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スイーツ食べてただけ

 アルスト殿下への挨拶も終わり、あたしはお目当てのスイーツ達を順番についばんで満面の笑みを浮かべていた。あぁ、美味し〜い! すぐお腹いっぱいになっちゃうから少しずつしか食べれないけど、何て幸せなんだろう。


 今日は殿下の婚約者選びも兼ねているとか聞いてはいたけど、それどころじゃない。だってこんなに素敵なスイーツが沢山あるんだもの。目移りしてしかたない。あたしはスイーツを食べる事に忙しいのだ。


「クスッ…クリーム、付いてるよ。」


 ふいに耳元で囁く声に横を向くと、アルスト殿下の綺麗なお顔が間近にあった。


「!?」


 驚いてる間もない内に殿下の指が伸びて来て、あたしの口元辺りをそっと拭った。そしてその指に付いた白いクリームを自分の口へと運……ばずに、何故か愛おしそうに香りを嗅いでいる。


「…!?」

「(クンカクンカ)はぁ〜……(ティアナ嬢の香り付きの)甘い匂いが美味しそうですね。このまま大事に取っておきたいけど仕方ない、食す事にしましょう。」


 ――――ぱくり。


 ようやく口に入れた殿下は何事も無かったかの様に涼やかな笑顔でこちらを見た。


「やぁ、ティアナ嬢。さっきはあまり話す時間が無くて悪かったね」

「は……はぁ……」


 あたしは何が起こったのか未だに分からず半分固まっている。


「全く、タクトには困ってしまうよ。屋敷に訪ねても全然ティアナ嬢に会わせてくれないのだよ」

「えーと、殿下?」

「ん、なんだい?」

「……大変失礼ながら、さっき、わたくしの(口元に付いた)クリーム食べました? (というか、匂い嗅いだ?)」

「いや、食べてないよ?」


 凄く素敵な笑顔で応えるアルスト殿下。


「そ、そうですか。……そうですよねーあはは」

「うん、そうだよ。見間違いさ」


 いやいや、いやいや、この殿下(ひと)食べてたよね?てゆーか、匂い嗅いでましたよね。


「で、ティアナ嬢。今からが本題なんだけどね」

「はい、何でしょうか」

「私の婚約者は君に決まったから宜しくね」

「は?」

「もう父上には(一年前から)許可を頂いているから、後日正式な書類を君の屋敷に届けるよ」

「え、ちょっ、殿下?」

「大丈夫、ちゃんと一生愛して幸せにするから心配しないで」


はい? ……あ、愛!? てか、婚約者に決まった? あたし黙々とスイーツ食べてただけなのに?


 言いたい事だけ言い終わると殿下は、それはもう幸せそうな花を周りに振り撒きながら去って行ってしまった。残されたあたしは、スイーツの載った皿を手にしたまま呆然とその場で佇んでいた。


………え。あたし、殿下の婚約者になったの? な、何でー!?

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