第33話 三回目の魔物狩り#5
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ラスト前です
俺は笑っていた。それは目の前に立ちはだかる巨大な化け物に対して。
その化け物は凶悪ないくつもの甲殻を足先につけながら、凶悪な牙を見せつけるように吠えている。
もう以前の陰キャの姿はない。正真正銘の化け物だ。
俺はふと周囲を確認する。
レイナも金髪サルも驚いているようだ。まあ、金髪サルにとってはそれ以上の驚きが今全身を襲っているだろうが。
「どうしよう.......またこうなってしまった」
俺は不意にリーゼルのか細い声を聞いた。その声は後悔と悲壮感が混じったような声であった。
そして抱える腕から感じる震え。気丈と思っていたリーゼルの思わぬ様子。
まあ、無理はない。目の前にいるのは到底適うはずもない相手なのだから。
俺を除けば、だがな。
「安心してくれ。俺はこのために戻ってきたのだから」
「え?」
俺の言葉にリーゼルは疑問を感じているようだ。それも無理はないことだろう。
だが今はそれに答えている暇はない。
あの化け物が完全にオレを標的と定めた以上、この場でこうして抱えている状態は余計な危険を生む可能性がある。
俺はリーゼルをその場に降ろすとそのまま軽く背中を押した。
そして僅かな視線移動でこの場から離れるよう指示をする。だがリーゼルは動こうとはしなかった。
「どうした?」
「ゆ、ユリスも.......ユリスも早く逃げなきゃ」
先ほどとは打って変わっての表情に俺は思わず困惑する。顔も態度からも"恐怖"という二文字が浮き彫りになっている。
以前のリーゼルは同じように化け物を見てもあまり態度は変わらなかったというのに。
これも歴史が変わった影響か。はたまた過去ではなく似たような世界線に来てしまっただけなのか。
これまでに幾度となく不可思議なことがあったので、あの神龍の行為を疑わざるを得ないが.......まあいい。
こうしてリーゼルが生きているのなら、俺はただ守るだけだ。
「大丈夫。俺を信じて」
「ユリス!」
俺はリーゼルの呼び声を背にしながら化け物に向かって歩いて行く。
ようやくだ。ようやく俺の化けの皮を剥がせる。これまでの全てを晴らせる。
長かった。とても長かった。限りない時間を戦闘に費やして、ようやく来た現在。
これまでのリーゼルと過ごした時間は実に楽しかった。だがもう、これで終わりだ。彼女を死の呪縛から解放するんだ。
「ガアアアア!」
「そう焦んなよ」
化け物は鋭い甲殻の触手を俺に向かって突き出してくる。当たれば貫通どころか原型すらなくなるだろう。
だが俺はそれを左手に魔力障壁を作り出して、先がそれに当たった瞬間サイドへとズラしていく。
するとその効果子は地面へと深く刺さり、地盤を割ったのか地割れを起こしていく。
「ガアアアア!」
「神速」
化け物は残りの十数本もの触手を俺に向かって一斉に突き出してくる。
だが俺は自身の体を高速化させることで簡単に避けていく。
もっとも理性のない化け物は獣とそう変わらないため実に躱しやすいだけなのだが。
「超剛腕化」
「ガアアアア!」
俺はふいに止まると体に強力な筋力バフをかけていく。するとそこを好機だと思った化け物は触手を一気に突き出してくる。
「骸の刃」
俺は右手に黒い骨の柄に長い刃を携えた刀を魔力で作り出すと同時に左手で迫ってきた触手を受け止めた。
そしてそのことに驚きの声を上げる化け物に魔力を通して刀身を伸ばした殺意の刃でその足を斬り落としていく。
「俺さ、ずっと確かな疑問があったんだよな。必死に何かの気の迷いと思っていたけどさ。お前を見てようやく合点がいったんだ」
左手の触手の先が化け物の方を向くように持ち変えるとそのまま投擲。
ゴオオオオオオと空気を切り裂く音とは程遠い音を響かせながら、化け物の胴体へと向かって行く。
それを化け物は咄嗟に他の二本の触手をクロスさせるが、止められたものの二つの触手の甲殻は砕け散った。
そんな様子を見ながら俺は悠然と歩みを進め、左手に魔力を集めていく。
「どうして俺はお前に会うことにこだわったのか。それは確かに助けるため余計な危険をはらむ要素を消すためだったり、俺自身が動きやすくするためだった。だがだけが全部じゃなかった―――――――血染めの紅い凶器」
左手に作り出したのは刃先から柄まで全て紅い剣。まるで血で染め上げたようなその刀身は妖しく標的を映す。
雨が降り続ける。ザーザーと振っていた雨はと途端にバケツをひっくり返したような土砂降りへと変わっていく。
ああ、この感覚。この雨音。この雨の匂い。全てあの時と同じだ。
だが違うのは俺が強くなっていて、そしてリーゼルが生きているということ。
俺は両手の剣を腰近くに持ちながら、不敵な笑みと凶悪な目つきで化け物を捉える。
すると化け物は僅かに動いた。まるでこれほどまでの体格差がありながら、俺に臆しているように。
そのことを少しだけ頭の片隅に入れつつ、言葉を続けていく。
「俺はな.......きっとこの時を待っていたんだと思う。こうして大切な人を助けられると同時にお前へと恨みを晴らせることをなぁ!」
そう、これはいわば俺の復讐の意味合いも含まれていたのだ。
もっとも俺自身もその気持ちに気付くのはだいぶ遅かった。恐らくリーゼル優先で物事を考えていたからだと思うからだろうが。
ともあれ、俺の気持ち的にはそうであるらしい。まあ、あんな光景を見てしまって恨まないはずもないか。
俺は一気に駆け出す。長いあしの草をものともせず、剣の腹で草の葉を撫でながら進んでいく。
「ガアアアア!」
そんな俺に危機感を感じたのか化け物は一気に触手を突き出してくる。
しかし俺は<神風>も使いながらその空を埋め尽くすような悪意の一撃を簡単に避けていく。
また避けた片っ端から足の腕と触手を斬り外していく。
すると化け物はさらに大きく吠えると斬った部分から二本の足を生やし始めた。しかも甲殻付き。
再生能力も持っているとは驚きだが、それだけのことだ。数が増えようとやることは変わらない。
俺は大きく横に回りながら隙を伺っていく。その通ったすぐ後に地響きを鳴らしながらいくつもの触手が地面へと突き刺さっていく。
「ガアッ!」
「!」
俺に攻撃が当てられないことに痺れを切らしたのか。化け物は口から細い針を吐き出した。
細い針と言っても槍ほどの太さだ。そしてその針の先には矢じりのような返しがついている。
つまり当たれば即死でもあり、致命傷を外しても外すことが出来ない可能性がある。
なら、当たらなければいい話だ。
俺は両手の剣で十数発もの針を払い落としていく。するとすぐに、挟み込むように触手が迫ってくる。
それを真上に跳躍して避けながら、次々に来る触手を素早く位置を見極めながら斬り落としていく。
すると化け物は再び斬り落とされた足を再生させようとするが、今度は出来なかった。
それも当然、俺が斬るときに炎を纏わせて斬ったからな。出来なくて当たり前。
ふと背後を見ると驚愕を通り越して石のように固まった三人がいた。
まあ、それはそうだろうな最弱だと思われているやつが化け物と戦っているんだから。
それに先ほどの攻防なんてまるで演武をやっているような剣の舞だったからな。そう思うのも無理はないか。
「もう十分だ。終わらせる―――――彫刻されし剣の岩」
俺は右手を突き出すと骸の剣を逆手に持ち、しゃがみながら地面へと突き刺す。
すると地面から化け物の触手の数に合わせた岩でできたような剣の刀身が地面から生えてくる。
それはように化け物の触手を貫通していき、逃げ出すことはおろか動くことも叶わなくさせた。
地面から剣を引き抜くとそれを魔力へと変換させた。そして立ち上がると土砂降りの雨の中、一際紅い剣を右手に持ち変える。
そして左手をその剣の腹に沿わせるように動かしていくと同時に、何かを呟く。
「ガアアアアア!」
「うるせぇ、黙ってろ」
俺は化け物の胴体へと接近しながら一気に跳躍。
逆手に持った紅い剣を化け物の額辺りへと思いっきり突き刺した。
するとその瞬間、化け物は断末魔の叫びを上げながら、絶命したかのように地面へと後ろ向きに倒れ込んだ。
そして、俺は僅かに体を後ろに向けるとそこには未だ驚きが隠せない様子のレイナと金髪サルに、そのさらに後ろからやってくる教師と思われる人影。
それから―――――――
「ユリス.......全てを話してもらうよ?」
「ああ、わかった」
深刻な表情をしたリーゼルの姿があった。




