出会い
ここはどこだろう?
鳥のさえずりが聞こえるなか、うっすらと目を開けた。若葉色の葉から、光がもれている。地下のやわらかい照明とは違う、鮮烈な光。ひんやりとした空気。頬を柔らかな風が触れる。
地下ではない。
ゆっくり起き上がった。周りには誰もいない。クラスメイトも先生も。誰も。
どのくらいの時間ぼんやりしていたのか。地面をあわただしく踏む音が近づいてきた。人?動物?ハッとして起き上がって逃げようとした瞬間、黒い髪の男の子が現れた。
「おまえ、なんだ?」
「なにって、、、どういう意味?」
「人間か?幽霊?ニンフ?なんでもいい、お願いだから助けて!」
私はその少年に引っ張られて洞窟に連れていかれた。
そこにいたのは小さな女の子だった。熱があるのか、息が荒い。
「熱が下がらないんだ。もう2日間も。このままじゃ、エニは死んじゃう。」
少年の名はギル。10歳。彼が住んでいた村が戦火に巻き込まれた時、両親はこの兄妹を逃して、亡くなったらしい。兄妹は山に逃げ込み、山の植物や小動物を狩って何とか生き延びていた。熱を下げる薬草を探していたところ、私にばったり遭遇したというわけだ。
「水は飲ませたの?」
「うん。そこの水を」
泥水だった。こんな水を飲んだら、感染症になるに決まっている。
「きれいな水はないの?」
「川まで行けば、水はあるけど、今は兵士がいて危険なんだ。両軍がぶつかっているから」
「両軍?」
「おまえ、知らないのかよ。リュディア軍とメディア軍だよ。俺の両親はメディア軍兵士にやられたんだ。」
「リュディア?メディア?聞いたことない・・・」
「はぁ?いったいどこから来たんだ?そもそも女一人で山の中を歩いていたら、危ないだろ?その服もえらくきれいな服だな?どこかのお姫様か?そもそも、そんな肌が白くて髪が白くて、眼の色も薄い人間今まで見たことないぞ。」
「失礼ね、白髪じゃないわよ、ちゃんと見て。銀髪よ。」
「そういえば、母ちゃんが言っていたな。白いウサギは神様の御使いだって。おまえ、神様の御使いか?」
「そんなんじゃないわよ。それより、エニにきれいなお水をあげる必要があるわ。水を取ってこれないのであれば、火で沸かすことは出来ない?」
「うん。わかった」
私はエニを観察した。息は苦しそう。ふと見たエニの左足が赤く腫れているのが見えた。
「この傷はどうしたの?」
「うん。ネズミを捕まえたときに、引っ掻かれたんだ」
「傷口をきちんと洗った?」
「傷は舐めて治すもんだろ?」
「・・・わかったわ」
お湯が沸いたので、私はエニの傷口を洗い流した。
「わぁ、もったいないだろ、貴重な水が!飲ませるんじゃなかったのかよ!」
「それも大切だけど、多分、この傷から熱が出ていると思う。ばい菌が入ったのね」
「ばい菌?なんだよそれは」
「目に見えないくらい小さい虫みたいなものよ。それが入ると熱が出るの」
「そうなのか?」
「うん。あとは水をのませましょう」
ギルは両親を失い、妹を自分が守ろうと気が張っていたのだろう。私のすぐ横にぴったりくっついて座り、船を漕ぎだしていた。
エニの息が荒くなっていく。悪化しているのは明らかだ。水を飲ませながら考える。私の生命維持リングをつけたらどうだろう?今は夜だから、紫外線はほとんどない。洞窟だし。そっと、リングを外してみる。苦しい?ううん。苦しくない。大丈夫だ。そっとリングをエニの手首につけて、私はギルに寄り添って横になった。私も不安だったのだ。いったいここはいつの時代のどこなのだろう?ギルのぬくもりに安心する。私はエニをそっと抱き寄せた。