第32話 三回目の魔物狩り#4
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リーゼルは陰キャの甲殻類のような右腕を氷で作り出したこん棒で受け止めるとそのまま受け流していく。
そしてすぐに左手の氷の盾で弾き飛ばすようにプッシュする。
だがそれは陰キャが後方に跳ぶことで威力を軽減され、大したダメージにも至ってない。
「連なる氷の山」
リーゼルはこん棒を地面スレスレに這わせるように下から上へと振っていくと陰キャに向かって氷の山が地面から出来上がり、真っ直ぐ伸びていく。
それを陰キャは右に跳んで避けるとリーゼルは動いた方向にすぐさま近づいていく。
「ぐっ」
陰キャは咄嗟に右腕を突き出すがそれは盾でガードされ、代わりにこん棒が左わき腹を襲う。
だがその痛みに堪えながら、左手を盾に触れさせるとそこに魔法陣を作り出す。
「!」
すると盾から二体の蛇の魔物が現れ、ほぼゼロ距離から顔面へと鋭く尖らせた牙で噛みつこうとしてくる。
そのことにリーゼルは驚く表情を見せながらも、バク転することで蛇の攻撃を躱し、その勢いで蹴り飛ばしていく。
「んっ」
リーゼルは蛇の攻撃を躱して体勢を立て直した瞬間、右側からカニのハサミのような手が迫っていることに気付いた。
そして咄嗟に盾を右側に寄せガードには成功するが、勢いを殺すことは出来ずに大きく吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
「リーゼル!」
俺は思わず叫んだ。そして近づこうと接近する。
リーゼルが戦って傷つく姿なんて見たくない。そもそもリーゼルが傷つかないための歴史改ざんのはずだ。
それにリーゼルから戦闘への乱入を止められたわけじゃない。今ならまだ間に合う。
だがその前にリーゼルの聞いたこともないような大きな声が耳の中に流れ込んでくる。
「来ないで!」
俺はその言葉が理解できなかった。
確かに、陰キャの気持ちを真っ直ぐ受け止めるという意味ではリーゼルが答えるのが当然だろう。
しかし今はただの言葉のやり取りじゃない。極端に捉えなくても、片一方は殺す気で戦っている。
いくら今が善戦している方だからって、最終形態を知っている俺からすればリーゼルが気が気でない。
だがリーゼルは俺の心の内を全て見透かしているように告げてくる。
「これは私の戦い。私がロウ君に答えをあげなきゃいけないの。それにもう私のせいであんな姿を見たくない。知りたくない。だから――――――手出ししないで!」
「.......!」
俺は思わず歯噛みし、拳を強く握る。そして、その手からは爪が深く食い込んだせいか血が地面へと滴り落ちていく。
結果から言えば、俺は動かなかった。それはリーゼルの言葉を信じたから。
本当は動くなら今すぐにでも動きたい。でも、自分の大切な人が覚悟を決めた戦いであるならば、それを邪魔したくない。
何より信用しているという思いを違えたくない。だから動かなかった。自分の気持ちを押し殺して。
(良かった。信じてくれて)
そんな俺を見てリーゼルは小さく何かを呟くとこん棒を支えにして地面から立ち上がる。
そして陰キャへと再び構えた。その様子に陰キャは再びイライラした表情で襲いかかってくる。
「どうしてわかってくれないんだ!」
「なら、私の気持ちがロウ君にはわかる?」
陰キャはランスのような右手を鋭く突き刺す。だが、その殺意の籠った一撃は盾で容易く逸らされる。
次に左手のハサミを横なぎに振るった。しかし、それはハサミを踏み台にされて背後へと跳躍して避けられる。
「がっ」
陰キャは再び右手を横なぎに振るった。その攻撃をリーゼルは再びこん棒で自身の上方へと逸らしながら、こん棒から伝えた冷気で凍らせていく。
そして勢いを上手く殺したところでその腕を手前側に引いて、右脇腹へと右脚を蹴り込んでいく。
「!」
だが、陰キャはその攻撃で吹き飛ばなかった。それは自身の右足をタコの足のような姿に変えて、その足の吸盤で地面へと固定したからだ。
それからすぐさま、右腕を引くと体の向きを合わせるように捻りながら、左手を下から上へと大きく振るっていく。
それをリーゼルは咄嗟に盾でガードするが、その盾は吹き飛ばされ、目の前ががら空きになる。
「これで終わり――――――何!?」
陰キャは醜い笑みを浮かべると右手の甲殻ランスを体を捻りながら一気に突き出す。
だがその攻撃が直撃する前に目の前を通り過ぎる黒い影とともにリーゼルはブレていくように消えた。
そして激しい突風が陰キャの体を持ち上げて吹き飛ばすように襲う。しかし吸盤によって固定したことによって動かなかったが。
「もうこれ以上は無理だ」
「え?」
当然、その黒い影とは俺のことだ。もう二度とあんな悲劇はごめんだからな。
とはいえ、リーゼルは俺が突然助け出したことに、俺がリーゼルをお姫様抱っこで抱えていることに疑問を抱いているようだ。
そんなリーゼルに俺は優しい笑みを浮かべながら地面へと立たせる。
「ユリス? どうしてここに?」
「どうして.......か。それは当然、恩人を助けるためさ」
「恩人.......」
リーゼルは未だ困惑している表情だ。まあ、当然と言えば当然なのかもな。
今までの俺は最弱(演じていたのだが)であった。
そして、恐らく前々から陰キャの気持ちに気付いていて、陰キャの嫉妬の対象であるであろう俺を守るために動いていた。
そんなところだろう。
だがもういいんだ。もう俺を守ろうとしなくていい。今度はリーゼルが守られる番なんだ。
「リーゼル、僕......いや、俺はいろいろと謝らないといけないことがある」
「ユリス? 一人称が.......」
「それについては全てが終わったらしっかりと話すよ。ただもう、リーゼルは頑張らなくていいんだ。君は十分に俺に尽くしてくれた。俺が君から貰ったものは多すぎて、そしてどれもかけがえのない大切なものだ」
「.......」
「だけど、何よりも大切なのは君なんだ。もう傷つく必要はない。俺のためになんかな」
「.......!」
「だから今度は俺の頑張りを見ていてくれ.......いや、俺がいたということを知ってくれてさえいれば、俺は嬉しい」
「ユリス、もしかして――――――」
リーゼルが俺に何かを言いかけた瞬間、俺に向かって鋭い殺意が近づいて来る。
それにいち早く気づいた俺はリーゼルを再び抱えるとその場から大きく跳躍していく。
するとそこには陰キャの右腕にあったランスが地面に噴煙を巻き上げながら突き刺さっていた。
そしてそのランスは吸盤のついたタコの足のような触手から伸びていた。
「おいおい、まだ俺とリーゼルが話している途中だろうが。そんなことも待てないのか?」
「うるさい! お前のようなゴミが僕のリーゼルに触れるな!」
「いつからお前のものになった? そもそもリーゼルをもの扱いするな。お前の程度が知れるぞ」
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!」
陰キャは狂ったように言葉を告げるとその体積を大きくしていく。
胴体から生えていた足はその一つ一つを大きく太いものへと変えていき、俺の視線は少しずつ上の方へとていく。
またそれに比例して胴体も大きく膨らんでいき、やがて人の形を無くした醜い化け物へと姿を変えていく。
顔すらあるかどうかわからないそれはイラ立ちを表すように何本もの足を地面へとうねらせ、叩きつけながら、その足先を全てランスのような甲殻に変えていく。
その容姿を一言で言えば、神話に出てきそうなゲテモノだ。見るだけで悍ましい。
「ガアアアアアアァァァァ!!」
そして、陰キャだった化け物は天高く吠える。
その声は周囲を吹き飛ばすように衝撃波のようなものを放つ。
その姿を見た俺は―――――――不敵な笑みを浮かべた。




