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ティアナの誕生日パーティ② エイダンSide

 もの凄い声が届いたかと思った瞬間、僕の身体が空に舞い上がりスローモーションのように地へと落下していった。


「――ふべっ!?」


 一瞬の内に身体中に何発もの拳を受け、数メートル先へと吹っ飛んだ僕は自分の身に何が起こったのか理解出来ずに居た。身体中に痛みが走って顔を歪めていると、その首筋へ剣先が付きつけられた。


「ひぃいいいっ!?」


 剣先を突き付けて来た相手を見やると、目の前に地獄の鬼のような形相をしたティアナの兄であるタクト・ローゼンが居た。その後ろにはアルスト殿下の腕に包まれまくっているティアナの姿が見える。


「ティアナに手を出すとは、お前死にたいんだな?」

「そ、そっちこそ、他国の王族にこんな事をして気は確かなのかっ! 戦争になるぞ、分かっているのか!」

「何を馬鹿な事をほざいているんだ。ローゼン家を敵に回したが最後、小国でしかないグラリエット王国なんか一瞬で消えるぞ」

「……っ!」


 タクトの言葉に僕は次の言葉が出なくなる。確かに我がグラリエット王国は、大国であるオルプルート王国とは比べ物にもならないくらいに小さな国だ。だ、だけど、それでも僕は一国の王子だ。ただの公爵家令息と比べるまでも無い筈……。


「し、しかし、あれではティアナが可哀想ではないか。無理矢理がんじがらめにされて辛いに決まっている! だったら僕と結婚した方が幸せになれる筈……」

「あ? ティアナの何処が可哀想だというんだ。アルストはあんな変態王子だが、そんなアイツを愛しくてたまらないってオーラがティアナの全身から出ているだろうが!」


 周りから「変態……」「殿下が変態……」とザワザワと声が漏れ出ている。え、アルスト殿下って変態なのか!? マジで? エスメイジー姉上も青い顔をしながら「変態……うそ……アル様が変態……」とブツブツと呟いている。


「ちょっと待て! 変態なら尚更可哀想じゃないかっ!! そんな変態王国にティアナを置いてはおけないよ!」

「アルは変態だけど悔しいが王子としては完璧なんだよっ! ティアナの伴侶として唯一おれが認める相手はアルだけだ。お前みたいなアホじゃないっ!」

「…………そこまでだ、タクト、エイダン王子」


 いつの間にかアルスト殿下がティアナの肩を抱いたまま近くに寄って来ていた。眉間に眉を寄せて、大きな溜息をついている。アルスト殿下の登場に、僕に付きつけられていた剣先がようやくおさめられた。


「まったく…… 衆人環視の中、人の事を変態変態と連呼しやがって」

「あ、ヤベっ……つい、本音で喋っちまった」

「大丈夫ですわ、殿下はカッコいい変態ですもの!」

「えっ、ティアナまで私の事を変態呼びするのかい!?」


 何故かティアナまでもが変態と認めてしまって、少し項垂れるアルスト殿下。


「ティ……ティアナは変態が好きなの? 僕より変態がいいって事……? 僕は変態に負けたのか……? 」

「変態が好きなのではなくて、アルスト殿下が好きなのですっ! わたくしがお慕いしているのはアルスト殿下だけですわ」


 キッパリさっぱりと振られてしまった。目の前が真っ暗になりそうだった。ティアナは絶対に苦しんでいる、だから僕が助け出してあげて結婚するんだ……ずっとそう思っていた。


「ようやく少しは自分の状況が理解出来ましたか、エイダン」

「は、母上…………!?」


 集まっていた人たちがまるで花道を作るかのようにサッと左右へと分かれ、その間からグラリエット王国の王妃である僕の母上が現れた。このオルプルート王国の元王女であり、現オルプルート国王の妹だ。


「どうしてここに……」

「私もティアナ嬢の祝いにお忍びでやって来たのです。貴方達二人の馬鹿な振る舞いは甥のアルストから報告は受けておりましたから、きっと何かしでかすと思い隠れて見ていたのですよエイダン、エスメイジー」


 名前を呼ばれた姉上はビクッと身体を震わせて固まった。僕も母上が怖くてまともに顔を向ける事が出来ない。


「国の方針で貴方達の教育は乳母に任せたけど、間違っていたわ。これからは私自身が貴方達を教育し直します。明日の朝の出立までに今すぐ部屋に帰って荷物をまとめなさい」

「そんなっ……まだ留学中です母上!」

「そ、そうですわ、まだ帰りたくありません。アルスト殿下が変態なのは正直ガッカリでしたけど、別の殿方を射止めるまでは私は帰りま……」

「お黙りなさい!!」


 鋭い声がホールに響き渡る。なんとか帰らないで済むように訴えていた僕も姉上も一瞬で押し黙る。あまりの恐怖に姉上の瞳からは涙が溢れそうになっている。


「……ティアナ嬢、アルスト、それから皆様方。愚息たちが迷惑を掛けました。本当に申し訳ありません」

「いいえ、もう大丈夫ですのでお気になさらずに」

「私の躾が至らず、ご足労をお掛けして申し訳ありません叔母上」

「アルストはよくやってくれたと思いますよ。この子達の世話は大変だったでしょう。このまま引き取って帰りますので、後は宜しくね」


 母上はローゼン公爵夫妻と共に廊下へと続く扉へ向かい、僕と姉上もローゼン家の護衛騎士たちに囲まれながら母上たちの後を追った。途中で母上とローゼン公爵夫妻は応接室へと向かい、僕と姉上は王城へ向かう馬車へと押し込められて翌朝グラリエット王国に強制的に連れ帰られてしまったのだった。


◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆


 自国へと帰ってからは国一番厳しいという学園へと編入させられ、学園の授業が終わった後は夕食の時間まで城で鬼のような教師たちに教養やマナーを改めて一から叩き込まれ、姉上と僕は毎日泣きながらその教育を受けている。下の弟たちも僕たちのとばっちりを受けて、一緒に厳しい教育へと変更されて「兄上たちのせいだ!」と泣きながら文句を言われ続ける毎日だ。姉上は性格の矯正が無理だと判断された場合は修道院送りにされると聞いていて、死にもの狂いで号泣しながら授業を受けている。


 国王陛下である父上からも、こっぴどく叱られた。「あのローゼン公爵家を敵に回すなど国を滅ぼす気か」「アルスト殿下を怒らせただけでも恐ろしいのになんて事をしでかしたんだ」「親戚でなければアルスト殿下の指先一つで国が消滅していた」などど言われ、今回の騒動の罰として王太子の座を下の弟へと明け渡す事になってしまった。


 僕が納得出来ずに文句を言うと「廃嫡されなかっただけマシだと思え」と冷たくあしらわれてしまい、更に母上からは宰相の一人娘であるヴァイオレット・シリル公爵令嬢との婚約を結ばれてしまった。女公爵となる彼女の元に僕が婿入りする事となる。ヴァイオレットとは幼馴染だが、既に社交界で君臨している彼女の事はもの凄く苦手だ。昔から僕に色々と煩く苦言を呈してくるし、頭が良くて僕を見下げて来る女だ。


 ある日、ヴァイオレットと母上が城でお茶をしている所を偶々通りがかった時。「迷惑を掛けますね」「大丈夫ですわ、エイダンの事はわたくしが徹底的にしごき上げますから安心して下さい。勿論浮気は認めませんし、エイダンの顔は好みですから立派な夫にしてみせますわ」なんて会話を耳にしてしまった。ふわふわとした天使のようなティアナとは真逆なヴァイオレットとの未来に、僕は恐怖するしかなかった。

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