチョリッ!』
今度は聞き逃さなかった。
明らかに自分が打った鋼から音がした。
あまりの怪現象に背筋がゾッとしながらも、何が起こったのかと確認するために鋼を顔に近づけた。
表の叩いている所には何も起こっていない、ただの鋼だ。
じゃあ、裏面はどうだとひっくり返した時、衝撃的なものが見えた。
それは粘液まみれで、独特の模様にたくさんの吸盤が付いた...。
『にゅるん』
タコの足だ。
「イィヤァーーーーッ!?」
僕は腹の底から悲鳴を吐き出し、鋼を投げ捨てた。
投げ捨てた鋼が地面に落ちる。
すると、
「痛っ!? 何するのいきなり?」
投げ捨てた鋼から声がしたと思いきや、
周囲を取り囲むほど大きな光を放ち始めた。
目が焼けそうなほどの光に襲われた僕は、とっさに目をかばって腕で隠す。
数秒経って、光が弱まったことを感じた僕は周囲を見渡すと
鋼があったはずの場所に、一人
豪華な装飾と刺繍があしらわれた少女の姿があった。
「えぇと、【刀匠:ヤマト ミコト】さんであってますよね? 初めまして、私はタコです! 訳あってこれから一緒に旅をすることになりました。宜しくお願いします!」
タコ? そう思い少女の様子を見ると、明らかに人間ではないのが分かった。
一見華奢な少女ではあるが、目の瞳孔は人の形をしておらず横長で、
ブロンドの髪の毛はよく見たらたこ足のようなものが髪のようにセットされているだけであった。
「一体どういうことなの?」
それが、その時自分の口から出た精一杯の言葉だった。
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