彼は商人冒険者
夢で見た内容が面白そうだったので書くことにしました。
「皆さんありがとうございました」
笑顔の青年は深々とお辞儀をして感謝の意を述べる。
その声を合図に、控えていた執事らしき初老の男性が、小振りな革袋を少年の前に並べた。
「こちらがお約束の報酬です」
青年の言う『皆さん』。10名の冒険者は1人1つ革袋を受け取り、その中身を見て驚き、そして喜んだ。
中身はぎっしり詰め込んだ金貨。その数は100枚もあり、大人が数年は遊んで暮らせる額である。
「では契約通り、僕は手柄だけ頂きますね」
にこやかに微笑む青年に冒険者達は誰一人文句を言う者はなかった。
契約を結んだから、という事もあるが、それ以上に受け取った報酬が破格だった為だ。
当初の報酬の10倍。それも、食料や薬品などのアイテム、武器のメンテナンスに移動や宿泊などの諸経費全てを彼が用立てた上での額である。
道中で獲得したアイテム、倒した魔物の素材なども全て冒険者に譲り、彼の懐には一切入らない。
青年が欲しいものはただ一つ。この依頼を達成したという実績。つまり手柄だけである。
満足気に帰った冒険者達を見送った後、青年は部屋まで戻ると懐からカードを取り出して顔を綻ばせた。
「ああ、Sランク。ついに念願のSランクです!」
青年はカードを天にかかげるとクルクルと回り始めた。
初老の執事はその様子を、表情には出さないものの呆れて見ていた。
「ミシェル様。浮かれるのはそこまでにしておきましょう。本日の予定がございますので」
執事が手帳を取り出すと挟んであったメモをミシェルに渡す。
「ん?この件は3班に任せていたハズだが?」
「それが。先方からミシェル様直々にと言われたらしく、現場も困惑しております」
ミシェルはあごに拳を添えてしばし考えた。
「行こう。どうやら3班には荷が重かったらしい」
(向こうも格下とはいえ同業者か)
突然の面倒事ではあったが、ミシェルの顔には笑みが浮かんでいた。
「嬉しそうですなミシェル様」
「そうか?そうかもな。僕の予測を上回ってくる者がいる。いやはやこれだから世界は・・」
その先は胸の内に秘め、ミシェルは指示を出す。
「バックス、馬車の用意を。後、僕の装備を第1種で組んでくれ」
「!」
その指示に驚いたのは一瞬。バックスは静かに頭を下げた。
経過年数やエピソードの時系列からミシェルを少年ではなく青年と修正しました。