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第1回 双竜会談

メートル法なのは自動翻訳が正常に働いている証拠です!

そう。決して新しい単位を考えるのが面倒だったわけじゃない。

面倒だったんじゃないんです!(大事な事なので)


 ドアの前で控えていたメイドに声をかけて、ミシェルは貴賓室のドアをノックした。

 どうぞ。と中からダレスの声がしたので、一呼吸入れて入る。

 ここから先は聞かれて困る内容になるので、案内役のメイドは通常業務へと戻す。

 まだ20代前半の若いメイドで、1人で来訪したミシェルを見て、


(1つの部屋に若い男性が2人きり。滾ります)


 と、恍惚の表情を浮かべて呟いていたので、


(クビにすっぞ)


 と冷たくあしらっておいた。

 王都からの流行りらしいが、健全な少年を巻き込まないでほしい。心底呆れ果てた真顔で、ミシェルはメイドの背中を見送った。


「お待たせしました」

「いや。俺もさっき案内されたばかりだ。案内役の彼女が俺を、好意でなく好奇に満ちた目で見ていたのは気のせいであって欲しいが」


 ミシェルは肯定も否定もできず、乾いた笑みを浮かべるしかできない。


「まぁ、いい。座れ。答え合わせといこうか」


 ダレスに促され、ミシェルは対面のソファーに座る。


「家族にはどこまで話した?」

「帝国と共和国が戦争を始める事。クレタミラ王国が仲裁役として巻き込まれる可能性があること。

 将軍が駆け足で商会に訪れたのは、王国が巻き込まれた場合、準備期間がギリギリであるから。と説明しておきました。隣国で戦争と聞いて、顔色を悪くしてましたよ」

「それはそうだろう。王国周辺での戦争など、何十年と無かった事だからな」


 しかも、巻き込まれる可能性まで言及されては、顔色ぐらい変わるだろう。


「で、君の見解は?」


 ダレスの表情は、出来の良い生徒を見守る教師の様だ。


「結論から言えば、今回の件は帝国の自作自演。でしょうね」

「どうしてそう思った?」


 ミシェルは、持参した大陸地図をテーブルに広げる。


「ガラネアがここ。共和国軍が装甲竜(アーマードラゴン)を討ち漏らしたのがこの辺り。随分と離れています。竜の討伐とはいえ、軍は国境を越えられません。国境の警戒魔法に引っ掛かりますからね。で、あれば。装甲竜がガラネアを壊滅させている現場を、共和国軍は見ていた訳ではないでしょう?」


 ダレスは無言のまま聞き入る。


「壊滅したガラネアを見せて、装甲竜がやった。と言えばそれまでです。討伐した装甲竜の亡骸があれば尚良し。といった所でしょうか」

「根拠はあるか?」

「死傷者の数とその内訳です」


 その答えにダレスの口角が少し上がった。


「死者が約200名に負傷者が約1500人でしたか。町が壊滅したにしては数が少ないです。記録に残っている竜災で最も犠牲者が少なかったのは、西大陸の『フライアラ聖国』の都市『グレイアラ市』の約7千人。やったのは装甲竜より格下の兜竜(ヘッダードラゴン)で、それですよ。

 常駐していた防衛隊が奮起したにせよ、予期せぬ装甲竜の襲来にどこまでまともに戦えたのやら。

 で、死者の内訳を見れば一般人が殆どいません。装甲竜の強襲を受けてコレは無い。ブレスの1つでも吐かれれば、桁違いの犠牲者が出ているはずです。まぁ、ブレスを吐かなくても最大全長30メートルを超すタングステンの塊です、普通に歩いただけで町の一画が更地になってもおかしくない」


 ミシェルは再度、地図のガラネアを指差す。


「初めから兵士以外いなかった。と考えれば辻褄が合います。そして、死者が本当に帝国兵かも怪しいですね」

「兵でなければ何だ?」


 ダレスの口角がさらに上がる。


「死体が軍服を着ていれば誰でも兵士に見えますよ。正体は終身刑の犯罪者。犯罪奴隷。鉱山奴隷。市民権の無い貧民街の住人。この辺りかと」

「それで共和国が誤魔化せるか?」

「共和国側が帝国兵の顔を全部知ってるなら無理でしょうが、瓦礫に埋もれた町で五体満足な死体は少なかったでしょう。心配なら顔を潰しておけば後はどうとでも」

「若いくせに考え方がエグイな」


 ダレスは複雑な感情でミシェルを見据える。


「概算であれ、死者数が把握できたのは意外でした。共和国の検分役がよほど真面目だったのか、適当だったのか・・・」

「顔触れが変わってなければ担当者はクソ真面目な奴だよ。一応は俺の血縁だ・・・」


 嫌な事でも思い出したのか、ダレスは渋い顔をする。


「血縁・・・ですか?」

「俺の名前、ダレスだろ?生まれはダレスミラなんだよ。共和国じゃぁ良くある名前なんだ。ちなみに、その担当官は俺の従兄弟だ」

「あれ?ブライブラン家は王国でも由緒ある軍属家系だったと記憶してますが?」

「嫁が直系で、俺は実家から婿入り」

「なるほど・・・」

「今回の件もその方から?」


 ミシェルは鎌をかけてみた。


「まだ答え合わせの最中だぜ」

「ちぇっ」


 お見通しである。


「まぁ、あいつが担当して査定を誤るとも思えん」

「取り敢えず、検分はきちんと行われていて被害も正確に把握している。と」


 ミシェルはあごに拳を添えて考えた。


「もしかして・・・すでに共和国から調停の依頼が来てます?」

「・・・」


 ダレスは目を見開いた。


「というか、国王陛下に話を通す代わりに査定の情報を受け取ってますよね?」


 ミシェルの視線は地図に向けられたまま、独り言の様に呟いている。

 ダレスは黙ってミシェルを見ている。


(それだけ正確に被害を把握していながら、2国間交渉が決裂・・・。僕が帝国の自作自演と思ったのは死傷者の数からの逆算だったけど・・・)


 大陸地図をもう一度見直して、ミシェルは目を細めた。


「閣下。ヒントください」


 満面の笑顔で問いかける。


「じゃぁ、ここから証明という訳かな」

「そんなところです。僕が集めた情報だけだと推測の域を出ませんから」


「では、1つ目のヒントは賠償額。帝国は共和国の国家予算の2倍の額を請求した」

「それは交渉決裂も当然ですね」

「2つ目のヒント。皇帝はこの件に沈黙を守っている」

「現皇帝は執政に定評のある人物で、覇道を歩む様な方ではなかったはず・・・うーん」

「3つ目のヒントはいるかな?」


 ミシェルは再び顎に拳を添える。


(装甲竜の進路。ガラネアの壊滅。犠牲者の数。帝国の請求額。故意の交渉決裂。国境での軍の睨み合い。王国への調停依頼)


「閣下、質問です。装甲竜(アーマードラゴン)の消息は?」

「壊滅したガラネアに残っていたのは鱗と足跡だけだ」


「やっぱりそうか・・・」


 ミシェルは大陸地図の1点を指差した。


「本命はココですね。クレタミラ王国北方にある三国国境。『トライポイント』」


 ダレスは大きく溜息をついた。


「ハズレですか?」


 ダレスは手で顔を覆い天を仰ぐ。


(ウチ)の諜報部が、1週間寝る間も惜しんで辿り着いた答えにヒント3つで辿り着くかよ・・・。マジでお前が欲しいんだが」

「気持ち悪い言い方しないでください」


 あのメイドがいたら絶頂してそうだ。


「共和国はいいように踊らされてる訳だ。まぁ、止めを刺したのは議会で国の自尊心(プライド)を持ち出したバカだがな。アイツも珍しく激高してたぜ」

「議会制の悪い所ですね。帝国も上手くいきすぎて面食らってたと思いますよ」

「まったくだ。交渉決裂の時点で共和国が調停に踏み切ってくれてたらな。帝国にとって一番厄介だったのは、早々に王国に調停役を引き受けられる事だったはずだ」


 ダレスは腕を組んでソファーへ深く座る。


「両国が軍を展開した時点で王国も軍を出さざるを得ない。そして、ぶつかるのは三国国境」

「長引くでしょうね・・・」

「だろうな。先に攻めた方が貧乏くじだ」


 帝国の目的は、3すくみのこの状態にもってくる事。


「で、帝国は悠々と西側で『聖国』にちょっかいをかける・・・と。どうしたんですかデュラン皇帝は。まるで人が変わったようじゃないですか」

「変わったんだろうよ。聖国の女帝にご執心みたいだからな」

「色恋沙汰で戦争かよ・・・」


 色々とバカバカしくなってミシェルの口調も荒くなる。


「ん?・・・おい。ミシェル。何で帝国が聖国にちょっかいをかけると知っている?俺はそこまでのヒントは出してないだろう」


 危うく聞き流す所だった超機密事項。ダレスは前のめりでミシェルに詰め寄った。


クライフ商会(ウチ)には大陸全土を駆け回っている冒険者チームがありまして・・・」

「お前ら・・・商人だよな?」


 正直。今のダレスなら彼等は王国お抱えの密偵で、クライフ商会は隠れ蓑だと言われても納得する。


「商人だからですよ。情報はどんな武器に化けるか分かりません。おばあ様も同じことをしていますが、僕はもう少し掘り下げたとこまで集めているだけです」


 齢14。自分の半分ほどの年齢で、己と同じ高みの景色を見ている少年。流石のダレスも背筋に冷たいものが走った。



話の整合性とるの大変だったなぁ。大丈夫かな。

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