祖父の活躍
お茶目なお爺ちゃん~好きぃ♪
ミシェルが『皆で考えましょう!』と宣言してから10日が過ぎた。
「皆で。と言ってもクライフ商会の超機密案件ですし、誰でもいい訳じゃないんですよね」
「会長職から引いたとはいえワシもレオナルドの手伝いとかあるからなぁ・・・」
レオナルド1人では商会長としての業務全てに手が回らない。アレクセイはその中から代行できる業務を引き受けていた。それはエレノアとミランダの間でも同様である。
ミシェルもこの案件を商会のトップで忙しい彼等に押し付けるつもりはない。
とはいえ、現在の商品開発部に任せられるのか?といえば難しい。
商品開発部にも元々抱えている案件があるので、これ以上を既存部署に振ると許容量を超えるのは想像に難くない。
新規に開発部署を設立するにもミシェルの言う通り『誰でもいい訳じゃない』ので人選が難しい。今後の商会を左右しかねない重要案件だけに上層部も何とかしたいのだが、どうしても機密保持の点が足枷になってしまう。
他の部署から人員を緊急招集してチーム新設という案もあったのだが、ミシェルの人員配置が完璧すぎたのが今回の場合は裏目に出てしまった。動かすに動かせないのである。
ましてや新規に募集して任せられる案件でもない。
「という訳で暗礁に乗り上げてます」
宣言から12日目の事だった。
「この案件を任せられる責任者がいないんですよね。僕も学校に通っているので何かあった時に即時に対応できませんし」
いつもの様にミシェルはあごに拳を添える。
「これがミシェルの求める条件か」
アレクセイは手にした用紙に目を通す。
「機密保持だけなら契約魔法で縛ればいいのではないか?」
「奴隷魔法と揶揄されているアレですか。本人が望んだとしても商会のイメージが悪くなるのは避けられないんですよね」
「そうなのか?ワシが現役の頃は当たり前に使われていた手段だったのじゃが」
「今のご時世では犯罪者相手にしか使いませんよ。契約管理そのものは商業ギルドがキチンと管理してますし」
契約魔法。魔法によって相手の行動に特定の制約を課す。
商会ではライバル商会に特定の人員が引き抜かれるのを防止するのに使ったり、機密案件にかかわる者に機密保持を課すためなどに使われていた。
契約魔法は商業ギルドの職員が立ち会い、教会の司祭以上の術者によって行われるのだが、ギルドと教会の双方に安くない金額を支払わなければならず、解除の際にも同様の額を必要とする。
商会が契約魔法を使わなくなったのは金銭的な理由もあるが、とある事件によって契約内容次第では相手を奴隷の様に使役できてしまう事が民衆に広がった事が大きい。
クレタミラ王国の識字率は各地に学校が設立されてから上がってきているものの8割程で頭打ちになっている。
小学校は学費を王国が負担しているので学費はかからないのだが、金銭的な事情から学校に行かせずに働かせる家庭が少なからずあるのが理由である。
その事件は、まさにその層の家庭を狙って行われた。
とある商会と一部の教会が結託して識字率の低い貧困層の子供を契約内容が読めない事をいいことに安い給金で大量に雇い入れ、一部の子供は協力した教会へ人身御供として差し出し、残りは好色家へ人身売買するという契約魔法を悪用した実に非道な内容であった。
事件が明るみになったのは偶然と必然が入り混じった結果だった。
契約魔法で使用される触媒は教会での管理であったが、契約書は立会者である商業ギルドの管理下に置かれていた。
契約魔法は上記の危険性から商業ギルドでは契約書の管理には細心の注意を払っていた。
にもかかわらず違法な契約魔法をその商会が行えたのは、使用する契約書を自らの手で偽造していたからである。
契約書の製造に必要な素材も、取り扱っている商会に管理履歴の監査をギルドで行うほど厳重であった。
偽造していた商会は取扱商会に渡る前の素材を配下の商人に買い集めさせていた。
それにより、契約書を作るための素材が市場で高騰するのは必然であった。
契約魔法は年に数度しか行われないので、ギルドで管理している契約書は多くても10枚ほどしか置かれていない。
補充も5枚を下回った時に発注をかけるのだが、その年は隣国商会との取引が活発で、多くの契約書が使われた。
それは十数年に1度あるかどうかの出来事。それが素材が高騰した時におきた偶然。
そしてギルドから契約書の発注を受けた魔法技師が、購入する素材の高騰に気が付いて商業ギルドにその件を問い合わせた。
ギルドで管理している素材の取り扱いについて書類上では不正は見られなかった。取り扱いの商会からは素材自体が不作で十分な数が仕入れできなかったからとの説明を受けた。
素材が不作であったというのはギルドでも聞いていない情報。確認のため現地にギルド職員を派遣したが不作だった事実はなかった。
不穏な臭いを感じたギルドは秘密裏に各素材の調査を行った。結果、ある商会が密かに買い集めている事をギルドが掴んだ。
さらに詳しく調べたところで契約書の偽造と、教会と結託して契約魔法の不正使用が判明した。
全ての犯罪行為が明るみに出て、契約魔法に対する印象は最悪のモノになった。
以降。商会で契約魔法を使うのは犯罪奴隷を雇い入れる場合などに限定された。
さらには使用目的をギルドに申告して精査、承認を受ける手続きが必要になり、経費は王国持ちということになった。
「王都で大騒ぎになった事件で、当時生まれていない僕が知っているのに、何故おじい様が知らないのですか・・・」
不思議なものを見るようにミシェルは祖父を見上げた。
アレクセイは孫の表情に狼狽えて、今一度記憶を振り絞る。
「あーアレか。当時は商会を立ち上げる前で、ワシは冒険者として活動しとったからなぁ・・・。素材の1つに特殊な植物が使われていてな。商業ギルドから作況調査を依頼されて各地を飛び回っておった時だな」
「おじい様が?」
「ああ。現地の作況とギルドに届いていた作況がズレていた地域があってな。調べたら例の商会と不正に取引してたって訳だ。そもそも、わしはギルドからはただの横流し事件だと聞かされていたからなぁ。事件が解決した後は事後処理をギルドに頼まれてしばらく現地に残っていたから王都での顛末は詳しく知らん」
※アレクセイがミランダと結婚できるかどうかの瀬戸際で、周りが見えなくなっていた事を合わせて付け加えておく。
「あ!」
突然アレクセイが上げた声にミシェルがビクリと体を震わせた。
「どうしたのです?」
「今回の案件にうってつけの奴を思い出した」
歯を見せて笑う祖父の姿は微笑ましいのだが、ミシェルは一抹の不安を覚えて
「ハハハ・・・」
と引きつった。