第29話 三回目の魔物狩り#1
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「これからお前らは霧の森と呼ばれる場所でグリードウルフを五体討伐してもらう。やつらは基本群れで行動しているので、相対すれば確実に五体以上はいるのですぐにクリアできるだろう」
担任のフェイリスが拡声器なしの大声で集められた生徒全体へと話していく。
一体その声はどこから発せられているのだろうか。魔法の感知がないので地声だと思われるが。
俺はついに始まった三回目の魔物狩りに少しだけ緊張を感じていた。それは当然、この先に起こるだろうことを予想して。
そのための準備はしっかりとしてきた。だからそのポイントに至ればあの時の化け物は確実に狩れるだろう。
「ユリスも緊張してみるみたいだね。でも、力を合わせれば大丈夫だよ。リーゼルちゃんもいることだしね」
「そこは『自分もいるからね』だろ?」
「僕はそこまで胸張って言える自信はないよ」
「それは私も同じ」
俺とレイナが話しているところにリーゼルが入ってきた。
声のトーン的にはいつも通り。そう「的には」だ。
実際良く見ると顔に出にくいリーゼルがわかりやすいほどに怒気にも似た強気の瞳で俺を見てくる。
リーゼルが向いている方向はレイナの方だというのに。
当然、そのわかりやすい行動にリーゼルは気づいている。そして少しオドオドした様子だ。
まあ、そんな感じで多少のギクシャクを残しながら担任の話を聞いていく。
先ほど言った言葉に対しては周囲から「楽勝だろ」とか「余裕とか」聞こえるがグリードウルフはそう単純じゃない。
「お前ら、随分と余裕そうな顔をしているな。ということは、事前に情報は送られていたはずだから、しっかりと事前に生態を調べて準備万端で忠告は要らないということだな?」
「「「「「.......」」」」」
「だんまりか、アホどもめ。いいか? ここには冒険者志望で入ってくるものもいるが、大半は宮廷職や貴族の跡継ぎばかりで関係ないと思っているだろ? それは大間違いだ。時には自分の体を張って出動しなければいけない時もある。特に下っ端時代なんてザラにそうだ。そんな甘ったれた考えだと......死ぬぞ?」
相変わらず貴族に物怖じしない強気の口調だ。それ故に、職員の中では嫌う人もいるらしいが、俺は嫌いじゃない。むしろ感心する方だ。
とはいえ、もう少し言い方はあっただろうが、間違ってはいないな。
どこもそこも事前に調べないのは貴族故の傲慢さか。はたまた誰かが調べているとでも思っているのか。
だからレイナ、そんな奴らとは違うよな......と言いたかったが、「しまったぁ」感が顔から滲み出てるぞ。次からは気をつけろよ。
「今のは脅しだ。次からは調べろ。それじゃあ、説明するとグリードウルフは群れで行動するが、見つけるのは至難の業だ。それは警戒心がやたらと高いからだ――――――」
それからの担任の話を要約するとこうだ。
グリードウルフは警戒心が高い。それは言い換えれば憶病ということだ。
どれぐらい憶病かというと十メートル離れた位置で自身より小さい捕食対象のホーンラビットが草むらを動いた音でさえ逃げ出すほどだ。
だからこそ、奴らは用意周到に狩りをする。
まず奴らは仮をする時は必ず一対多数だ。もちろん、ウルフ側が多数である。
そして奴らは数を活かして、対象物が逃げ出さないようにグルグルと周囲を回り続け、その範囲を徐々に狭めていく。
しかしそれだけなら魔法が使える俺達が有利かもしれない。
だが奴らは唯一の魔法を持っている。それが<瞬風>である。
簡単に例えるなら速度を上げる最上位魔法<神風>の劣化版だが、魔物特有の野生の脚力と合わされば脅威だ。
少なからず、それらの魔物との戦い経験が浅い貴族どもが襲われれば何人かは餌食になるだろう。
通常の速さから急激に速度が上がると対応できるのは本当に実力者だけになるし、普通の人は当然固まって動けないだろうからな。
加えて、今回は霧の森だ。常に霧がかかっているそのフィールドではさらに難易度は高くなり、避けられる確率は低くなる。
上手く気配を探れない生徒は、一方で探れるウルフに食い殺されるのがオチだろう。前回の記憶でも何人か帰って来なかったしな。
担任はひとしきりの説明を終えると一つ大きく深呼吸した。そして再び大声で告げる。
「今は午前十時半、それから六時間後の午後四時までがお前らのタイムリミッドだ。くれぐれも時間に遅れて帰って来るなよ? 探しに行かなければいけなくなるからな。だが毎年帰って来ないチームもいる。だから首にかけている魔道具は無くしたり、壊したりすんなよ? それがないと見つけられない」
俺は自分の首にかかっているペンダント型の魔道具を見る。
前回の二回の魔物狩りでも使ったペンダントだ。これがあったから前の歴史では帰れたんだっけな。
俺はそのペンダントを強く握ると担任のいる方を見た。
「それではただいまを持って試験を開始する。解散!」
「いくぜ、てめぇら! くれぐれも足引っ張んじゃねぇぞ!」
担任の最後の言葉が響き渡ると同時に全員が一斉に走り出す。
また金髪サルがサルらしく吠えて走り始めた。その後を俺達はついていくように走っていく。
そして俺達は森へと入っていくと前方から白い壁が一定の場所を境にして立ち込めていた。
だが速度を緩めることなくその霧の中に突入していく。
霧の中の視界は最悪。十メートル先見えるのがやっとでそれ以外は白い壁が包み込むように存在している。
「クソッ! 全然見えねぇ!」
「少し落ち着いた方が良いと思うよ。僕が調べてる範囲で少なくとも魔物の気配はないから」
イラ立つ金髪サルに陰キャがなだめていく。
正直、賛同するのは不本意だが陰キャの言っていることは本当だ。
下手に突っ走れば森でない魔境に辿り着くことだってある。
まあ、もっとも魔境に住む化け物を生み出す人間はすぐ近くにいるのだが。
「おい、チビデブ! てめぇ、何か知ってるだろ? さっさと教えろ!」
「そんな言い方はないよ! 頼むならもっと頼み方ってものがあるでしょ?」
俺に上から目線で聞いてくる金髪サルに勇敢にもレイナが言い返していく。
とはいえ、レイナの脚は僅かに震えているので説得力に欠けてしまうのが何とも残念と感じてしまうのだが。
しかしその勇気には敬礼ものだ。だが相手が悪かったな。
「ザコはすっこんでろ」
「.......」
金髪サルよりランキングではレイナの方が下だ。実力主義の学院ではこの言葉はかなりの強い発言になる。
まあ、簡単に言えば、「文句を言いたければ自分より強くなってから言え」ということだ。
だからレイナ、そんなに悔しがることないぞ。気にするな。
なんせ一番強い発言権を持った人が黙ってないからな。
するとリーゼルがレイナの肩に手を置いて何も言わず金髪サルの方へと見た。
それだけで金髪サルは思わず悔しそうに押し黙る。
まあ、直接言ったわけじゃないが、意味合い的に完全にブーメランだからな。当然の反応だ。
さて、ここは歴史通りに進めますか。なんせその先が―――――決戦場だからな。
「大丈夫だよ、リーゼル。僕が場所を知ってるから」
そう言うと俺は適当に地面を見ながら、目的の場所の方向へと歩いて行く。
場所はわかっている。先に仕掛けた魔法陣からの魔力反応を感じているから。
そして俺が森の中を歩いて行くと突然、俺の右手首がリーゼルに掴まれた。
「そっちはダメ」
「え?」
するとすぐに、リーゼルは俺が進むべき道とは反対方向に俺を引っ張りながら走り始めた。




