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自分が一番可哀想だと勘違いしている先生


 吹き飛ばれたミハエルは先生と一緒に帰ってきた。

 どうやら怪我はないらしい。

 ふてぶてしい顔つきで先生と一緒に教壇に立つミハエル。


 先生は重たい口調で俺に言った。


「ちょっと授業は中止ね。ツバサ君、あなたミハエル君に暴力ふるったの?」


「俺はいきなりこいつに窓から放り投げられたんだ! ……こんな暴力許されるわけない。俺の親父が黙ってねえぞ」


 教室の生徒は誰も口を開こうとしなかった。この時間を過ぎ去るのを待っているようである。


 俺は立ち上がった。


「失礼、ミハエル君が先にクリスさんに暴力をふるったと思うが、違うか?」


 クリスはうつむいて机を見ていた。

「ごめん、迷惑かけちゃう……」


 スフレは俺の頭の中で喋りかけてきた。


『ツバサ、ミハエル君のお父さんは、この国の上級国民らしいです。大手ギルドのマスターをしているらしいですね』


『なるほど、ならず者か』


『はい』


 ミハエルは俺の指摘を鼻で笑った。


「はっ、そんな戯言は俺には通用しねーよ。クリスをかばう生徒はこの学園にはいない。なあ先生?」


 先生は困った顔をしながら俺に言った。


「……ク、クリスさんの話は今は関係ない。ツバサ君がミハエル君に暴力をふるったなら謝ってちょうだい。ねえ、謝れば終わるから……お願い」


 俺は驚いた。

 先生もクリスを見ようとしていない。

 誰もがイジメを当然のことだと思っているんだ。


「早く謝れや。……謝ったら許してやるよ。平穏な学園生活を送りたいだろ? ちゃんとした冒険者ギルドに入りたいだろ? 俺に逆らったらこの国じゃあまともに生きてられねーんだよ。お前、ツラがいいから、男娼に放り込んでやろうか」


「お願い、謝って」


 生徒達を見ると、視線で俺を非難している。

 早く謝れ、お前が悪い、面倒を起こすな、と。


 隣の席のクリスは身体を震わせていた。

 ああ、やっぱりこの子は優しい子だ。

 きつい口調で関わるなって言ったのも、俺が攻撃されないためだ。


 俺は珍しくため息を吐いた。

 幼馴染たちのことを思い出した。暴力っていうのは心を傷つけるんだ。

 俺が一番嫌いなことだ。

 壊れた心は――治らない。


 それでも、もがき、苦しみ、答えを探して、前へ進むんだ。きっと、幼馴染たちも苦しみながら前に進んでいる。




 俺は視線でミハエルを射抜く。

 ミハエルから恐怖心を感じた。


「――失礼、君がクリスに謝れ。同級生の机を投げつけて暴言を吐くことが許されると思っているのか?」


 クラスメイトは驚きの声を上げる。


「マジかよ、ミハエル君に逆らったらやべーよ」

「冒険者ギルドにボコボコにされちゃうじゃん、あの留学生」

「とばっちりこなければいいけど……」

「ていうか、全部クリスが悪いでしょ」

「なんでクリスと同じクラスなんだよ」


 ミハエルは教壇を手で強く叩いた。

 その音で教室は再び静かになった。


 ミハエルはいやらしい顔つきで先生の肩を叩く。


「先生……、俺は悲しいっす。暴力をふるわれた挙げ句、暴言まで吐かれてさ……、あーもう学園に献金するのやめようかなー、違う学園に転校しようかなー」


「ミ、ミハエル君、待ちたまえ――、ツバサ君、早く謝るんだ! か、彼に――」


 ミハエルは先生に小声で「――土下座して謝れ」と伝えていた。


 先生は歯を食いしばりながら俺に言った。


「……土下座だ。土下座をして謝るんだ。それで全て元通りになる。だから――」


 クラスメイトたちが再び騒ぎ出す。

 小さな声で始まったそれは――段々と大きくなり、土下座コールが巻き起こった。


 いつだって理不尽なことが多いこの世界。

 俺は誰かを守りたくて騎士を目指していた。

 目標としていた騎士は腐っていたが、ここまで腐っていなかったはずだ。


 俺は教壇に向かって歩き出した。


「お、土下座してくれんのか? 外国風の土下座を見せてくれよ?」


 ミハエルは先生の影に隠れて俺の馬鹿にする。

 自分を馬鹿にするのは構わない。


「土下座したらパシリで終わらせてやるよ。……クリスのことを今度庇ったら、次はねえぞ」


 ――だが、心が傷ついた少女をこれ以上傷つけるのは俺が許さない。


 俺は歩みを止めた。



「……俺がミハエルに謝る必要はない。ここで謝ったら、国にいる友達に馬鹿にされるしな。ミハエル、お前がクリスに土下座しろ――」



 ミハエルは顔を真っ赤にして先生をけしかけた。


「はっ!? てめえ、もう許さねえぞ!! 先生、適当に教育的指導をしてやれや」


「くっ、わ、わかりました。すまない、ツバサ君、暴力をふるった罰で君を拘束する。手荒に扱うが勘弁してくれ」


 先生が俺に向かって突進をする――

 が、先生は俺の後ろで転がってしまう。体術と幻術を合わせた技だ。

 後ろで態勢を立て直そうとしている先生が呟く。

「な、何が起きたんだ?」


 ミハエルは口を開けて驚いていた。

 俺はもう一度ミハエルに伝えた。


「――人の気持ちもわからないクソガキか。……親の顔が見てみたい。これは警告だ。これ以上クリスをいじめるなら」


 俺は教室で一度も出していなかった自分の魔力を開放した。



「――俺が相手してやる」





 ミハエルはガクガクと足を震わせて床に膝を着く。

「な、なんだよ、足が震えてるんだ!? お、俺はランクAだぞっ!! く、くそ、な、なんでてめえなんかに――」


 俺の背後から襲いかかろうとしていた先生も手を止める。


「……こ、この魔力の質は……、レオン様と同質……、い、いや、魔王の再来……」


 俺は先生を白い目で一瞥して、自分の席へと戻る。





 静まり返った教室で、クリスは困った顔をしていた。

 誰も動こうとしない。


 ああ、魔力が重たいのか。……クリスはこの魔力圧で平気な顔をしているな。


「あ、あんた、こ、この後大変なことになっちゃうよ。ば、馬鹿っ、せっかくの留学が――」


「ん、そうだ、放課後、クリスの所属するギルドへ行ってもいいか?」


「え、あ、う、うん。いいけど……。わ、私のせいで……」



 教壇にいるミハエルは魔力圧から解放されて、先生と一緒に教室を出ていった。

 教室の雰囲気が少しだけ弛緩したが、俺に向ける視線の質が変わった。


 異物を見つめる視線から――明らかな敵意へと変わっていた。









読んで下さってありがとうございます!

次はギルドで不穏な感じです。

励みになりますのでブクマと★の応援をよろしくお願いします!

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