父さんごめん
メグミが騎士団を引き連れたあの日、俺は騎士団を破壊しようと思った。
予想に反して、メグミは俺を攻撃しなかった。
学園を退学することを覚悟していた。父さんには迷惑かかるけど、この国を出てもいいと思った。
メグミがあっさり帰ると、俺は拍子抜けをしてしまった。
その後、学園でもメグミたち幼馴染が俺に絡む事がない。
比較的穏やかな学園生活を送ることができた。
「……無駄な動きが多すぎる、魔力に頼るな。最小限の動きで効率良く破壊しろ」
「はいっ、師匠――」
放課後はスラムにいる師匠に稽古をつけてもらうのが日課だ。
俺は昔、自分の魔力が強いからってイキっていた。大抵の事は魔力でどうにかできた。
……確かに正義感は強かったが、あの時の俺は好きじゃない。自分勝手な子供であった。
魔力がなくなって、初めて様々な事に気がついた。
強さは魔力だけじゃない。俺は師匠に出会って変わることが出来た。
師匠と組手をしている横で、スフレは魔力操作の練習をしている。
スフレの重複魔法は絶大なスキルである。
国の研究所で勤めている大賢者のスキルでさえ、連続詠唱どまりだ。
スフレはまだまだ魔力の使い方が下手だから、練習が必要だけどすぐに強くなる。森の師匠に会わすのが楽しみだ。
「ふん、ここまでだ。そろそろ時間だろ? あいつは気が短いから早く行けよ」
「はぁはぁ、ありがとうございました。スフレ、次は森に行くよ」
「は、はい……、ツバサって体力の化け物ですね。……あの、ちょっと師匠さんに質問が――」
師匠はスフレを鋭い目で見つめた。カッコつけている。
「え、っと、違ってたらすいません、伝説級SS級冒険者であり、元勇者様のサイオンジ様……じゃないですか? こ、子供の頃、隣国の帝都へ行って魔王討伐の凱旋で見たことがあって……」
「違う、俺の名はレオンだ。サイオンジは絶望の果てで死んだ」
「師匠、もう少しわかりやすい言い方にしましょう。師匠は外国人だから言葉がおかしいんですよ。全く、森の師匠の事が好きなのに誤解されるし。恥ずかしがらないで、ちゃんとはっきり言いましょ」
レオンさんは俺にとって、人生の師匠だ。過去の事なんてどうでもいい。
帝国の人間だったなんてどうでもいい。
俺に格闘術や隠蔽技術、武器の扱い、暗殺技術、戦術と戦略を教えてくれた。格闘術以外は学園では使えないけどさ。
……森の師匠のマリさんも師匠の事気になってるのに、師匠は鈍感だから。
「ば、馬鹿、す、好きだなんて……、俺は……違う。――ふん、ツ、ツバサ、森の魔女……マリにあったらこれを渡してくれ、今日の分だ――」
レオンさんは俺に鍵がかかった分厚い日記を手渡す。
レオンさんとマリさんの交換日記だ。
全く、二人とも高等部生みたいに純情なんだから。
そう言えば、マリさんもこの国の人じゃない。
「はい、了解です。いっそのこと一緒に住めばいいのに」
「ば、馬鹿者! は、恥ずかしいだろ!! だが、お前がどうしてもって言うなら……」
「マリさんに聞いてください」
師匠の顔が不機嫌そうなふりをして俺を睨みつけた。
スフレは呆れた顔をしていた。
「あの伝説の勇者と身内のように接するツバサ……、恐るべしです。ツバサの体術の凄さの理由がわかりました……」
「どうした? ――まあいいか、この日記を持ってマリさんのところに行こう。魔力がほとんどない俺でも親切に魔力の使い方を教えてくれた優しい人なんだ。マリさんは色々な歴史を教えてくれるし、物知りなんだ。魔法以外の外法の詠唱も教えてくれるんだ」
「へっ? げ、外法って……、マリさん……、また嫌な予感が……、あ、あの、本名は?」
「ん? 俺は知らない。師匠、マリさんの本名って?」
「……まあ小僧ならいいか。マリベル・ウルスだ。ふん、忘れろ、俺達は静かに生きたいからな」
「了解、忘れる」
スフレが身体を震わせていた。
青白い顔になって口をパクパクさせていた。
「マリベル・ウルス……? れ、歴史上の人物? 同姓同名? でも、魔王として人間と戦争を起こして、勇者様に討伐されたはずの……。うん、きっと気のせいです。うん、私も忘れます」
マリさんはマリさんだ。
魔力が無くても使える魔物の特技や幻術、妖術なんかも教えてくれた。流石に学園だと違法になるから使えないけど、昔、メグミを助けるときに役に立った。
確かにマリさんは角が生えて、たまにツバサも生えるけど、とっても綺麗で優しい素敵なレディーである。早くレオンさんと結婚すればいいのに。
魔族や人族なんて小さいくくりは忘れてしまえばいいのに。
―ふと、俺はメグミに嫌いと言った事を思い出してしまった。
確かに俺はメグミが大嫌いであった。
俺を人扱いしないメグミ。
……昔は違ったんだけどな。
思い出を消したはずなのに、中々頭の隅でこびりついて消えてくれなかった。
************
俺は職員室に呼び出された。
Fクラスの担任であるモエ先生が困った顔をして机に座っていた。
俺は先生の前で立っている。
先生は重い口を開いた。
「あ、あの、ツバサ君! この前のダンジョン演習おちゅかれ様でした! あ、ごほん、えっと、え、演習をご覧になったミシマ理事が……、ツバサ君が不正をしているって……」
「ミシマ……理事が? よく意味がわかりません」
「は、はい、ぶっちゃけ、私も抗議したら……首になりかけちゃって……はは。ごめんなさい、ツバサ君、私も幼い弟と妹のご飯を食べさせてあげなきゃいけなくて……。この後、風紀委員会の詰め所で取り調べを受けてもらいます」
俺は瞬時にメグミとの接点を考えてしまった。
……メグミは胸が大きい。冷静で賢いフリをしているけどあまり物事を考えていない。
メグミたちは俺の力を失って、クラスのカースト上位から転落したと聞いた。
この学園は弱肉強食の世界だ。
誰もあいつらのフォローなんてしない。
別に俺には関係ない。……だけど陰口は嫌いだ。嫌な気持ちになる。
これはきっと、ミシマの独断だ。
風紀委員は騎士団最有力候補生徒が集まる場所であり、ミシマが自由に動かせる学園の部隊だ。
成績優秀者も多く、Sクラスの人間が一人いたな。
……これは俺が騎士団に逆らった報復か?
なるほど、なら俺は、
「それでは失礼します。これから風紀委員のところへ行ってきます」
「ほ、本当にごめんなさい……、わ、わたし――」
「大丈夫です、慣れてますから」
何度も俺に謝る先生。
それがひどく嫌な気持ちにさせる。
先生は悪くない。
俺は心の中で父さんに謝った。
――父さん、ごめん。父さんならどこでも就職できると思うよ。
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