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「へー、あんたゲンキっつうのか、珍しい名前だな」


 異世界転生を果たした俺は、近くに見える街を目指していたところとある馬車が通りかかった。運良くその馬車に乗せて貰えることになった俺だったが、なにやらやたらと絡まれて少しめんどい状況になっていた。


「はい、遠くの地方からやってきましたので」


「そうなのか、旅の途中というわけかな」


 ヒゲのおじさんがうんうんと頷いている。

 なんやかんやで名前を尋ねられたので下の名前を適当に答えておいた。正直他人との会話はあんまり得意じゃないんだよな……やっぱりソロで引きこもって遊ぶのが俺には性にあっている。


「因みに私はゴスロットという者だ。一応ゴスロット商会の代表を務めている。まぁ小さな商会ではあるがね。そしてこっちの節操ないやつがヤンゼ。商会のメンバーだ」


「言ってくれるねぇ、まぁ否定はしないがな」


 すんすん。

 なんか知らないが隣に座るヤンゼが俺の首元の匂いを嗅いでくる。え、なんだこいつ。


「うーん、悪くねぇ。んで確かに変わった匂いだ」


「おいそれをやめろと言ってるだろう……まぁ多少変なやつだが悪いやつではないんだ、分かってやってくれ」


 いやヤバすぎるだろ。なんで初対面の男の匂い嗅いで納得顔なんだよ。流石に変態すぎないか? しかも俺男だし、せめて嗅ぐなら女の匂いだろ。……いや、今のはなしで。


「そしてこっちがロン、しっかりしていてそれでいて気高さも併せ持つ人類の最高傑作だ」


「あ、えと、はじめまして……」


 なにやらバツが悪そうに会釈しているロンという子。

 凄く大げさな自己紹介な気がしたが、見た感じは粛々と大人しい感じの子で、真面目そうな印象を受ける。紫に近い黒髪のショートカットに、比較的整った顔立ち。歳は俺よりも少し下だろうか。

 因みにこの馬車の中には俺とゴスロット、ヤンゼとこの子の計四人が座っている。外で馬を引いてる御者の人を合わせれば計五人だ。


「ロンはメンバーというわけではないんだがな、今回は馬車の護衛で同行してもらっている。何を隠そう新進気鋭の天才冒険者パーティーの一員でな。ランクはなんとプロと呼ばれるCランクで戦闘力も折り紙つき、非の打ち所がないとはこのことだとつくづく思うんだがな」


 へー、そうなんだ、冒険者っていうとファンタジーの話とかで魔物狩りを生業なりわいとする職業っていう認識だけど、大体あってるのかな? というかやたらと饒舌だなゴスロットさん。この子のときだけ妙に喋るような気が。


「冒険者ですか、やっぱり魔物とかって結構いたりするんですか?」


「え? あ、はい、人々に危害が加わらないうちに数を間引くのが、冒険者の主な仕事ですから」


 やばい、ちょっと変な質問しちゃったかな。

 あまりに常識がないのがバレると、変に怪しまれることに繋がるかもしれない、用心しとかないとな。


「へー凄いですね。女の子で魔物と戦うって、なんかかっこいい気がします」


 適当なこと言って誤魔化しとこっと。


「えと、ありがとう……ございます」


「はー、なんだなんだ、会話がつらつら並ぶじゃないの」


 ヤンゼが俺の肩に腕を回してくる。うわ、いきなりなんだ。


「いいぜ、わかるぜあんちゃん。俺はあんたを応援する」


「え、何がでしょうか……」


「ちっとでも気にかかる女がいたら唾つけたくなるもんだ、うんうん。だがちょっくらハントするには大物かもなぁ。なんせ冒険者の中でも屈指の実力者で、冒険者ギルド内でも相当に人気と聞く。当然となりに並ぶにはそれに似合うだけのもんが必要なわけだが……あんちゃんにそれがあるかだなぁ」


 ……なに? なんだ。この子を好きとか嫌いとかそういう話をしてるのか? まだ初対面なんですが。それに自慢じゃないか俺は完璧なまでの童貞で彼女は愚か人生で告白されたことすら一度もない。俺は恋愛とかそういうことに思いを馳せることすら許されないような、ザ・モブ男なのだ。相手に変に思われてもいやだから余計なことは言わないでほしい。


「何をおっしゃってるか、まったくわかりません」


「あぁ? うそつけ。さてはお前シャイだな、このこの」


「――今の話、本当か」


 俺がヤンゼと会話していると、凄く重々しい声が聞こえた気がした。

 声の出どころはゴスロットだった。


「あ」


 隣を見てみると、ヤンゼが明らかに焦った顔をしているのが分かる。

 なに、え? どういうこと?


「ゲンキ。あんた、ロンに興味があると言うことか? 答えてみろ」


 そしてその矛先はまさかの俺だった。え、えぇ! なに? 俺なんか不味いことしたのか?


「ロンが確かに客観的に見ても非常に魅力的な女性であることは、父である俺からしても心得ているつもりだ。だがな、これに手を出すというのであれば、まずは親である俺を通してからにするのが筋というものではないのかね?」


 暗い瞳に眼光だけ灯し、ゴスロットが問い詰めてくる。

 え、父? 親? ということはこのロンって子は……


「ゴスロットさんの……娘さん?」


「あ、はい。ゴスロットは私の父になります……」


 俺のつぶやきに、ロンが小さな声で答える。

 どうやらとんでもない修羅場になっているようだった。

 やばいどうしよう、でもこうなったら根性でなんとかするしかない!


「い、いや! 違うんです! ヤンゼさんが勝手に言ってるだけで僕はそういう気は、全く、毛ほどもございません! というか僕なんてなんの取り柄もない童貞野郎ですし、根暗で気持ち悪いのでこんなやつが娘さんに何か思うことなどあろうはずがありませんから!」


「なんだ? それはつまり娘が異性を惹きつけるだけの魅力がないということか?」


「そ、そんなことはありません! 娘さんは非常に素敵なご容姿をされていますし、言葉遣いも凄く丁寧で育ちの良さと性格の良さが何をせずとも溢れ出ています。気品ある女性とはまさにこのことですね。それでいて社会的な立場もしっかりなされているということでこんなに多才かつ芯を持ってる女性などそうはいませんよ。本当に魅力があって素敵な方だなと思います。勿論僕なんかがどうこう思えるような存在ではありませんが!」


「……そうだろう。我が娘は非常に素晴らしいのだ」


 なんとか矢継ぎ早に言葉を並べて取り繕った。

 はぁ、なんだよこれ、とんだ地雷が潜んでいたものだ。でもなんとかなったのか? ……あぁ、なんかどっと疲れた。



 そんなことをやってるうちに、気づけば馬車は街の城門近くまで到着していた。

 いよいよ街に入れそうだ。

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