ハリケーンと救助
「機関始動、エネルギー推力上昇中」
この機関はエネルギーを取り出して推進やエネルギーへと変換するための物で機関と言う言い方は当てはまらないが便宜上そう言っていると言うことだった。
「これで大本のエネルギーの消費はナインゼロワン以下ですから」
この技術もオーパーツらしく説明は受けているがなかなか理解に苦しんでいる。
自己診断を終え自分の前のチェックパネルを確認して脳内ダイレクトラインでチェックを入れて滑走路の先端にあるゲートが開かれる。
「補助出力40%で500mからテイクオフ出来ます」
通常では大型ジャンボでは2000mはと言うことだが圧倒的な出力とリフティングボディーにより可能となっており私は補助出力を40%まで徐々にあげ速度を規定まであげ空へと飛び上がった。
大きく左へと傾けながら上昇を続け出力もあげていく、
「上空8000mまでこの竜巻が続いているのか」
画面には上まで続いている風の層が高速で回転しており海にもそのまま落ちて渦を巻いておりその外の偽サンゴ礁の内側は侵入するものを拒んでおり、その中心にオーパーツである人工島があり基地がわりとなっている。
「メインエンジンに出力移行、そら(宇宙)へと上がります」
8000mでは同じ様に乱気流で蓋をされておりメイティスが通過するときに少しだけ弱まった感じがしないでもないがメインエンジンの出力で一気に突破した。
そしてそこには黒い画面の向こうに輝く星がきらめき思わず見とれながら地球の周回軌道に表示されている人工衛星やデブリ等が表示されその軌道を通過し慣性航行に切り換えた。
「宇宙だ」
「ロケットの推進材を使わずに、わかってはいましたけど実際体験するとこの技術はまさしくオーパーツですね」
レグルスに同意しながら周囲の情報を集める。
「さっきから軌道変更している衛星が」
「気を付けないと大国がアンノウンとして攻撃をして来る可能性が、ジャミングでセンサーを無力化しましょう」
そうすると軌道変更が途中で止まり変更途中の軌道で周回していき地球の裏へと移動していった。
「さて、ハリケーンが発生中、操ってみましょうか」
レグルスがアメリカの南に発生した超大型のハリケーンをプロットしその中での機体の影響と私に対する訓練をいきなり行うと言うことらしく大気圏へ降下を開始する。
画面に降下軌道が表示され真っ直ぐハリケーンへと定められておりその通りに進路を変更して降下した。
「大気の摩擦がこんなに高温に」
映画などで見たことはあるが実際の色はもっと白に近い赤でスクリーンに写る。
「自由落下ではなく強制噴射で急角度で降下しているからな、テストの一環だが外装に問題なし」
そう言うと自由落下での軌道が表示されこんなに狭い上下幅でないと浅ければ押し返されて予定の航路で侵入できず、逆に深い場合は大気の摩擦熱でオーバーロードで燃え尽きてしまうが、メイティスは問題なく急角度でスペースシャトルの様に下部で熱を受けるわけではなく航空機の降下のように機首の部分を先頭に降下を問題なくしていた。
「風速は80m以上を観測している」
カリブ海から北上しているハリケーンのメリーは相変わらずの勢力を保っており900ヘクトパスカルを下回り風速は家の窓を怖しコンテナを吹き飛ばす程の風でこの中を航空機が飛べば失速して墜落するが、
「こんな中で」
「航空機でない宇宙船だからな、ようはスラスターがあるから強制的にベクトルを変更できると言うことだ」
私の不安を見越したレグルスが言い本来は翼がなくてもエンジンの推力だけで飛び続ける事が出来るので先ずは経験と暴風雨の中に突入した。
「先ずは周回軌道で決まったポイントを通り抜けましょう」
スクリーンにポイントが表示され機関の出力をレグルスが私の補助エンジンの出力に合わせて調整してくれる。
「メインも使って問題ありません」
そう言われて大気圏内メインの補助だけを使うことしいかなかった私に言ってくれ耳が赤くなるのを自覚しながら暴風雨を切り裂きメインエンジンで加速しスラスターで進路を変更していく、
「良いですね、今度は降下と上昇も」
問題なく最初の課題をクリアーした私に次の課題を出してくる。
8000mから一気に目標のポイントは500mまで落ちており船首のスラスターを上に吹かして急降下を行う、パイロットシートとスーツに対G緩和の機能がついているがそれ以上に私の操作が荒くGをかけたらしく意識が飛びそうになるのをとどまる。
「それも必要ですが今度はそこまでかからないように」
そう言いながら上昇と下降の航路が表示され大きくロールさせながらGを緩和するラインで行う、
「良いでしょう」
そう誉めてくれたが次々と課題を出され何時間たったのだろうか疲労を自覚していると最後の課題と表示される。
「ポイントは点で高度50mって10分間とどまるって」
海面ギリギリの場所を表示してありレグルスを見ると肩をすくめながら口許だけが笑っていた。
「出力を絞るととたんに風の影響を受ける」
メインと補助を絞ってポイントに降下すると風の影響を受け右や左そして上や下から風が巻いており、急に降下してスラスターを吹かすと次の瞬間上昇する風が機体を押して数百m持ち上げられ慌てて上にスラスターを吹くと斜め右下に機体が流れ落ち画面に黒く飲み込もうとしてくる海面が広がり舌打ちし下方向へスラスターを吹かした。
「これでどうだ」
息切れをしつつカウントがようやく10分を表示した。
「代わります」
「了解」
両手の力を抜くとレグルスは出力を優しく上げながら同じ様にとどまる。
「目の前だけじゃなく風の予測も表示させて先に吹かしてやればもっと安定します」
先程のGが嘘のように最小限だけ吹かしながら止まっているレグルスの操作技術にあっけにとられた。
「経験の違いってやつですよ、まあ最初にしては上出来と言うところでしょうね」
お世辞でなく誉めてくれたのはわかるが見せつけられ不安になるがレグルスがこちらを見て、
「おやっさんが認めたんですから経験を積んでいけば問題ないですよ」
そう言ってくれパルスがコントロールスティックの横にドリンクボトルを出してくれストローで飲みながらレグルスの操作を見続けた。
「SOSを探知しました」
パルスが地図上で表示して知らせてくる。
「こりゃ沿岸部で漁船でしょうかね、どうしますか」
レグルスに聞かれ頷きながら、
「訓練もかね救出に向かう」
そう言って操舵を代わり現場に向かった。
「エビ取り漁船でしょうかね、3名を確認」
センサーで関知していると船員だろうか表示される。
「こちらメイティス、漁船応答せよ」
「こちらジェーン号、救助を頼む電気系がショートしてエンジンが停止してしまったんだ」
「了解、貴船の前方200mにいる。救助を行うので待っていてくれ」
私がそう言うとレグルスが立ち上がり後部の格納庫に向かう、私は脳内ダイレクトラインに接続し風の予測を見ながらジェーン号の真上に降下しながら操り、後部の格納庫ハッチが開かれガイドワイヤが下に向けて発射され甲板に刺さる。
それを確認するとレグルスは信頼してくれているのか迷いなくワイヤの自動フックで降下を行い暴風のなか甲板に降り立った。
「指示にしたがってこちらへ乗り移ってくれ」
そう言うと3名は甲板に出てきてレグルスが巻き上げ用の装備をそれぞれにつけさせ次々とあげていく、
「ノブ、どうやらもう一人機関室に残っているにがいるらしい救助する」
そう言うと船内に向かい私はジェーン号の上でメイティスを保持する。
「暴風圏内に入りました」
パルスが報告してくるのと同時に風速40mだったのが徐々に上がり始める。
「60mを越えた。レグルスまだか」
「破損した機材の下敷きになってます。もう少しでどけることができるので」
そう言われて大きく深呼吸をして、
「任せろ、とどまってやる」
そう自分にも宣言しスラスターを3次元で吹かしながらワイヤーが切れないように適度の張力に収まるように操作し耐えた。
「今から上がります」
どのくらいだろうか感覚的には時間がかなりたった感じはするが時計を見ると5分もたっておらずレグルスの作業の早さに感謝しながら風速が先程練習した80mを越え漁船は浮かんでいるとはいえワイヤーで吊るされていたが高波で船が何度も飲み込まれ顔を出す。
「こりゃ」
「問題ない上がってこいレグルス」
自分に言って聞かせたのかそう言いきると威勢良く返事がありワイヤーに二人が吊るされ上がっていき格納庫に無事たどり着くとワイヤーの先端の返しを戻してジェーン号から離れた。
船は何度か高波に飲み込まれ消えていき私はそのまま船内を移動しているレグルス達の事を考えながら上昇して雲の上に飛び出した。
「ご苦労様です。パルス、キャビンのお客さんに温かいものとタオルを」
そう言いながら副操縦士シートに入った。
「航空機は3機、1機は気象庁の観測機だが、もう2機はXXXのシークレットナンバー」
雲の上に上がると2機が東西から挟み込むように接近してきており私は、
「こちらメイティス、貴国の漁船ジェーン号の乗組員4名を救助した。引き渡したいので誘導を頼む」
そう言うと2機は沈黙していたが、
「こちらNASA、ケープカナベラル空港に着陸されたし、ただし天候は最悪だが」
「応答に感謝する。天候は問題ないので着陸する」
そう言って進路を変更して暴風雨から外れているが巨大なハリケーンの中にはかわらないマイアミのロケットの打ち上げ施設がある空港へと降り立った。