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第10話 幸せの味2 

「今度の日曜日にさ、デートしてきなよ」

「……デート?」


 晩御飯を食べ終えリビングでのんびりしていると、急に母親がそんな提案をしてきた。


「ほら、知り合いに遊園地のチケット貰ったからさ。二人で行っておいで」

「遊園地ねぇ」


 俺は母親からチケットを受け取り、ぼけっとそのチケットを眺めた。

 横にいた冬白川は、ポッと紅潮させている。


「わ、私、勇児くんと遊びに行きたい」

「別にいいけどさ……」


 俺は冬白川の着ている服に視線を向けた。

 彼女が着ているのは、母親の品の無いジャージ。

 母親なら気にせず外出できるだろうけど、年頃の女の子にこんな服装で出かけるなんて酷な話ではないだろうか。


 出かけるのはいいとしても、まず服を用意してあげないと……

 俺の考えに気づいたのか、母親は冬白川に対して口を開いた。


「琴ちゃん、服がないんだよね……」

「あっ……そう、ですね」


 申し訳なさそうに苦笑する冬白川。

 母親はそんな冬白川の姿を見て「よしっ」と言い両膝を叩く。

 この人は普段メチャクチャだけど、本当に人が困っている時は優しく手を差し伸べてあげれる人なのだ。

 多分、冬白川に服を買ってやるつもりなんだろうな。

 任せておけというような、心強い眼をしている。

 さすがかあちゃんだ。


「私の服貸したげる」

「止めろ止めろ止めろ! 止めろ! あんなギャルギャルしい服なんか着させるな! 恥ずかしいだろっ」


 思ってたのと違う。

 やっぱりかあちゃんはかあちゃんだった。

 普通に着れる服を持っているのならまだしも、あんな普通の女子が着たら罰ゲームに該当するような服はやめてさしあげろ。

 がっつり肩が露出しまくっているヒョウ柄のオフショルダーに、脚の付け根辺りまでしか生地が無いショートパンツ。

 この人はジャージ以外はそんなのしか持っていなかったはずだ。

 


「えーでも琴ちゃんのショートパンツ姿見たくない? 可愛いと思うけど」

「それは俺も見たい。確かに見たい気持ちはある。しかしショートパンツは百歩譲っていいとしても、あの服はダメだ。あれは冬白川みたいな女子高生に着せていい代物ではない」

「うーん、じゃあどうするかな……あっ、桜ちゃんの服着る?」

「着れるかアホっ! 桜は小学生だぞ! 10歳なんだぞ! 入るわけないだろ」


 母親は本気で提案したらしく、「そうかな」なんて言っている。

 ダメだ。この人に期待した俺がバカだった。


「お母さん、買ってあげなよ」

「おおっ……さすがは桜たん。いいアドバイスありがとう」

「なぜ初めにその発想に至らない? アドバイス貰う前にそこに行きつこうよ」


 笑ってごまかす母親。

 でも冬白川はあまり喜ばしくない顔をしている。


「買ってもらうなんて……悪いよ」

「ええー? 別にいいじゃん。家族なんだし」


 能天気に母親は言う。

 嫌味なく、ただ純粋に。

 だが冬白川は素直に頷けないみたいだ。


 そんなに気を使うもんなのか?


「でも……生活の面倒も見てもらってるのに、その上洋服まで買ってもらうなんて……」

「別にお嫁さんの服ぐらい買ったげるよ」

「かあちゃんに買ってもらうことに気を使うんなら俺が買ってやるから。お年玉貯金がそこそこ貯まってるし、服ぐらいなら買ってあげるよ」

「お母さん……勇児くん」


 目をうるうる潤ませ、俺たちを見つめてくる冬白川。

 服だけでこんなに感動するなんて……『お高くとまってるんでしょっ』なんて言われそうな上品な雰囲気を醸し出しているのに、なんて安上がりな。

 俺たちみたいな庶民にはありがたい。


「勇児も大事なお金は貯めときなって。服ぐらいかあちゃんに任せときなっ。その代わり、日曜日は存分に楽しませてやりなよ」

「分かった。じゃあ服は頼むよ、かあちゃん」

「頼まれたっ。琴ちゃん、土曜日見に行こっか」


 冬白川は感激した面持ちで、うんうん頷いている。


 俺は本を読んでいる桜の隣にすっと移動し、小さな声で話しかけた。


「かあちゃん服のセンスあれだから、桜が一緒に行ってちゃんとした服選んでやってくれ」

「分かった」


 買ってくれるのはありがたいが、すまないかあちゃん。

 あんたの服のセンスは当てにならない。

 冬白川、ド派手な服を着せられても気を使って否定できなさそうだもんな。

 その点、桜がいれば問題ないと思う。

 桜はいつも可愛らしい服を着てるからな。



 ◇◇◇◇◇◇◇


 

 時間はあっと言う間に流れ、日曜日。 

 天気はこれ以上ないぐらい良いが、寝起きはこれ以上ないぐらい悪かった。


 また夢を見たからだ。

 楽しくない夢だった。

 冬白川が……泣いている夢だ。


 また俺の腕に潜り込んでいる冬白川の寝顔を見て、俺は願う。

 ただの夢であってくれと。

 見たくないな……冬白川の泣き顔なんて。


 すーすー寝息を立てる可愛いお嫁さん。

 籍はまだ入ってないから正確には同居人……

 いや、居候か。

 別になんでもいいけど。

 冬白川がいてくれたら、それでいいよな。

 いつの間にか、素直にそう思える自分がいた。


 俺は冬白川の髪を撫でる。

 つやつやで柔らかい。

 相変わらずいい匂いがする。

 いつまでも撫でていたい気分だ。


 彼女が眠っている間だけ……

 起きている時にこんなことをする勇気は持ち合わせていないから。

 相変わらずのヘタレだ。


 だが、髪を撫でていると冬白川に変化があった。

 顔がみるみるうちに赤くなっていく。


 ……こいつ、起きてやがる。

 狸寝入りしてやがる。

 俺も自分の顔が急激に赤くなるのが分かり、そっと腕から冬白川を解放してリビングへ全力で駆けて行く。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!! 恥ずかしいぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 床をジタバタジタバタ転げ回って大暴れ。

 恥ずかしすぎるっ!

 何で起きてんだよ。俺を辱めるための作戦か!?

 もしそうだとしたら大成功だ。

 これ以上ないぐらい、今にも死んでしまいたいぐらい恥ずかしいんだからな。


「お、おはよう……勇児くん」


 冬白川は赤い顔のまま、髪をくりくりいじりながらリビングにやってきた。

 俺はピタリと動きを止めて、ささっと立ち上がる。


「お、おはよう、冬白川。今日は天気もいいしいい一日になりそうだな」

「う、うん」


 赤面している男女が二人。

 互いに俯きながら固まってしまった。


「……何してんの?」

「え?」


 固まった俺たちを、母親が寝ぼけ眼で見ていた。


「あ、いや……なんでもないよ」

「…………」


 母親は突如ハッとなり、眠気が飛びきった目つきに変わる。


「ごめん! ちゅーしようとしてたんか!」

「違う違う! 違うから!」


 顔を赤くした男女が恥ずかしそうに俯いて向き合っていたんだ。

 確かにキスしようとしているようにも思える。

 そう勘違いしても仕方はない。

 

 ただ母親の嬉しそうな顔が無性に腹立たしい。

 不覚だったな。くそっ。


「あ、そうだ。晩御飯は食べないで帰って来てね」

「ああ、分かったよ」


 かあちゃん、珍しく今日は自分で作るつもりだ。

 ということは……あれをするつもりだな。


「じゃあ朝飯食ってさっさと出かけよっか」

「うんっ!」


 なんだか幸せそうな顔してるな冬白川。

 そんなに俺と出かけるのが嬉しいのか。

 正直、俺も嬉しいんだけど。

 そう思ってくれる冬白川のことも、一緒に出掛けれることも。

 本当に心の底から嬉しくて、何でも無いはずのいつも過ごしている家の中が別世界のように輝いている。


 朝ご飯は桜以外はコーンフレーク。

 桜は当然みたらし団子。

 毎日みたらし食べて飽きないのかね、こいつ。


「あんさ、デートだったら駅で待ち合わせとかしたら雰囲気出るんじゃない?」

「雰囲気ねぇ……必要?」


 俺はよく分からないので冬白川に訊いた。


「大事だよ、雰囲気っ! うん、駅で待ち合わせしよう。その方が確かにデートっぽい」

「あー分かったよ。じゃあ先に駅で待ってるから」


 自室で着替えを済ませ、財布の中身とチケットがあることを確認する。


「行ってきまーす」

「勇児、ちょっと」

「何だよ?」


 母親は玄関までやって来て、冬白川たちには聞こえないように小声で話す。


「琴ちゃんがさ、泣いてる夢見たんだけど」

「……かあちゃんも?」


 手で額を押さえ嘆息する母親。

 そうか、かあちゃんも同じ夢を見たのか。

 俺たちが同じ日に同じ夢を見た時は正夢になる。

 確率は100%。

 外れたためしはない。


「泣かすな……って言いたいところなんだけど……」

「わざわざ泣かすような真似はしないよ」

「分かってるけどさぁ。でも、くだんないことしたら……ぶっ殺すかんな」

「……はい」


 こえーよ。

 そんな怖い眼で睨まないで。


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