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第4話 到着、魔法学院

「もう行ってしまうのね。これから寂しくなるわ」


「けどこれが()のやりたいことなんだ。だから行かせてくれてありがとう。それじゃあ、行ってきます」


「待ってその前に」


 母さんは俺を抱き寄せると額へとキスをした。

 俺はもう15歳で成人していて、もとより母さんより年齢が精神的に上だ。

 そんなことをされる(精神ともに)歳ではないというのに、甘やかしたがりは相変わらずのようだ。

 けど俺はそんな母さんが好きだった。だからこうしてまた会えたことには一種の喜びがある。


「これからいいことがありますようにっておまじないよ」


「ありがとう、母さん。改めて、行ってきます」


 恥ずかしそうに額に手を当てて言う。そして、背を向けて歩き出す。

 学院に入学すれば、寮生活となり家に戻ることは長期休暇以外めっきり無くなってしまう。

 だから長期休暇の時はできる限り家に戻ることにしよう。

 母さんのおかげもあって今の俺もあるのだから。


 そして村からしばらく離れた場所にやってくると俺は一度立ち止まった。

 視覚強化魔法〈遠視〉で村の方を振り返って見てみる。

 母さんの姿もなければ他の人の姿もまばら。それにこちらには気づいてない様子だ。

 なら......


「そろそろいっかな」


 俺は腕の筋肉や足の筋肉を伸ばすようなストレッチを始めた。

 正直なところ、母さんには黙っていたことがある。それは入学試験の始まる時間だ。

 学院に行って持っている受験票を渡さなければならない。それまでの時間があと一時間半後。

 そしてここから学院のある王都には馬車で急いで三時間。絶望的な時間の差だ。


 本来ならだけど。


 まあ、あまりに懐かしくて居心地が良すぎて寝坊したのは自分なのだが、この時間であっても"今"の俺なら問題なし。

 ......よし、体もほどよく温まった。


「それじゃあ、余裕を持って着けるように行くとするか――――神風」


 前に出していた右足を強く踏み込んだ。その瞬間、地面にはわずかに亀裂が入る。

 その右足を伸ばすと同時に勢いよく走り出した。そして俺の姿は―――――この場から消えた。

 すると止まっていた時が急速に動き出すかのように強い風が周囲の木々を激しく揺らしていく。


 もちろん、俺がやっているのは風魔法でアシストして走力を上げているに過ぎないのだが、通るたびに近くの木がしなるほどの風が吹き荒れる。

 よってこれは人がいない時にしか出来ないことだ。通行人がいればたちまち空へと強制的に羽ばたいていくだろう。現に出会った魔物は舞い上がっている。


「うっ......」


 視界の端が歪む速度で走る中、思わず唸った。

 それは自分の魔法に関してでは無く、ボディに関してだ。


 俺の体型はオブラートに包んでチビぽっちゃりだ。なので大変に腹の肉が揺れて仕方ない。

 加えて、頬の丸ぼったいお肉もあご下のお肉も揺れに揺れる。そのせいで大変体が動かしにくい。

 やはり彼女と出会ってある程度過ぎたらダイエットせねば。格好もつかないし。


 〈遠視〉で通行人を注意しながら―――――一時間で王都に到着。


「はあはあ......」


 やはり一時間は疲れるな。だがやはり体が若いせいか大きな疲労感はあまりない。

 前の体であれば確実に膝にて手をつけているところだが、今は腰に手を当てるだけで済んでいる。

 ただ体から僅かな痛みを感じる。こりゃ、筋肉痛だな。体を鍛えてないからしばらく続きそうだな。

 にしても......


「久々に見るとデカイな」


 眼前に広がる光景は巨大な白を基調とした協会のような風貌の魔法学院だった。

 正面には横幅の広い階段があり、その最上段の真ん中には学院創設者と言われている初代勇者の金の像があった。


 階段を登っていく。この無駄に長い階段もよく昇り降りしたものだ。

 少しの懐かしさと多量の苦い思い出が蘇ってくる。

 ここで精神が壊れかけるまで惨めな思いをしたんだっけな。

 しまいには俺が救いたい彼女を俺が殺したことになったこともあるし。

 一度通ってほとんどクズしかいないとわかっているので、こちらから関わることは無いが。


 俺はそんなことを思いながら、ぼんやりと勇者の像を見ている。

 すると横側を銀髪の少女が通っていく。

 その少女は短い銀髪をして、もみ上げが肩ぐらいまで伸びている。それから、特徴的な少しはねた髪先。


 間違いない、彼女だ。

 俺の記憶の中で決して色あせず覚えていた彼女の姿だ。

 見間違えることなんて絶対無い。


 咄嗟に声をかけたくなった。

 初対面なのは重々承知だが、思わず嬉しくなって声が出そうになる。

 その時、先に背後から声をかけられた。


「どうしたの? こんな所で立ち止まって。場所がわからないとか?」


「ああ、レイナか」


「ん? どうして僕の名前を知ってるの?」


 俺に声をかけてきたの長い黄緑色の髪を毛先近くで緩くまとめている華奢の少女――――ではなく男だ。

 酷いことに顔も少女よりも少女らしい顔で、過去に男同士で取り合いにまで発展させた美少じ......ゲフンゲフン、美少年だ。

 ちなみに、こいつは昔の時も最後まで味方でいてくれた奴だ。気弱な部分もあるが良い奴だ。


 ふと背後に目をやるがもう彼女の姿はなかった。

 前回もこうやって近くを通っていたのだろうか。

 それは定かじゃないが、彼女と再会出来ることは確かなようだ。


 それにしても、咄嗟にレイナの名前を答えてしまったのは不味かったな。

 確かにこういう出会いだったのは覚えていたが、どのタイミングまでかは分からなかったしな。

 ともかくここは適当に誤魔化すか。

 口調も少しオドオドしたような感じにして、一人称も僕にして。


「えーと、なんというか......そう、君の顔が僕の知り合いのレイナって顔にそっくりで、思わずそう言ってしまったみたい。はははは......」


 く、苦しいー! さすがに言い訳が苦しすぎる!

 正直な話、彼女を助けることだけに意識を集中していたから、申し訳ないことに眼中になかったんだよな。


 すると俺の言葉を聞いたレイナはクスクスと笑い始めた。


「ふふっ、そんな珍しいこともあるんだね。ともかく、僕はレイノール・フランクリン。長いからレイナでいいよ。一緒に入学できるように頑張ろうね」


「僕はユリス・クロードフォード。ユリスで構わない。互いに入学できるように頑張ろう」


 俺はレイナが差し出してきた手を握った。するとレイナは嬉しそうに笑う。

 その顔はまるで少女のような可憐さを持っていて、男の俺でも先ほどの彼女がいなければドギマギしたかもしれない。

 ちなみに、レイナのいずれ呼ばれるようになるだろう通り名は"男殺し"である。


 そして俺はレイナと自己紹介の続きも兼ねて話しながら、試験場に向かった。


 階段を上がった先の通りの両端には勇者のパーティメンバーであろう数人の男女の像が並んでいた。

 石畳の道を多くの受験生が歩いていく。

 気立てのいい服に、いい靴を履いているのか響のいい靴音を慣らしていく。


 俺はみすぼらしいが、履きなれた靴だと言うのに。

 やはりどこもそこもいい所のお坊ちゃん、お嬢ちゃんらしいな。どうでもいいことだが。


 この学校は文武両道を謳っていているが、実際には武オンリーである。

 まあ、これは言い過ぎかもしれないが、大抵のものは実力で決まる。

 教師公認なら決闘だって出来るのだ。


 貴族らしき恰好の子が集まるのも古株貴族の支援があって学院が成り立っているらしいので、基本的には入学してくるのはほとんどが貴族だ。

 市民からの募集量は多めにしているらしいが、そこを通り抜けるのは狭き門だ。

 また市民の方もこの学院を卒業できれば、いい所に就職できるということで無理をしてでも来ている人達が多く、倍率が高めになっているのも原因だ。


 そう考えると過去の俺はよく受かったな。たとえまぐれだとしても強運すぎるだろ。

 とはいえ、その後の学院生活を考えれば良かったかどうかは怪しいがな。


 だからこそ思う。きっと彼女が生きていたら、もっと違う生き方をしてるんじゃないかって。


「どうしたの? 暗い顔して?」


「いや、なんでもない。少しナイーブになっていたかも」


「あー、確かに緊張するね。でも、きっと大丈夫だよ!」


 レイナはフンスと鼻息を少し荒くしながら言い切る。一体どこにその自信があるというのやら。

 だがまあ、それに助けられた部分もあったよな。


 俺達は受験票を見せに行くとそれぞれ緑色の宝石のペンダントを渡された。

 それは試験後にすぐに合格を知らせたり、危険を知らせるものらしい。

 それを首にかけると俺はレイナと向かい合った。


「それじゃあ、会場違うから僕は行くね。頑張ろうね」


「うん、互いに」


 俺はレイナと別れていく。そして気合を入れるように頬を両手で叩いた。

 まずは入学しなければ話にならん。必ず合格してみせる。

読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)



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