第3話 現在の実力
読んでくださりありがとうございます。(≧▽≦)
今日はここまでです。
「ユー君、試験日まで近いんでしょ? だから精のつくものいっぱい作ったわよ」
「お、おう......ありがとう、母さん」
俺はやや引きつった笑みをしつつも、丁寧に感謝の言葉を言った。
というのも、今食卓に並んでいる料理を見ているのだが、そこに山盛りのから揚げ、大量の串肉、丼ものご飯などなど数多くの料理が並んでいる。
そうだった、思い出した。
このわがままボディは母さんの長年の食によって形成されたものだったっけ。
俺の家は小さい頃から母さんが一人で俺を育ててくれた。
そして、俺には不自由なく食べれるものはしっかりと食べさせてくれた。
その気持ちに答えるために俺はできる限り出された料理を完食していったんだっけ。
それで俺が食うようになっていくにつれてエスカレートして言ったのが今か。
そう思うと言うに言いづらいが、今思えばさすがにこの量は食費がバカにならんだろう。
だからここはあえて言おう。家族だからこそ。
「母さん、次からはこんなに作らなくていいよ」
「え!? ユー君がそんなこと言うなんて......まさか病気!? どこ? どこが悪いの?」
母さんはシニヨンにした髪を揺らし、慌てふためきながら俺にがっついてくる。
いつもおっとりした目があんなにも見開かれるとは......そんなにおかしいことだっただろうか。
ともかくすぐに場を収めなければ。
「落ち着いて、母さん。俺はただこれ以上母さんに負担をかけたくないだけなんだ」
「!......やっぱりユー君がそんなことを......」
母さんはやはり驚いた表情で俺に告げる。
だがすぐに、目元を柔らかくさせて微笑みながら言った。
「ふふっ、心配してくれてありがとう。でもこれは私が好きでやっていることなのよ。だからユー君がそこまで心配することではないわ。とはいえ、息子に心配させられるなんて母親としてはまだまだね」
「そんなことないよ。母さんはよくやってくれた。だから少しでも自分の体調管理に目をかけて欲しいだけ」
俺はすでに一度、この過去を過ごしたから知っている。母さんがどれだけ頑張っていたかを。
毎日遅くまで知り合いの宿で働いていて、陰ながら支えていたかを。
それに、俺が学院でいじめられていた時には、遠く離れた場所であっても、手紙を送ってくれて優しく慰めてくれた。
俺がきっと卒業まで行けたのは母さんがいたからだろう。
けど、そのせいで母さんは倒れた。もっと長く生きられたはずなのに。
はあ、なんというか、過去に戻ってこんなこと思うなんてな。今更ながら全くの親不孝ものだ。
彼女を救うことは変わらない。けど、母さんにも心配かけないようにしないとな。
まあ、今の俺では恐らくその心配もないんだろうけど。
「なら、残り五日間はいっぱい食いたい」
「ふふっ、わかったわ。任せておいて」
母さんは元気よく右手にお玉を持ちながらグッドサイン。
その行動に思わず笑みがこぼれる。
そして「いただきます」と言って食事を始める。
肉汁が口に広がっていき、すぐになくなっていく。
そしてもう一度その余韻に浸りたくてどんどんと食べ進める。
ああ、懐かしい味だ。少しだけ泣けてくるな。
俺は一心不乱に食べ続けた。
食べ物の消化に関しては魔法で補助しているのでなんの問題もない。
そんな俺の食べる様子を母さんは嬉しそうに眺めていた。
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「ふぅー、懐かしすぎて食いすぎたな。少し運動しなければな」
俺は村の少し遠くにある森へとやって来ていた。
それは言葉通りの意味でもあるし、何より今の体でどこまで出来るのかを把握したかったのだ。
当初の俺は基礎属性魔法である火、水、風、雷、土のうち風属性魔法しか使えなかった。
もちろん、人によって適性はある。だがそれはその魔法しか使えないということではなく、単に苦手としているだけの話。
だが今の時代ではそのように認識させられていて、二属性使えればダブル、三属性使えればトリプルなんて言われている。
そしてその意識改革が始まるのは今から二十年後ぐらい。ちなみに、提言者は俺だ。
「そんじゃ、まずは風の基礎攻撃魔法でも使ってみるかな――――風弾」
右手を指鉄砲の形にすると人差し指の先に魔力を収束し始めた。
するとその指先に周囲の風が集まっていき、小石サイズの弾を作り出した。
そしてその弾を射出、前方にあった木に風穴を開けてそのまま木を砕き散らせた。
「おー、本当に前と同じぐらいだ」
当然の話だが、本来はこんな威力などない。
普通はデコピンしたような威力しかなく、言わば子供だましのような魔法だ。
だがたとえ子供だましの魔法でも様々な魔法を組み合わせることや魔力を込める量によって威力は変わってくる。
「それじゃあ、他のも試してみるか」
そう独り言ると残りの基礎攻撃魔法も試していく。
まずは火属性の〈炎弾〉。
これは木に当てると危険なので少し奥にある湖へと放った。
右手から放たれる松明ほどの炎の玉は水面に着弾した瞬間、大きな水柱を立てて爆発した。
威力は上々、普通の人に当たればもれなく灰と化すだろう。
次に使ったのは水属性の〈冷却〉。今回はこっちだ。
これは一応攻撃魔法に属するが威力は最弱。ただ人に寒気を感じさせるだけだ。
なので本来は、暑い日に体を涼ませることにしか使わないんだが......
俺は大きく水しぶきを上げて、依然として立っている水柱にその魔法を当てる。
開いた右手から白い煙が放たれると水柱に覆いかぶさった。
その直後、その水柱はカチンコチンに固まり、空中の水滴は雹となって降り注ぐ。
それを防御壁の魔法陣で防ぎながら、威力のほどに笑みを浮かべてた。
続いて使う魔法は雷属性の〈紫電〉だ。
これは水魔法の次に威力が弱い魔法で、食らっても冬場に金属を触ると起こる静電気程度だ。
これらを攻撃魔法という範囲に何故入れるのかすごく疑問に思うが、まあそうなってる以上はそうなのだろう。
そしてその水柱に人差し指だけを向け、魔法を使った。
先程から理解していると思うが俺が使う基礎攻撃魔法は普通に上級レベル(※静電気が雷レベルと思えばいい)を超えている。
なので......
〈紫電〉は紫色の電流を電気が弾ける音を立てながら、水柱に直撃させた。
直後、轟音とともに水柱は粉々に砕け散って周囲へと吹き飛んでいく。
最後に使う魔法は土属性の〈隆起〉。
これは土を盛り上げるだけのものなのだが、案外戦いの場においては相手のバランスを崩すのに使える。
とはいえ、重宝しているのは俺ぐらいのもので、大抵のやつらはその真価を見ずにして無価値と判断する。勿体ないものだ。
俺は向けたままの右手を平の方を空に向けるように裏返すと人差し指を真上に曲げた。
その瞬間、湖の周囲の地面が盛り上がって城壁を作り出すかの如く土の壁が形成された。
それは風切り音を立てながら散らばっていく氷の欠片を受け止めていく。
真上近くに飛んでいってしまった氷の欠片はどうしようもないが、少なくともあらかた散らばりを抑えられたはずだ。
「掃除はしっかりとしないとな」
再び手を裏返す。そして開いた手を下へと向けた。
すると周囲にあった地面は一斉に動き出し、湖の上へと覆いかぶさるようにうねりながら移動していく。
これできれいさっぱり元通り。まあ、湖はだいぶ小さくなってしまったが、仕方ないことだ。
右手を握ったり、開いたりしながらその手をじっと見つめる。
よし、基礎攻撃魔法でここまで―――――もちろん本気じゃない――――使えれば問題なく戦える。あとは加減を覚えるぐらいだな。
思わず笑みがこぼれた。それは嬉しかったからだ。
まだ目的を果たしていない以上は心の底からとは言えないが、それでもここまで諦めずにやってこれた。
「必ず助ける」
独りよがりかもしれない。だが、それでもいい。
彼女が助かることが、俺の喜びなのだから。
「まずは学院に入学することだな」