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幼馴染サイド 


 私は大切な人を無くしてしまったんだ。

 絶対離れないと思っていた愛しい人。

 過去の自分の行いの罪悪感と後悔が入り交じる。


 ずっと隣にいると思っていた人の視線が――冷たすぎて悲しかった。


 魔力が全てのこの世界。どんどん弱くなるツバサに焦りを感じていた。私は心を鬼にして背中を押しただけだったのに……。


 悲しみに包まれても、頭の中で冷静な部分が残っている。

 ……魔力が無くてもツバサは強い。魔力が戻っていたら私たちは全滅。それに騎士団をけしかけたらツバサは確実にこの国を飛び出してしまう。――それだけは阻止しないと。


 私は血が出るほど歯を食いしばり、溢れ出る涙をこらえてツバサに告げた。



「――帰ります。……週明けの演習頑張って、くだ、さい」


 それだけ言うのが精一杯。

 驚くミシマの禿頭を八つ当たりぎみに叩き、撤退を命令した。ミシマは「め、命令であれば――」と敬礼をして部下に指示を出す。


 あら……、ツバサったら驚いた顔をしてるわ。視線は私の事真っ直ぐに見ている。

 あの視線は見覚えがある。……わたしが、拉致から救出された時、ツバサが犯人に向けた目と一緒ね。


 ツバサの抱擁を思い出してしまった。だけど、ツバサはもう――

 私たちがやりすぎたせいで手遅れになった……。






 ****************





「ちょっとメグミ、昨日どこ行ってたのよ! あんたが報告書書かなかったから私が放課後書いたのよ! 3時間かかちゃったじゃない」


「ねえ、ダンジョンへ持っていく荷物ってこれでいいの? 申請書なんて書いたことないからわからないじゃん!」


「ミネの馬鹿! 今日はダンジョンじゃなくて対戦試験だって! 模擬武器の用意と対戦相手と使用魔法を書類に書いて――」


「はっ? 聞いてないじゃん。あんたやりなさいよ! 私はちまちました仕事は嫌いじゃん!」



 ツバサがパーティーを抜けたから書類仕事を自分たちでやる必要が出てきた。

 私たちは慣れない書類仕事に悪戦苦闘している。

 何をするにも書類の申請が必要なこの学園。学生が社会に出ても困らないように書類管理が徹底している。


 私はツバサに嫌いと言われた事がショック過ぎて、書類仕事なんてどうでも良かった――



「誰かにやらせましょう。――ヤマダ君、こっちへ来てこの書類を頼みます」


 猿みたいな顔をしている同級生に声をかける。

 いつもなら声をかけるだけで喜ぶはずなのに――


 ヤマダは眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をした。


「――すんません。俺、自分の書類で手一杯なので……。あっ、友達が呼んでるんで失礼っす」


 ヤマダはそそくさと私たちから逃げた。

 他のクラスメイトを見渡すと、誰も私たちと視線を合わせようとしない。

 あまつさえ――


「なんかメグミさん、普通じゃね?」

「うん、けばいって言うか……、怖い系?」

「あー、わかるわ。なんであんなに可愛いと思ったんだろ?」

「昨日のダンジョン動画見た? ユーコがオークにボコられてたよ」

「赤点でダンジョン補習でしょ? 学園最強ねぇ、ははっ」

「あいつら今まで不正してたんじゃね? それが嫌でツバサが逃げたとか」

「あれか、巷ではやっている魔力ドラッグか」

「ヤバ、今日、あいつらと対戦するわ。負ける気がしねー」


 Aクラスの生徒はエリートで、強いものが正義と思っている。

 私たちも含めて自分勝手な人が多い。


 ツバサがパーティーを抜けてから明らかに私たちは弱くなった。

 目ざとい生徒達は、ここぞとばかり私たちを攻撃する。


 半減なんてものじゃない。ステータス測定器でチェックしたら私たちはツバサと出会う前のステータスに逆戻りしていた。


 明らかに力を失った私たちは、高位ダンジョンに入ると、ザコ敵に苦戦する始末。

 先生も初めは首をかしげているだけだったが、私たちが本気で雑魚に苦戦しているってわかると、もう私たちに話しかけてくる事はなかった。


 一番弱くなったのはユーコ、子供の頃の魔力量と同じになっていた。

 ミネは比較的魔力を保持していたが、それでもオークに負けるくらいの戦闘技能。

 私は――、最底辺といかずとも、DかEクラス相当の僧侶レベルになっていた……。




 ユーコはため息を吐いた。


「はぁ……、ツバサ、戻って来ないかな……」

「はっ? あんたが冷たかったから出てったじゃん!」

「ええ!? ミネなんてパシリにしてたでしょ! わ、私は……意外と優しくしたよ!」

「ばっか! 暴力ふるったのに優しいって頭おかしいだろ?」

「ひっぐ、だって……、苦しいんだよ。私、もう関係ないって言われたんだよ!」

「うるせーじゃん! 私だって言われたじゃん!」


 私は二人の肩を掴んだ。


「――あらあら、ツバサに『大嫌い』って言われた私は? ねえ、あなた達はそんな事言われてないんでしょ?」

「う、うん、ご、ごめん」

「流石に超ごめん、なんも言えないじゃん」

「ええ、書類仕事に戻りましょう――」





 言いたいことを言って、少しだけ心が落ち着いた時、クラスメイトが騒いでいた。


「おい、この動画見ろよ! 前回のFクラスのダンジョン演習ヤバいぞ!」

「はっ? Fクラスだろ? 動画は魔力食うからきついんだよ……、げ、ツバサだ」

「え、マジ? やばくね?」

「だろ? ていうか、隣の女の子可愛いよな」

「うん、いじらしい感じが悪くない」


 わたしたちは顔を見合わせた。

 かばんに入れてあった水晶通信タブレットを机の上に取り出す。

 学園の演習動画保管庫へと魔力アクセスする。

 演習や対戦は次に活かすため学園側が撮影をして保管していた。


 件のFクラスの動画を再生する。

 そこに映し出されたのは――


「うそ……、最小限の魔力で魔物を破壊してるよ。ツバサ、素手じゃん」

「えっと、ツバサって剣技うまいじゃん。ってことは……、本気出してない?」

「攻撃が当たる瞬間しか魔力を放出してませんわ。恐ろしい技術です」


 ツバサの顔が輝いてた。生き生きと魔物を破壊している。

 そして、隣にいる女の子――、先日ツバサと一緒にいたミネの妹――


「はっ!?!? 絶対ドーピングしてんじゃん! あいつこんなに魔力強くなかったじゃん! な、なんでファイアーボールがファイアートルネード並なのよ!!」


「……ねえ、この子さ、魔法を連続して……、違う、魔法を同時に詠唱してない? 同時に十個!? そ、そんな事魔法理論的に不可能でしょ!?」


 低層ダンジョンのボスに向かって、重複された下級魔法の詠唱が響いた。

 力が一点に集中して――最高位魔法に変換される。

 光の柱がダンジョンを貫いた。


「あの魔法は……教会の法王しか使えないと言われている【エンシェントノヴァ】」


 ダンジョンをクリアしたツバサは照れながら、ミネの妹とハイタッチをしていた。

 この動画の中で一番衝撃を受けた瞬間であった。

 衝撃で胸の鼓動が早くなる。二人の顔色もひどく悪い。

 吐きそうな顔をしていた。


 なんで私があの場にいないの? ツバサの隣じゃないの? 

 私は……、私たちは――



 間違えていたんだ。



 心が腐った私たちは、大切な日々を自分たちで捨ててしまったんだ……




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