春荒
こんにちは
短編をしばらく連載してみようと思っています。毎日を目標にかいていきますので他作品もどうぞお読みください。
「・・・以上をもって答辞とさせていただきます。王立魔法学院第54代卒業生代表、クリフ・クリサンターム」
壇上で言葉を述べていた金髪の少年がこちらを向いて頭を下げる。
パチパチパチパチとホールの中で割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
彼がゆっくりと頭を上げると拍手は徐々に鳴りやんでいった。
クリフの瞳は紺碧の空のように何もかもを吸い込むような色をしており、生徒の視線を一身に受けている。
しかしその立ち姿は一切の気負う様子が見えなかった。
彼の深く黒い瞳と対照的に光を受けて太陽のごとき輝きを見せる金髪、学校の制服が白いこともあってかそれらは輝いているように見えた。
「クリフ会長も今日で見納めかぁ」
隣の席に座っている生徒が感慨深げに声を漏らした。
そうなのだ。
今日は私アリス・アザレアの在籍する魔法学院の卒業式の日なのだ。私は入学した日に新入生に在校生からのあいさつを述べていたクリフ会長に一目ぼれをした。
私のこの学院での2年間はクリフ会長なしでは語ることができないだろう。私は入学初日から担任の先生に生徒会に入りたいとお願いした。
私は頭の隅をめくって2年前のことを思い出した。
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「アザレア家のご息女なら問題ないでしょう」
眼鏡をかけ、ふわりとしたシックな青いワンピースを着た担任が許可をしてくれた。
私は飛び上がるほどうれしかった。そもそも学年の違うクリフ先輩と話す機会なんてあまりない。
それだから私は生徒会ならば会長とお近づきになれると思ったのだ。
「では、紹介に行きますのでついてきてください。」
コツコツコツ、、、、
先生はいきなりそんなことを言い出した。
「ちょっと待ってください。もう生徒会室に行くのですか」
(もう少し心の準備をする時間をください、、、!!!)
「何を言っているのですか、アリスさんの方から生徒会に入りたいとおっしゃったのでしょう?」
先生は私の方を見てじっと見つめる。彼女は何を当然のことをという風に私を急き立てた。
彼女の視線にバツが悪くなったが、もともと私が生徒会に入りたいといったのだ。
、、、ええいままよと私は先生についていくことにした。
「そのとおりですね。急だったので。」
善は急げだ。
教室を出て、私は石造りのしっかりした校舎の中を歩き回った。階段を上って、下って上って、、、、、
そうこうしているうちに私はどちらに向いているのかが、わからなくなった。先生を見失うと出られないと思いながら訪ねた。
「先生この学校あまりにも入り組んでおりませんか。」
「アリスさん。この学校はもともと要塞なのです。有事の際にこの国を守るための施設でもありました。現在このクリサンターム王国は平穏なものですが、60年前に建国されたときは群雄割拠の時代を制覇した国でした。そのような時代に作られた建物であるため、侵入者がするすると進行できないように入り組んだつくりになっているのです。」
「そうなのですか、、、」
私はそのように答えたが得心がいかなかった。
「武勇名高いあなたのアザレア家の居城も入り組んでいるのではありませんか?」
そこで私の生家を思い出す。私の家は王家に仕えている子爵の家柄だ。土地は国の中心から外れているところにあるが、いざというときのための備えを任せられると思われている歴史ある家だ。
名家といってもいいだろう。
長年住んでいるだけあって私は大丈夫だが確かに入り組んでいた。
「確かにそのとおりですね。」
そんなことを話ながら10分くらい歩いただろうか。先生は豪華な扉の前で立ち止まった。
扉には花のモチーフが飾られており、その上部には幸運を運ぶとこの国で言われている巨鳥が彫られていた。
コンコン
どうぞと扉を叩くと中から声が聞こえる。
「失礼します。」
私が中に入ると一陣の風がビュウッッ!と吹き抜けた。
私は目をつぶった。
目を開けるとクリフ先輩がいた。生徒会室は机が一つといくつかの椅子そして大量の棚があった。室内には今は先輩しかいないようだった。
「こちらアザレア家のご息女のアリスさんです。生徒会に入りたいそうなのでお連れいたしました。」
室内のことを観察していると担任が私のことを紹介してくれているようだ。
「そうなのかい!ありがとう僕の名前はクリフだ。この生徒会で今は副会長をしているんだ。これからよろしくね。」
クリフ先輩が手を差し出してきた。
私の中で焦りが出てきた。何をしゃべろうか全然考えていなかったのだ。
私は先輩の手をぎゅっと握って挨拶だけした。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
噛んでしまった、、、
先輩はにこっと笑った。
心が打ちぬかれた。
だめだ。先輩を見ていると考えがまとまらない。とりあえず、先生を見よう。少し落ち着こう。
そんな失礼なことを考えながら、あたふたして先生の方を向くと先生はにっこりと笑った。
「私は別件がございますので後のことはよろしくお願いします。クリフさん。」
「ええ、わかりました。先生ありがとうございました。」
先生は一礼をしてから部屋を出て行ってしまった。
「とりあえず、お茶でも飲みながら話そう」
そういうと先輩は奥に行ってお湯を沸かし始めた。はじめは気が付かなかったが、部屋の左手の奥には小部屋があるようだった。
私はポカーンとして立っていると先輩が奥の小部屋から顔を出して言った。
「アザレアさん座っといて」
「はいっ!」
私は手近にあった椅子に座った。
私の胸は跳ねた。
春の日差しの輝く日にクリフ先輩と出会いそして私の忘れがたいの2年間が始まったのだ。
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周辺で皆が記念に言葉を交えている。皆が皆浮かれている。卒業生はこの学院を卒業すると大抵のものが地元に帰り治世を任されるか、それとも王宮騎士団や魔法協会などでエリート待遇で職を得るのだ。
彼らはこの学院で得た3年間の伝手を頼りに、技を頼りにこれからクリサンターム王国に仕えるのだ。
彼らの浮かれた空気に当てられながらも私は少し悲しかったのだ。クリフ先輩は遠くに行ってしまうのだ。ほかの卒業生とは違い先輩はもう卒業した後に話す機会がないだろう。
彼の苗字はクリサンターム。王家の一員なのだ。辺境の武家であるアザレア家の主君にしてやんごとなき方に身分になってしまうのだ。
私の思いはこの2年変っていない。一目ぼれした時から変わらず、思っている。その気持ちは残り時間が少なくなってきてより強くなっていることを感じる。
私は卒業生をそして彼らを囲む在校生をかき分けて進んでいく。
両手には花をそして胸には私では持ちきれなくなってしまった思いを抱えて。
一段と大きな生徒の集団を見つけた。
中心には一人の生徒がいる。いやもう彼は生徒ではない。偉大なるクリサンタームの名を持つ歴とした王族だ。
「先輩っ!」
私はクリフ会長に後ろから声をかけた。
彼はゆっくりとこちらを向いた。
「やぁアリス。君もお祝いの言葉を送りに来てくれたのかい。」
彼が笑う。
その瞬間周辺のがやがやした音が声がすぅっと遠くなっていったことを感じる。
ああ今この場には先輩しかいない。
私は一歩前に踏み出し、彼に花を渡した。
「ご卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
その屈託なく、笑う。この顔を彼にもう会えないことになるだなんていやだ。
そう思い、そして私の口は勝手に開いた。
ビュウッ!!!
「・・・・・・」
風が、春荒が吹いた。その風は私の言葉をそして思いを流してしまった。
あぁこの勇気を奪った風が憎い。もう二度はないだろうこんな勇気は出ないだろう。
彼は言葉が聞こえなくなったのか不思議そうにしていたが、しかし数舜たったのち彼の紺碧の瞳は大きく開いた。
えっ?私は驚いた。
そして彼は今まで見た中で一番の笑みを浮かべた。
「2年間一緒にいないときっとわからなかったよアリス。僕の言葉も風で流されないようにね。」
そういうと彼は一歩私に近づいた。そして彼の両手が私をぎゅっと引き寄せた。
私の頭が彼の腕の中で包まれた。
私は甘い花の匂いに面をくらいながら戸惑った。
そんな私を尻目に彼の口が間近で動いた。
「僕もだよアリス愛してる。」