もう関わらない
「はっ? あ、あんな奴の事なんてただの雑用係としか見ていないわよ!」
魔法学園二年A組は今日もにぎやかであった。一人ぼっちでいる俺以外は。
俺と同じパーティーであり、幼年部からずっと一緒だった、学園最強の魔法剣士と言われている幼馴染のユーコが他のパーティーメンバーと笑って話している。
「だよねー、マジでお荷物過ぎてマジ無理。魔力測定5Pって子供より低いじゃん。ユーコがツバサの事好きだったら超笑いものじゃん」
じゃんじゃん言っている大人っぽい子は、魔法学園小等部からの親友である、学園最強の黒魔法師と言われているミネである。
ミネともなんだかんだ言って長い付き合いだ。昔は俺の後ろで泣いていたのに……。
「あらあら、人の事を馬鹿にするのはやめなさいよ? ……ツバサは本当に人族なのかしら? あそこまで退化する人も珍しいわね」
ナチュナルに俺を馬鹿にしている子は、魔法学園中等部から一緒のクラスになった、学園の聖女として名高いメグミだ。
三人はいつも俺の事を馬鹿にしていた。
俺の魔力が退化しているからだ。
クラスメイトは俺に話しかけようともしない。
俺が最底辺のお荷物で親のコネでこの魔法学園にしがみついている邪魔者だからだ。
いつからだろう? この魔法が全ての世界で、俺は魔力がだんだんと少なくなっていった。
高等部に上がり、本格的にパーティーを組む頃には魔力が子供以下に下がってしまった。
俺とパーティーを組んでくれる生徒は、幼馴染たちしかいなかった。
幼馴染たちは昔は優しかった。
だけど、俺があまりにも使えなさ過ぎて、だんだんと横暴な態度を取るようになっていった。
それでも、俺はパーティーを抜ける事ができない。
俺一人では……課題もろくにできないからだ。
どんな暴言を吐かれようが、どんな暴力を受けようが、俺はあいつらと一緒にいるしかなかった。騎士になるためにはこの学園を卒業する必要がある。それに、幼馴染たちとは大切な絆がある。
だから俺は早く魔力を戻したかった。そのために死と隣合わせの努力を怠らなかった。
幼馴染たちは優しいところも残っていた。
例えば毎年俺の誕生日は祝ってくれた。
ユーコの家でこじんまりとしたパーティーを開いてくれる。
庶民の家庭だけど、心が温まる歓待に俺は何度涙したことか。
俺の誕生日は今日だ。
今朝がた、ユーコから「あ、あんた誕生日でしょ? い、祝ってあげるからうちに来てね。……こ、来なかったら魔法の実験台にするわよ!」って照れくさそう言われた。……昔、魔法の実験台にあって今でも右腕に力が入らないんだ。内緒にしてるけど。
俺は日頃の事も忘れて嬉しくなってしまった。
だけど、忘れちゃいけなかったんだ。
俺はただのお荷物なんだって自覚しなきゃいけなかったんだ。
ユーコの家に着いて、扉を開けると――幼馴染たちが俺を待っていた。
でも様子が違った。
部屋のテーブルには何も置かれていなかった。いつもみたいな誕生日パーティーの雰囲気ではなかった。
ユーコたちは深刻そうな顔をして俺を見つめる。
俺は入り口で立ち止まってしまった。
「早く入るじゃん。てか、マジ遅くない?」
「まあまあ、いいじゃないですか。……これで最後ですし」
「そ、そうよ! も、もうあんたの顔も見納めよ! ……あんたのお父さん、上司に逆らって左遷って聞いたわよ」
俺のお父さんは正義感が強い騎士で、不正を許せなかった。……でも、権力には勝てなかった。命を落とす事はなかったけど、辺境の地に左遷が決定した。
今までの蓄えがあったから、俺は学園に通えるけど……。
「え、あ、う、うん、だってそれは冤罪だ。お、お父さんは正しい事をして――」
「超うっさいわ。はぁ……、小等部の頃は超強くてかっこよかったのに……、マジださ」
「そ、そうよ! い、いつまでも実力を隠してるんじゃないわよ! あ、あんたが本気出せば私達はSクラスパーティーに上がれるのよ!」
「まあまあ、ツバサさんの実力は見たままじゃないですか? 退化してる出来損ないなだけですよ。……それに、お父様が騎士団長ではなくなった事が重要です。そんなぼんくらはこのパーティーにはいらないです」
みんなが一斉に話すから頭が混乱してきた。
確かに俺の魔力は低い。それでもみんなが困らないように雑用を一生懸命している。
それに――俺はみんなと約束したんだ。
メグミが俺を冷たい目で見て、紙をひらひらさせた。
「はい、これ。パーティーの離脱届けです。あなたとはもうお別れね」
「ふ、ふんっ! せ、清々するわ! あ、あんたなんて顔も見たくないわ……」
「きょーみないじゃん。早く先輩たちとご飯行こうよー」
離脱届け――
魔力がほぼないに等しい俺にとってパーティーは学園の単位を取るために必ず必要だ。
俺はいつか自分の魔力が戻るかと思って、必死に努力した。
だけど、いつまで経っても俺の魔力は戻らなかった。
俺が努力すればするほど、ユーコたち三人は学園で非凡な力を付けていった。
「……ま、まって、俺、もっと努力するから。今まで以上に雑用も頑張るから! 寝ないでもっとバイトして洋服代稼ぐから! お、お願いだ……、俺をパーティーに――」
最古参の幼馴染のユーコが俺に言った。
「はっ? あ、あんたは追放で決定なのよ! さ、さっさっと出ていきなさいよ! わ、私達はもっと先に行くのよ!」
ミネが言葉を続ける。
「はぁ、どうでもいいっしょ? あんたはバイバイ、私達はS級パーティーになるじゃん」
メグミが吐き捨てるように言った。
「――あらあら、わがままはそこまでにしてください。パーティーメンバーの補充は手配済みです。それでは良い誕生日を――」
俺はその場で崩れ落ちた。
俺は毎年、この誕生日だけを楽しみに生きていたんだ。
俺の時だけじゃない、みんなの誕生日パーティーの時もそうだ。
誕生日の時だけみんな昔みたいに優しく喋ってくれる。
懐かしさで涙が出てきそうでだ。
だけど、もう違う。大切だった誕生日は――俺の追放の日となった。
力がない俺が悪いんだ。この子達が悪いわけじゃない。
……だけど、俺達は絆が結ばれていたんじゃなかったのか?
幼いユーコを命がけで魔物の大群から守った時に交わした二人だけの約束と幼い口吻。
ミネが女子生徒から恨まれて、学園中から悪者にされそうになった時、俺はミネを信じて女子生徒の悪事を暴いた。その後交わした約束と握手。
高貴な生まれのメグミが、政治の暗い渦に巻き込まれて拉致された時、力を著しく低下していた俺は瀕死になりながらも救出した時の熱い抱擁をしながら交わした約束。
俺の魔力が戻るのを待ってくれると思っていた。
……すまない、確かに俺のわがままだったな。追放を言い渡す方も嫌な気持ちだろう。何もできない俺にはイラつく気持ちもわかる。
俺は身体に力を入れる。涙なんて流すな。一人でも学園を乗り切る努力をするんだ。
もう誰にも迷惑なんてかけない。
俺はよろよろと立ち上がった。
三人は俺を見て大笑いをしていた。俺はそれを見て――心の何かが薄れていった。
「――わかった。俺はみんなと二度と関わらない。俺の中にあったみんなの思い出は消すよ。――約束を守れなくてごめん。【約束を破棄するよ】」
なぜか、その言葉とともに――俺の身体から力が湧き上がってきた。
昔懐かしい魔力が身体を駆け巡る。これは一体――
ユーコはなぜか慌てた顔をしていた。
「ば、ばっか! じょ、冗談よ、冗談。パーティー離脱は嘘よ。あんたの焦った姿がパーティーの余興よ。――ほ、ほら、裏にあんたの好きなゴブリン肉あるよ」
俺は真顔になってしまった。
「じょう、だん? 冗談で仲間を追放……、離脱届けを用意しただと? 俺は――」
ミネが机をガシガシ蹴りながら俺に言った。
「マジレスつまんね。ぶっちゃけ半分本心でもあるしー。ていうか、私達以外であんたとパーティー組んでくれる生徒なんていないじゃん? はぁ、あんたにはマジ呆れてんの、昔は強かったのにさ。今はただの雑用じゃん。っていうかお腹すいたー。早く用意して」
「はぁ、本当につまらない男になってしまって……。私も本気で追放でも良かったですよ? ユーコが作ったご飯が冷めるわ。……今日は日頃のあなたの駄目さ加減を忘れて、何も考えずに楽しむ日でしたね。全く、そろそろいい大人なのに……」
俺は自分の胸に手を当てた。そうか、離れられないとおもっているのか。
心の奥にあった何かが全て消え去った
……嘘だとしても、俺は三人のお荷物だった事は事実だ。だから、俺はこの嘘を受け入れよう。
「すまない、俺には仲間なんていなかった。俺は一人で学園生活を乗り切る。もう一度だけ言う。みんなとは二度と関わらないから――」
部屋の空気が変わったのを感じた。
俺の言葉が本気だということが伝わったみたいだ。
「え? ツ、ツバサ? じょ、冗談よね? わ、私……、あの時の結婚の約束――」
「は、はぁ? 冗談も通じないの? あんた私との約束を忘れたわけ? ずっと一緒にいるんでしょ? 離れたくないんでしょ? ねえ?」
「……そう、わ、たしは、別に構いませんわ……」
何故今さらそんなに焦る? 俺はいらないパーティーメンバーだろ? もう見せかけの優しさは必要ない。気を使わせてごめんな。
俺は玄関の扉に向かう。後ろは振り向かない。
三人から魔力を感じる。魔法で俺を止めようとしているのか?
「うそ……、ま、魔力が……、もしかして」
「ツバサ! わ、私あんたの事信じてたじゃん!」
「まって、ツバサ! あなた、魔力が――」
俺は体中に駆け巡る魔力を少しだけ解き放った。俺の魔力圧で後ろの三人の動きが止まる気配がした。
さよならなんて言わない。
それでも、
「今までありがとう――」
俺は大好きだった幼馴染たちとの今までの思い出を心の中で殺して、扉を開け放った――
本能で書いたファンタジーです!
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新作です!
魔導学園少等部の思い出を全てを消して、俺は普通に学園生活を送りたい。姫も幼馴染も今さら罪悪感を感じても俺には関係ない。奴隷仲間たちと過ごした日々が俺のスキルへと変わる
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