第31話 三回目の魔物狩り#3
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いよいよ終わりが近づいてます。
俺の目の前で陰キャがリーゼルにキレイな一本背負いをされて地面に叩きつけられていく。
背中から地面についた陰キャは痛がるような声を出すも、それに対しリーゼルの表情はとても冷たかった。
俺はその光景が理解できなかった。なぜなら、その行動はリーゼルが犯人を確実に知っているという証明なのだから。
俺が知っている歴史とはまるで違うリーゼルの行動。だが、それはこれまでにも同じようなものがあった。
しかし、そのどれと比べても今の衝撃は著しく大きい。
―――――リーゼルはいつから知っていた?
この世界がやはり自分の過去とは違う世界線の過去だとして、リーゼルはいつの間に陰キャがこのような行動を取ると気づいていた?
ということは、今までの俺への行動は全て俺を陰キャから遠ざけるための行動だったとでもいうのか?
ポツリポツリと雨が降ってくる。それによって、周囲を満たしていた濃い霧が消えていき、遠くがハッキリ見渡せるようになってきた。
そして、その雨はこの場にいる全員の体を激しく打ち付けながら、雨音を響かせていく。
俺は濡れた顔で呆然とリーゼルを見つめる。
リーゼルは何を知っているんだ? リーゼルはこれまで何がしたかったんだ? このリーゼルは本物なのか? そもそも俺がやって来た過去は本物なのか?
考える頭が停止した中でもそのような疑問はふつふつと湧き上がってくる。
その時、陰キャは体を横に転がしながら素早くリーゼルから離れるとイラ立ったように告げる。
「知ってた? 君が僕の何を知ってるって言うんだ! 僕の気持ちも気づかないくせに僕に知ったような口を聞くな!」
「それでも知ってる」
「ふざけるな! 確かに、僕は意気地なしだったかもしれない。でも、僕の君に対する思いはどこまでも溢れていたはずだ! 少なくとも、そいつよりは!」
「.......」
「そもそもなぜそのゴミ野郎とばかりつるむんだ! そのゴミは学院で最弱、言わば廃棄処分なんだぞ!? どうしてそんなにもそいつばかりに優しくするんだ! そいつが君に何をしたっていうんだ!」
陰キャは身勝手な言い分はこれでもかとリーゼルに告げていく。
だがリーゼルはそれに対し、ただ冷たい表情を向けるだけで答えようとしない。
そのことに陰キャは増々腹を立てていく。
「なぜ何も答えない! それすらも答えてくれないのか!? 僕は君のことを知ろうとした! なのにどうして君は僕のことを知ろうとしてくれない!? 君にとって僕はなんだ!?」
「友達だよ――――――先ほどまではね」
リーゼルははっきり聞こえるように陰キャに伝える。その言葉に陰キャは思わず絶句した。
リーゼルの反応は当然だろうな。だがまあ、それも訳ありで判断したという感じの方が近いかもしれないが。
するとリーゼルはおもむろに言葉を発した。それも先ほどの質問に対して。
「そういえば、ロウ君はユリスが私に何をしたかって聞いたよね? してくれたよ。本人は気づいてないだろうけど」
「何を?」
「ユリスは私に温かさを与えてくれた。冷え切っていた心に明るい笑みと声で温もりをくれた。それはユリスにとっては何気ないこと、普段と変わりないことだったかもしれないけど、私にとっては大きなことだった」
「それなら僕だって―――――」
「ずっと前の話だよ」
リーゼルは陰キャの言葉を遮るように強めの口調で告げた。
どうしてその言葉を強調して言ったのかはわからない。だがその言葉は確かに陰キャの心を壊した。
「なら、いいさ。僕は一途だ。僕は諦めない。君を殺してしまえば、君は永遠に僕の中で生き続けるんだからな!」
陰キャはどす黒い魔力の渦を周囲にはなっていく。
その圧力は物理的に体を押し飛ばすように周囲へ強い風を発生させていく。
すると金髪サルはそんな陰キャに対して思わず声を荒げた。
「おい、ロウ! お前、どうしたんてんだ!? 正気に戻りやがれ!」
「うるさい!」
「ぐっ!」
陰キャは金髪サルこの言葉に聞く耳持たずといった様子で、さらに黒い波動を金髪サルへと放っていく。
その攻撃に直撃した金髪サルは大きく後方へと吹き飛ばされる。
その光景を見たリーゼルは鋭い目つきで陰キャを睨んだ。
そして少し身を屈めると一気に陰キャに向かって走り出した。
「ぐふっ!」
リーゼルは陰キャの腹部へと思いっきり跳び蹴りを入れると吹き飛ばした。
それによって陰キャは体を地面に打ち付けられ、転がっていく。
そして地面に這いつくばる陰キャにリーゼルは告げた。
「友達に攻撃するなんて許せない。私が相手になる」
「待ってリーゼル!」
俺はその言葉に思わず叫んだ。それは過去と重なったようにリーゼルの死のビジョンが頭を過ったからだ。
しかしその言葉にリーゼルは先ほどとは打って変わって優しい笑みで俺に告げた。
「安心して、ユリス。もうユリスに悲しい思いはさせないから」
「!」
俺はその言葉に驚きが隠せなかった。なぜなら、その言葉は自分のことを知っているようでもあったから。
いや、むしろ知っていると断言できる言葉でもある。
だが不思議とその言葉には安心感があった。だから思わず歩み出そうとした足を止めた。
そんな俺を置いて、リーゼルは陰キャに向き直す。立ち上がった陰キャはリーゼルを睨みつけるような目で右手に魔力を高めていく。
「君は僕のものだ!」
陰キャはしゃがんで右手を地面につけるとその手の前に魔法陣が現れて、その魔法陣から五体のオオカミの魔物が現れた。
「私は君のものじゃない」
リーゼルはそう言うと一度大きく深呼吸して、右手をかざした。
「氷の飛針」
リーゼルが手元から作り出したいくつもの氷の針をオオカミに向かって一斉射撃。それによって、二体のオオカミが胴体を撃ち抜かれていく。
「連なる氷の山」
続けてリーゼルは左手を下から上へと振り上げていくと地面の上に白い冷気がオオカミにむかって一直線に伸びていき、その後を追うように氷の山が出現していく。
そしてそれは残りのオオカミを串刺しにした。
さらにリーゼルは冷静に周囲を見渡して空中からいつの間にか現れ、襲ってくる三体のワシの魔物に氷の針を右手からすぐに射出していく。
「ここだ!」
背後から気配を消して忍び寄った陰キャは右手に持ったダガーをリーゼルに突き刺そうとする。
その気配に気づいたリーゼルはすぐさま反転しながらバックステップ。
さらに氷の冷気を下から上へと流していき、陰キャのダガーを持った右腕を固定するように氷の壁が出来上がった。
「諦めて。今のあなたじゃ、私には勝てない。どうか私の思いはこれだけで終わらせて」
「ふざけるな.......僕の愛はこんなものじゃない!」
するとその時、陰キャの腕を固定していた氷の壁に亀裂が入った。そしてそのヒビはどんどん大きく広がっていく。
それは陰キャの右腕がその体積を増やしているからだ。
「うぐぐぐぐ!」
陰キャは唸り声を上げながら右腕を甲殻類の手のように変えていく。だがその形状はハサミのようではなく、ランスのような形だが。
そしてその腕が肘辺りまで大きく膨らんでいくとついに氷の壁を破壊した。
「どうだ? 僕は君のためなら人間を辞められる」
「ロウ君のそれは望んでない」
リーゼルのハッキリした口調に陰キャは歯ぎしりを立てながら、青筋を走らせる。
「まだ僕の思いが伝わらないようだね。君は僕の中で永遠に生き続けるって言ったじゃないか!」
「それは私が望んだことじゃない」
リーゼルは左手に氷の盾、右手に氷のこん棒を作り出すと構える。
そして二人は同時に動き出すと互いの武器をかち合わせた。




