考えすぎていたツバサ
「おはよう、ツバサ、今日が最後の学園だね……」
「おはよう、スフレ、まあ休学するだけだ」
俺は学園を出る決意をした。
といっても、休学扱いでまた通うことはできる。
この国だと、高等学園を出ていない子供なんてほとんどいない。
中等部卒なんて就職先は冒険者しかない。
俺はFクラスは嫌いじゃない。だけど、ほんの少しだけ自由に生きていいかと思った。
やはりスフレに相談して良かった。
俺たちはあのあと師匠にも相談してみた。そしたら、自由都市にある自由都市魔法学院をお勧めされた。自由都市は亜人も人間も魔族も平等に生活をしている珍しい国だ。
王国や帝国よりもギスギスしていない。
レオンさんは魔法学院の校長先生と知り合いらしく、わざわざ魔法学院に行って校長先生に俺の事を話してくれた。……まあ、マリさんと一緒に日帰りで旅行気分で行ったらしいけど。
今日の学園が終わったら、俺たちは家にある荷物を持って旅に出る。
「ツバサ、荷物はここか? ……本当に俺たちが住んでいいのか?」
「そうじゃ、ツバサ。我たちには広すぎるのじゃ」
俺たちが家にいない間、師匠たちが魔族の女の子とニャンコ魔物の面倒も見るって言ってくれた。
だったら、師匠たち二人も家に住んでくれと伝えると、恥ずかしがって嫌がっていた。結局、渋々引き受けてくれた……本当は嬉しそうだったけど。
「はい、留守番頼みます。また放課後荷物取りに行きますので。それでは行ってきます」
「行ってきますです!」
師匠たちは少し恥ずかしそうに返事をして、俺とスフレは家を出た。
いつもと変わらない通学路。
舗装された歩道には学園の生徒たちで溢れている。
生徒たちは表面上仲が良さそうに歩いているけど――
この学園は特殊だ。他の学園に比べて実力がものを言う。
Sクラス、Aクラスの生徒たちは他のクラスの生徒を蹴落とすのに夢中だ。
CクラスとDクラスの生徒も自分が上にあがるためにクラスメイトの足を引っ張る。
Eクラスは別棟にあるからよくわからないけど、特殊な力を持っているため実験中心の授業を行っている。
強いものが弱いものを叩きのめす。
だから、笑顔の裏に嫉妬が見え隠れする。
ちらほらとFクラスの生徒たちが見えた。
同級生たちと心の底から楽しそうに話している。
周りの他のクラスの生徒は、Fクラスの生徒を見下している。
――なんで見下すんだ? 同じ人間なのに。少し魔力が低いだけだ。
正直、Fクラスは実戦を経験している生徒が多いと思った。
魔力を使わないで戦う技術を身に着けている。
多分、総合力的にはBクラス程度じゃ相手にならない。
だけど、この学園は魔力が全てだ。
いくら強くても魔力が低かったら低ランククラスに配属される。
ふと、見知った気配を感じた。
「ツ、ツバサ、お前、今日で休学するんだってな。……なあ、Sクラス来いよ。留学やめようぜ。お前がいれば今年の全国高等学校魔法対戦に勝てるんだけどな。俺のレクザス貸してやるからさ――」
女子に囲まれていたタケシが俺に声をかけてきた。
「あの子って例のツバサ君? ヤバ、超強いんでしょ」
「うん、Fクラスだけどタケシ君が絶対勝てないっていってたもん」
「ていうか、タケシ君が認めるってすごくない? 学年一位っしょ」
「あー、私、あの子に助けてもらった事あるわ。演習で学園が間違えて高位魔物を出した時」
「で、でもFクラスでしょ? そんな人と関わらないほうが――」
「はっ? イケメンにクラスなんて関係ないでしょ。ていうか、ツバサ君マジヤバイから」
「うん、偏見はだめよ。あの子は学園の試験で好成績を収めているわ」
……なんだろう、非常にむず痒いというか、こんな風に言われるのは慣れていない。
タケシが俺の肩を組んだ。まるで友達にするような仕草。
「……俺知ってんだぞ。お前らが女神教の狂信者を止めたの。別に誰かに言うつもりはねーよ。だけどな、お前勿体ないんだよ。この学園でもっと上にいけんだろ? 俺と一緒に学園を良くしようぜ。全国制覇しようぜ!」
「……学園を良く、か」
スフレはニコニコしながらドーナツを食べている。
タケシの事は無視していた。
「まあいいや、留学楽しんで来いよ。……初めはやべーヤツかと思ったけど、ただのお人好しだしな。自由都市で何かあったら言ってくれ! 飛んでいけねえけど、親戚いるから力になるぜ! 俺たち友達だろ!」
「――友達……だったのか?」
「お、おい!? マジかー。まあいいか、お前らしい。――俺が卒業するまでには帰ってこいよ! じゃあな!」
タケシは俺の肩を叩いて再び女子に囲まれて学園へと向かった。
スフレがニコニコしながら俺に言った。
「随分慕われちゃいましたね。私は苦手ですけど……」
「慕われているのか? ……わからん、俺は何もしていないぞ。ただ、学園であいつの頼みを聞いてあげただけだ。……馬車に乗せてくれるっていうから」
――俺は馬車が好きだ。あの鉄の塊が魔法力によって動く時の鼓動というか、躍動が好きだ。
「ツバサ……、うん、でもタケシ君も随分変わりましたね? 下のクラスの生徒を馬鹿にしなくなったし、風紀委員の部下にも優しくなったみたいですよ」
「……ああ、そうだな」
「ふふ、ツバサと会ってからですね。きっとツバサの影響を受けたんですよ」
――俺のおかげ……。多分、初めは俺の力を見て恐怖心があったと思う。あいつは伊達にSクラスにいない。強い者は強さを理解している。
人はちょっとの事で、悪意も善意も生まれる。
小さな積み重ねでその人の印象が変わってくる。
「不思議な事だな……、よし、なんだか視線が多いから早く教室へ行こう。スフレ、全力で行くぞ」
「え、と、唐突すぎますって!? ま、待ってください――」
俺はなんだか恥ずかしくて走りたくなってしまった。
Fクラスは普段どおりであった。
幼馴染たちもFクラスの生徒と楽しそうに喋っている。
時折、幼馴染たちは俺を見て苦しそうな顔をしているのを知っている。
……自業自得と言ってしまえばそれまでだ。だけど人の感情は複雑だ。
少し前の俺だったら、モヤモヤした気持ちを抱えて授業を受けていた。
でも、俺は今日で学園をでる。
俺があいつらに抱えている感情は、今の俺では処理できない。
なら――俺が成長すればいい。スフレは俺が優しいと言ってくれるが、俺は甘いだけだ。
もしも、色んな経験をした上で、それでも幼馴染たちが許せなかったら、あいつらにはっきり言おう。
二度と会いたくないって。
平穏な一日はあっという間に過ぎ去っていく。
気がつけば最後の授業だ。魔力基礎魔法を行うためグラウンドでFクラスが集まっていた。
朝からユーコたちの顔が暗い。きっと、あいつらも過去の後悔と今の安息した日々を過ごす罪悪感があるんだろう。
顔つきでわかる。あいつらも変わろうとしているんだ。
……変えるのは俺じゃなくていい。Fクラスの生徒に変えてもらえばいいんだ。
俺とあいつらが交わると、幼い俺たちの心は更にこじれていくと思う。
……17歳は大人だと思ったが、まだまだ子供だと実感するな。
そろそろ授業が終わりの時間になると、ユーコが俺に近づいてきた。
嫌な空気ではない。決意した顔は誰もがキレイに見える。
……きっとこういうところが甘いんだろうな。
ユーコは俺の前に立ち止まって――魔法の詠唱を始めた。
「――――――――ファ、ファイアーボールッ!!」
ユーコの手のひらに集まった魔力が綺麗な炎の玉を作り出す。
ファイアーボールは俺たちの頭上を飛んでいき、空の彼方でかき消えた。
ユーコは息を切らしながら俺に震えた声で言った。
「……はぁはぁ、み、見て、欲しかったんだ。わ、私、ずっと練習して……、ツバサにファイアーボールを見て欲しかったんだ」
なんでユーコは泣いている。別にユーコは今は悪いことしていないだろ? 攻撃してないだろ?
昔の罪をそんなに感じる必要はない――
と、簡単に言えない。だって、被害者は俺だったんだ。
ユーコの横に、ミネとメグミが寄り添う。
二人は無言で俺を見ていた。
そして、ファイアーボールを詠唱して、空へ飛ばす。
綺麗な詠唱と炎の玉であった。
ミネが下を向きながら俺に言った。
「……私、弱い自分が嫌いじゃん。……ていうか、心が弱すぎるじゃん。今はツバサの顔見れない。だって――」
メグミが言葉を続けた。
「自分勝手だった私達を許してほしいなんて言えません。そんな言葉でさえ、甘えです。……だから、私達が今できる事は――」
三人が俺を見つめた。
その瞳は真摯に見えた。が――心の奥では疑ってしまう。また俺を騙して遊んでいるのか、と。
――幼馴染の呪縛。
俺は深呼吸をする。いつの間にかスフレが横にいて、俺の手を握ってくれていた。
三人は手を繋いだスフレを見ても嫉妬の感情を浮かべなかった。
そうだ、もう呪縛なんてない。俺はもう解き放たれたんだ。
難しく考えすぎていたんだ。
三人が同時に口を開いた。
「ツバサ、ごめんなさい――」
「私達のせいで傷つけてごめん――」
「本当にごめんなさい、ツバサ、謝る事しかできません……」
俺は目をつむる。
今はそれでいい。まだ俺は感情を制御できない。
だから――
「もう、関係ないって言ったはずだろ? 俺たちはもう同じパーティーじゃないんだ」
罪を受け入れるような顔をする三人に向かって続けていう。
「――俺はこの学園を休学する。タケシが卒業するまで戻れってうるさい。――だから、俺が戻った時、またイチから始めればいい」
三人は俺が何を言っているのか理解できていなかった。
俺は早口で続ける。
「出会う前の俺たちはそうだっただろ? 突然出会って、友達になって、仲が深まって――、三人とも昔みたいに人を思いやる気持ちがあれば、も、もう一度――か、関係を、構、築して――」
なんだ、視界がぼやける? おかしい、なんで嗚咽が止まらない。
また、イチから始める――、自分で言いながらわけがわからなくなってきた。
わかる事が一つだけある。
これが俺の本心である事だ。
スフレが握ってくれている手の温かさが心地よい。
俺の心を安定してくれる。
Fクラスの生徒たちの視線が生暖かい。くそっ、恥ずかしいじゃないか。
ユーコたち三人は泣き崩れながら何度も「うん、うん」と頷いていた。
あの時のパーティー離脱とは違う。
お互いが嫌な気持ちのまま別れない。
前を向きながら離れ離れになるんだ。
成長するための別れなんだ。
スフレが泣いている俺にそっと耳打ちをした。
「あ、あの、多分気がついていると思いますけど……、魔人化したミシマがあそこにいます。……た、多分、お父様よりも強いかと思いますがどうしますか? わ、私じゃ勝てません。師匠呼んできますか?」
……ああ、清々しい気分が台無しだ。
学園がミシマの存在に気がついたのか、先生や生徒たちが騒いでいた。
避難警報も出される。
ミシマは俺を見据えて叫んだ。
「貴様が全て悪いんだ。……俺はこの学園をぶち壊してやる。まずはお前から――」
俺たち学生は人間関係で精一杯なんだよ。
だから、クズな大人が関わってくるな。目障りだ。
俺は三人を見た。
何故か昔みたいに守ってあげなきゃいけない、って思う事ができた。
なら、俺の全力で守る――
背中に羽をはやし、空から強大な魔力を撒き散らしながら迫りくるミシマに向かって――
何もない空間から父譲りの魔剣を取り出し――
魔王の技で時間を止めて――
勇者の力で次元を切り裂く――
「――【断絶】」
時間が動くと、ミシマは驚きの表情を浮かべ、そのまま地に落ちる。
空間を固定し、真っ二つの状態でミシマを拘束する。
あとは先生たちに任せよう。
俺は剣を空間にしまい、幼馴染たちに向き直った。
「――またな、ユーコ、ミネ、メグミ」
俺は久方ぶりに自然な笑顔を幼馴染たちに向けた――
幼馴染たちは昔みたいな懐かしい顔で俺を見てくれた。
一章完です!
ここまでの話を★の評価でお願い致します!
まだまだ幼馴染も登場します。!
頑張ります、よろしくお願いします!




