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クライフ商会

見づらいので一部段落や表現を変更しました。

 アルテミラ大陸にある王政国家の1つで、大陸南東部に位置するクレタミラ王国の中規模都市の1つベルリナ市。

 そこに本店を置く王国の商家としての格は中ほど。クライフ商会に生まれた長男ミシェルは跡継ぎとして生を受けた。

 初めての子ということもあり、両親から溢れるほどの愛情を注がれて育ったミシェルは僅か1年で言葉を発し、3歳になると簡単な計算ができるようになり、両親の想いとは裏腹に頭脳明晰の天才児として周囲の期待は高まっていった。

 そんなミシェルに両親は常日頃からこう諭していた。


 父は、

 世界は人が中心にあると思ってはいけないよ。人は世界に動かされているだけの駒。

 お金はあっても困らないけど、困ったときに頼るのがお金だけであってはいけないよ。

 お金は道具。道具に頼るのは間違いではないけど出来ることは自分でやりなさい。

 そしてどうにもならない時に道具に頼り、そして他人(ひと)を頼りなさい。

 自分が他人(ひと)に与えた仕事は結果がでるまで経過に口を出してはいけない。

 結果を出した者は褒めてあげなさい。

 結果を出せなかった者は経過を褒めてあげなさい。その上で問題点を挙げなさい。

 叱るのは過ちを犯した者だけにしなさい。

 怒るのは親しい者を傷つけられた時だけにしなさい。

 力は正しく使いなさい。

 力に使われてはいけないよ。


 母は、

 他人(ひと)との縁を大事にしなさい。

 他人(ひと)の信頼を得なさい。

 他人(ひと)の役に立ちなさい。

 他人(ひと)に迷惑をかけてはいけません。

 他人(ひと)を傷つけてはいけません。

 他人(ひと)を恨んではいけません。

 他人(ひと)を妬んではいけません。

 他人(ひと)を陥れてはいけません。

 他人(ひと)に価値をつけてはいけません。

 なによりも、人の上に立つならば己自信を磨きなさい。

 そして磨いた努力を他人(ひと)自慢(ひけらか)してはいけません。


 そして最後に両親は声をそろえて、


 例え両親でも他人(ひと)が言った事を鵜吞みにしないで自分で考えなさい。


 そう言った。


 ミシェルが生まれて8年。

 すでに高等教育を修めていたミシェルであったが、学校とは学業以外にも多種多様な経験を積める小さな社会空間的な場である事。多くの人々が通う学校には環境や地位の違う、自分とは異なる思想、手段、情報を持つ相手と交流を持つことが出来る場である事。要するに世の中を知るためにと両親はミシェルに言い聞かせて都市の小学校に通わせていた。

 とはいえ、頭脳だけは大人のミシェルは小学校に通いつつクライフ商会の一部業務に携わっていた。


 『総務部人事課』


 誰をどこに配置するのか決める部署である。


 クライフ商会の長である父、レオナルド・クライフとその妻、エレノア・クライフ。

 2人とも非凡なる商才を持っていながら商会の地位が中位にあるのは単純に人材不足の為である。

 より大きな仕事にはより多くの人手が要る。

 『人材は人財』

 クライフ商会が掲げる社訓である。

 人一人がこなせる仕事量はどれだけ才能の差があったとしても限界がある。

 24時間365日働ける人間などいないのは当たり前。

 ましてや、勤務時間が限られているの中で許容量を超えた仕事を与えて、期限内に出来なかった場合のリスクを考えると限界より低いラインを割り振るのは至極当然といえる。

 それを行い管理するのが名の通り管理職なのである。

 さらに言えば、その管理職を管理するのが人事の仕事ともいえる。

 どんなに下が有能でも上が使えなければ無能と変わりなくなってしまうからだ。


 クライフ商会ではその点を徹底していた。


 一人一人に余裕があれば、誰かが急用や事故や病気で休んだとしてもカバーが効く。

 仕事を消化するのに滞りがない状態を維持する。

 大きな事は出来なくとも、請け負った仕事は決められた期限内にキッチリ終わらせる。

 それが信頼となり次の仕事を呼び込む。

 クライフ商会として約30年。前身の商店時代も含めると約50年もの間、安定した経営ができるのは、ひとえに人を社員を大事にしているからに他ならない。


 今は勇退した先代会長アレクセイ・クライフは、何故商会をもっと大きくしないのか?という息子レオナルドの質問に対し、こう答えた。


「商会を大きくするのは難しいことではない。より多くの人を雇い、より多くの人により多くの商品を売ればいい。

 だが、大きなまま維持するのはとても難しい。

 商会は内外多くの人で成り立っている。商会が大きくなればなるほど、長として並々ならぬ努力と才能と運が求められる。

 俺はどんな努力も惜しまぬ自信はあるが、そこまで大きな商会を率いる才能があるのか?と言われれば自信がない。冒険者上がりの商人としては今の地位も出来過ぎなくらいだ。

 そして運だが・・・どうやら妻との出会い、そしてお前との出会いで大方使い果たした様だ。

 これ以上の幸運は贅沢ってものだ。

 商売ってのは生き物だ。今の状態がこの先も続く保証はない。

 少なくとも俺の代ではこれ以上大きくしても無理が出る。そのしわ寄せは部下である商会員達に及ぶだろう。

 無理をした商会の末路は悲惨なもんだ。

 例えば、厳しいノルマをこなせずクビを言い渡された者。割り振られた多くの仕事をこなそうとして身体や精神を病んでしまった者。将来を望んだのに理想と現実の差に打ちのめされ辞めた者。ある意味、商会にそれまでの生活が壊された者達。 

 最悪なのは自ら命を絶つ者。そういった者達を多く生み出しちまう。

 俺も全ての人を幸福にできるとは言えないが、それでも自ら不幸を生み出す事の無いようにという信念で動いている。

 だから俺は商会を大きくして、そんな不幸な者を生み出す位なら今のままでいい。

 そう思うことにしたんだ。臆病なだけかも知れんがな・・・」



 不慣れに微笑む父の言葉にレオナルドも納得して自身も父の教えを守っている。

 ミシェルもまた祖父の言葉に敬意を払う一人だ。

 クライフ商会でも離職者はいるが、単純に仕事が合わずに辞めた者がほとんどで、あとは個人的な理由となっている。

 上位はもちろんのこと、王国全ての商会の中でもクライフ商会の離職率の低さは抜きんでている。

 限られた人員の中で出来る事を常に考える。

 だからこそミシェルは、誰が何をできて何ができないのか。趣味嗜好に、どんな思想を持ち、どんな優先順位で動いているのか。人そのものの観察、情報収集を日常としていた。

 その情報は人事に活きる。

 ジグソーパズルの様に1つ1つが正確に嚙み合った様な人員配置、ミシェルの采配はクライフ商会の存在を1つ上へと押し上げた。


 これはまだ始まりである。


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