第30話 三回目の魔物狩り#2
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俺は酷く困惑していた。それはリーゼルの行動にだ。
リーゼルの行動は俺の歴史を変えていく。俺が辿ろうとした未来を歪めていく。
それはまるで俺の考えに気付いているかのように。
確かに、俺は今までリーゼルを疑問を抱かせるような行動をしてきたかもしれない。
だが、少なくともこんな時にこんなことをされるほどではないと思う。
そもそもリーゼルはどうしてこの行動を取ったのだろうか。
明確な理由もなく、ただ「危険な感じがしたから」と言われらなら、さすがの俺でも納得しかねる。
「リーゼル! 止まって! 急にどうしたの!?」
「そこは危険。だから、言うこと聞いて」
「何が危険なの!? せめてそれぐらいは教えてよ!」
「危険だから!......お願い、言うこと聞いて」
「!」
リーゼルは俺に僅かに顔を向けると潤んだ瞳と少し上ずったような声で俺に告げた。
その一言で俺はしつこく聞こうとした意思は簡単に消し飛ばされた。
だが、その代わり大きなしこりだけが俺の胸の中に存在した。もともとあった者がさらにその面積を増やす形で。
とはいえ、俺がたとえ黙ろうとも他の皆が黙っていない。
全員がリーゼルの不審な行動に言葉を投げかけていく。
「おい待て! 急にどこに行きやがる!」
「リーゼルちゃん! 何が理由があるなら教えて! そうじゃなきゃ、何もわからないよ!」
「そ、そうだよ! あの場所に何があるって言うんだ!?」
俺は依然リーゼルに手を引っ張られながら、後方にいる陰キャをチラッと見る。
そいつは何かを焦るような表情をしていた。ただそれがリーゼルの行動に関してか、そいつ自身の企みによるものなのかはわからないが。
少なくともあいつがこの先キーマンになることは確か。だが、こうも歴史が変動しているとさすがの俺にも予測は出来ない。
そしてしばらく走り続けた所で、リーゼルは段々と走るペースを落としていく。
やがて止まると俺から手を放して、膝に手をつけながら大きく肩で呼吸を繰り返す。
またそれは俺も、俺達以外も同じことでこの静かな場で荒い呼吸の音だけが響く。
すると息を整えた金髪サルが横にある木を思いっきり殴りつけながら、リーゼルに聞いた。
「てめぇ、しっかりと説明しろ」
怒気を字で表したかのような表情のそいつにリーゼルは冷静に答えていく。
「あそこが危険だっただけ。酷く胸騒ぎがした。だから理由もなく走らせてしまった。ごめんなさい」
「.......そうかよ」
金髪サルは何かを言い返そうとしたが不貞腐れたような態度をとるだけで、それ以上何も答えなかった。
それは恐らくリーゼルとの力の差があるとわかっているからだろう。
良くも悪くもこいつは実力主義の典型の生徒だ。故に、現時点で弱者である以上従うしかないと思っているのだろう。
俺は再び陰キャをチラッと見る。だが、特に動きはない。いや、それはむしろ異常か。
あいつは俺に対して嫉妬していた。それも隠さないほどに。
しかし、今のあいつからは嫉妬の「し」の字も見当たらない。諦めたのか?......まさかな。
するとここで、レイナが空気を変えるように明るい口調で仕切り始める。
「そ、それじゃあ、早いとこグリードウルフを討伐しに行こうか」
「うん、そうだね。リーゼルがあの場所が危険と言うなら、他の場所も危険である可能性が高いしね」
俺はレイナに同調するように明るい声を出した。そのことには不本意であろう表情の金髪サルも同意のうなづきをした。
そして、俺を先頭にしてグリードウルフ狩りが始まった。
俺は地面の足跡を探るように歩きながら、<魔力探知>と<超聴覚>でグリードウルフの群れの魔力を探っていく。
見つけると俺は慎重にその場へと歩き始めた。それから、その場所に辿り着くと茂みに隠れて様子を見る。
するとその時、グリードウルフの群れ(計六体)は同時にうつむいていた顔を上げると耳をピンと天高く上げた。
どうやら俺達の茂みに隠れた音を探しているようだ。せわしなく耳の向ける方向を変えていく。
それに対し、俺達は息を潜めながらグリードウルフの警戒が解かれるまで眺め続けた。
それは一分、三分、五分と経っていき、それでも尚グリードウルフは逃げるようなこともせず周囲の音を探り続ける仕草をしていた。
一方、俺達はと言うと少しだけ全員に疲労の顔が浮かんでいた.......いや、正確には陰キャを除く全員だが。
俺はジッと眺め続ける。そして、やっとグリードウルフは地面の臭いを嗅ぎ始め、我慢比べに勝利した俺達は行動し始めた。
「氷の障壁」
まずはリーゼルが茂みから飛び出すと逃げ足の速いグリードウルフを袋のネズミにするように一か所だけ穴をあけた氷の壁を作り出した。
「弾み遊ぶ風」
そこにレイナが風を流し込んでいく。するとボールが弾むように風の気流は動いていき、その風で捉えたグリードウルフを継ぐ次に宙へと浮かせていく。
「剛拳」
「着弾し爆発する炎」
金髪サルと陰キャが一か所の穴から侵入していくと宙に浮かせたグリードウルフには炎の弾が、気球を避けて入り口に向かうグリードウルフには岩のように固い拳が襲った。
炎弾がグリードウルフに着弾し爆発するとともに、一方では鋭い牙を見せながら飛び掛かってきたグリードウルフをファイティングポーズを取った金髪サルが殴り飛ばす。
その数は一体、また一体と数を減らしていき、最後の一体に金髪サルが止めを刺したところで終わった。
そして素早く討伐証明である牙を取りながら、グリードウルフの死体は必要な肉だけ剥ぎ取って地面に埋めた。
「リーゼル、この肉を凍らせてくれないか?」
「お安い御用」
俺は剥ぎ取った肉をリーゼルに見せるとリーゼルはその肉に手お当てて素早く凍らせていく。
これで鮮度は保たれた。グリードウルフの肉は美味いから是非ともリーゼルに食べさせてあげたい。
まあ、それはこれから起こる全てを終えた後のことだけどな。
グリードウルフの戦闘を始めてから今までの流れは完璧だ。多少に誤差はあろうとも変わっていない。
にしても、こんなに遅かったものだろうか。いや、本来ならリーゼルがここに連れて来る前の場所だったから違っているのか。
だとすると、やはりこの次の行動も変わってきたりするのだろうか?
もしそうなったとしたら、正直俺は腹をくくるしかない。
だが、まだ修正余地があるのなら、俺は不確定要素を排除した上で動きたい。
俺はリーゼルの顔色を伺う。その顔はどこか焦っている表情にも見えなくない。
にしても、リーゼルは何に対してそれほどまでに焦っているのだろうか。
少なくとも、今のリーゼルにはこのさきの歴史のことなどわからないはずだ。
しかし、これまでのリーゼルの総合的な行動から推測と何とも否定出来なさそうな事柄がたくさん出てくる。
だが、そんなことを考えてもリーゼルが死んだという事実は変わらない。
それは俺が一番良く知っていることだから。
俺がその思考に陥っていると突然悲鳴のような声が近くから聞こえてきた。
咄嗟にその方向を見ると陰キャがリーゼルの首元に背後から右腕をかけながら、左手を俺達の方に向けている。
「近づくな! 僕のリーゼルには誰一人近づけさせない!」
陰キャは俺達を牽制するように声を荒げる。そして左手にはすぐに魔法を行使できるように魔力を蓄えていた。
そいつの突然の行動に全員が驚き、思わず言葉を失った。
それは俺も例外ではなかった。
なぜならそいつは......
「来ると思ってた」
リーゼルに腹部を肘鉄された挙句に投げ飛ばされたからだ。




