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妻を愛している父さん


『緊急侵入者警報、緊急侵入者警報、騎士団員は直ちに所轄の上官に指示を仰ぎ対応をしてください――緊急』


 アラートとともにアナウンスが延々と流れる。


 ミシマは慌てながら部下の胸ぐらを掴む。


「な、何が起こったんだ!! この騎士団詰め所は鉄壁の防犯を誇る、侵入者などありえん! ぜ、前代未聞の不祥事だ! 貴様ら、早く侵入者を確保して隠蔽するぞ!」


「忙しいようだから俺は帰る。――タケシ、馬車を頼む」

「マジか……嫌だって言っても乗るんだろ?」

「ああ、メグミも適当に放り込んでおけ。俺はこの魔族を――」


 安らかな顔で眠っている魔族と猫を抱きかかえる。

 メグミは状況を理解していなかった。


「え、っと、わ、私……いいの?」


「知らん、ここは危険だ。勝手にタケシの後を付いてこい」


 メグミが素早く立ち上がると、騎士団員が慌てて部屋に入ってきた。


「た、大変です! 侵入者は指名手配中の【結社】の幹部、不滅のナンバーゼロです! 」

「はっ!? な、なんで結社が出てくるんだ! あいつらは行動が謎過ぎて理解できん……。くそ、バカモン! さっさと殺せ!!」

「そ、それが、一個小隊を瞬時に壊滅させるほどの戦闘力で――」

「結社の連中は戦争以来だ……。しかもとんだ大物が来やがったな。俺が出る、貴様ら配置に付け!! 一般職員の避難は終わったか!」

「は、はい、あと数分で完了します」


 ミシマは俺を一睨みして、慌ててこの部屋を出ていった。




 俺達も出口を目指す。

 騎士団詰め所はあちこちで阿鼻叫喚の声と爆音が響いていた。

 廊下では妙な仮面をかぶった男が重装備で大剣をふるいながら、悠然と歩いていた。


「な、なんだこいつは!! なんで死なない!?」

「ひ、怯むな! ダメージは入っているぞ!」

「魔法を吸収するだと!? あいつの剣を壊せ!! あれは魔剣だ!」

「なんで結社はいつも騎士団の嫌がらせをするんだ! 何の恨みがある! おい、陣形組むぞ! 対ランク外ボス戦の陣形だ!」


 父さんが何で結社を作ったか理由は知らない。

 父さんが何で力を隠して騎士団にいるのか俺は知らない。

 だけど、俺は父さんが正義の味方だって知っている。


 スラムの師匠の元パーティーメンバーであり、結社の創業者。

 結社の目的はわからないけど、父さんは俺を一人で育ててくれた大好きな父さんだ。


 あんな変な仮面を着けて、いい大人が秘密結社なんて言ってるけど、それでも父さんの事は嫌いになれない。





 タケシが俺の袖を引っ張る。

「お、おい、やべえよ。結社って頭おかしい連中の集まりだろ? 女神教の信者と同じくらいキチって噂じゃん……」


「大丈夫だ。父さんは正義の味方だ」


「はっ? え、何? ……よし、俺は何も聞かなかった事にしよう。ほら、魔族ちゃんも顔色悪いから早く行こうぜ」



 俺の水晶がブルブルと震える。

 父さんからメッセージが着た。俺の視線の向こうでは水晶を弄りながら騎士と戦っている父さんが見える。


『あとはツバサの好きにしろ! 父さんは消えた母さんを救いに、ちょっと世界樹まで行ってくるわ! やっと手がかりを騎士団の中で手に入れてな。……絶対二人で戻ってくる。だから心配するな! 学園楽しめよ!』


 ……世界樹ってどこだ? おとぎ話でしか聞いたことない。

 俺は戦っている父さんに向かって小さく頷いて、外へと向かった。





 外では、スフレを囲むように父さんの同僚である辺境騎士団と、元同僚である南地区騎士団の面々が揃っていた。

 辺境騎士団長が俺に声をかける。


「ああ、ツバサ君、久しぶりだね。……全く、君の父さんに押し付けられたよ。この場は私たちに任せなさい」



「ツ、ツバサ、怪我はない! もう、いきなり連絡が来てびっくりしたです。し、知らない人と話のは苦手です。わ、私、ぼっちだったから通信の使い方むずかしくて……」


 スフレが知らない人に囲まれて気まずそうに人見知りを発揮している。なんだか可愛らしかった。


 俺は辺境騎士団長の水晶に動画を転送する。


「はい、これ、証拠の動画です。違法の人体実験と一般市民への殺人未遂です。……父さんが残してくれた不正の証拠には負けますが、足しにしてください」


「任せろ、ツバサ君、失踪した君の父さんの仇を取ってやる。君の父さんが残した爆弾であいつを社会的に抹殺できる。それに詰め所には違法取引の品物があるはずだ。騎士団は変革が必要なときになった。政治に邪魔されず、国民の平和を守るために――」


 話が長そうなので、俺はスフレにお願いをした。 

 学生の出る幕じゃない。


「スフレ、あの建物に向かって【ショック】の魔法をかけてくれ。全力でお願いする」


「え、それだけでいいんですか? 誰も致命傷になりませんよ?」

「いや、殺す必要はない。全く、マリさんの教育は……」


 スフレは俺と話しながらも魔法の詠唱に入る。

 重複魔法のスキルのおかげだ。

 小さな穴のようなものがスフレの周りに無数に浮かび上がる。


「「「「「――ショック」」」」」


 通常なら半径数メートルにいるものを痺れさせるだけの初歩的な魔法。戦闘で詠唱するほどの魔法ではない。

 だが――、重複魔法スキルによって、騎士団詰め所全体に効果を発揮する。

 若干アレンジされたショックは、魔力が強ければ強いものほど効果を増す――


「――――あがががががっ!? がが、がが、が……」


 タケシが悶絶しながらのたうち回っていた。


「あっ、す、すいません……、間違えました。な、なんかこの人がツバサに嫌な事した気がしたので……私、勘がいいです」





 ショックの魔法が騎士団詰め所全域に行き渡る。

 そして――、最上階のガラスを割りながらミシマが吹き飛んできた。

 ショックの魔法の効果で黒焦げである。

 追撃の飛び剣がミシマの腹に突き刺さる。

 ミシマはものすごい勢いで地面に激突をした。

 周囲一帯の地面が破壊されて、ミシマは剣によって磔となった。



 辺境の騎士団員が動く。


「大丈夫だ。息があるぞ! 早く回復魔法を」

「なんだ、回復しても回復できない?」

「ち、血は止まっているのに傷が治らない? 痛みが止められないぞ!」

「絶対死なせるな。こいつは明日の謝罪会見の主役なんだ!」




 スフレがとことこと俺に近づいてきた。


「へへ、ツバサ、魔力の使い方うまくなりましたか? マリさんとツバサのおかげです!」


「ああ、とてもうまかった。俺ではあれほど器用に出来ないぞ。やったな――」


 俺はスフレの頭をポンポンした。

 スフレは笑顔を俺に返してくれた。やっとスフレも純粋な笑顔ができるようになって良かった。


 そんな俺達をじっと見ているメグミは――嫉妬するでもなく、何か必死で考えている様子であった。





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