第28話 任せてくれ
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
ユリスの決意ですね
「悪いな、手荒なことをして。俺は女が嫌いでも、お前のことはそれなりの評価の見直しをしている。だから俺の邪魔をして、評価を下げさせないでくれ」
「ふ......ざけんじゃないわよ......」
ルミナは壁を支えにしながら立ち上がる。
そして震えた腕で剣先を俺に向ける。
その不屈とも言える瞳からは俺にも感じるものがあった。
故に、俺も酷く罪悪感を感じる。
こいつも俺と似ているんだ。
「どうして......どうして! そんなに強いのにリーゼルを泣かせるの!? そんなに強いのに助けてやらないの!?」
「......」
「答えてよ!」
やはりルミナからは俺の姿がそう見えるんだな。
正直、わかっていた。わかっていても、怖かったんだ。
また失うかもしれない恐怖が、俺の破滅した未来がずっと近くに潜んでいるような気がして。
だから俺は出来る限り確定的な歴史の上で、歴史を塗り替えようとしている。
しかしそれが結局逃げであることは否定できないし、そこを"逃げ"と言われれば否定することは出来ない。
故に答えることは出来ない。
俺はそれを否定したいが、否定出来る要素が、説得力がどこにもないから。
代わりに俺はルミナへと近づいていく。その俺に怯えたようにルミナは近づく俺を避けるように体を壁に押し付ける。
そして右手に持った剣を振り回し始めた。
「来ないで! 来ないでよ! あんたなんか、全然リーゼルに相応しくないわよ!」
「ああ、わかってる」
「力がありながらリーゼルの支えにすらなってあげられないあんたなんて! リーゼルの近くから離れなさいよ!」
「それもわかってる」
俺は左手でルミナの右手首を掴むと右手をゆっくりとルミナの頭へと伸ばしていく。
その行動にルミナはキュッと目を思いっきり閉じる。僅かに震えている肩から怯えているのが感じ取れる。
そして俺は―――――そっと頭の上に手を置いた。
「どれもこれもわかってる。お前の言いたい気持ちも、俺は何倍も知っている。今の俺は助けられたからこそ今がある。だが.......それでも、今は俺のやり方でやらしてくれ。これが終われば俺はもう十分だ。だからどうか、今は、今だけは俺に任せてくれ。頼む」
「!」
ルミナは驚いたように俺を見る。その目はいつの間にか涙を流していた。
その表情がリーゼルが泣いたあの時のことと重なって、俺は思わず胸が苦しくなった。
でも、変えるわけにはいかない。これ以上、俺の想定外を他で増やされてはたまらない。
するとルミナは俺の手を払おうともせず、潤んだ瞳で聞いてきた。
「ねぇ、ハッキリとは言ってくれないだろうけど、これだけは聞かせて。あんたは何がしたいの?」
「俺は――――――」
聞かれた瞬間、少しだけ大きく息を吸った。肺の中に空気が入ってくるのがわかる。
少し落ち着いてきたのかもしれない。
いや、何もしてあげれないというルミナの気持ちを敏感に感じ取ったからこそ、過去の自分と重ねて安心させようと力強く言いたかったのかもしれない。
「ただ恩人を救いたいだけだ」
「恩人?」
「それ以上は言わせるな。ただ全てが終わるまであと少しだ。俺には何もしないで、リーゼルにはいつも通り接してあげてくれ」
俺はルミナの頭から手を離すと距離を取るように後ずさりしていく。
そして振り返ると背にしたままゆっくりと歩き始めた。
校舎裏を出るとだいぶ日が傾いていて茜色の空から刺し込んでくる陽の光が全身を明るく照らしていく。
じんわりとした温かさが体を包みこんでいくようで呼吸が楽に感じていく。
もうそろそろ三回目の魔物狩りが始まる。これが本番だ。
気が付けば、もう後戻りが出来ないところまで来てしまったな。
ずっと前からこの時間を待ち遠しく思っていたのに今思えば随分と短く感じる。
だが思い出されるのは、この時のために潜り抜けてきた様々な試練や強敵との戦闘、そして神の一柱との戦い。
ここまでやって来てどこに恐怖があるのだろうかと疑問に思うかもしれないが、怖いものは怖いのだ。
その様々なことをしている間も恐怖は常に存在していた。
試練や強敵との戦闘の時なら自分が死んでしまえば助けに行くことは出来ないと思い、神龍との闘いの時はこの世界に唯一顕現している神であるそいつと戦って勝ったとしても願いが叶えられないと思ったり。
そしてここまでの日々でもリーゼルと関わるたびに変わっていく歴史に恐怖していたり、自分の過ちでどうにもならない事態が起こってしまうのではないかと恐怖したり。
まあ、簡単に言えば俺は憶病なのだ。自分は死んでも構わないと思っているくせに。
リーゼルを助けることにはこんなにも恐怖してる。だからできるだけ確実な手段で持って、不確定要素を除いた状態で助けたい。
俺がしたいことは強い力で持って過去に戻り、その力で無双をしたり、未来に発明されるであろうことを発明して名誉を得たいわけでもない。
俺の願いはただ一つ。リーゼルを助けること。それだけのための力だ。
必要が無くなれば適当に余生を過ごすだけ。実際もうすでにこの世界の平均寿命では長く生き過ぎだしな。
「だから.......どうにか変わらないでくれよ。俺の歴史」
俺は開いた右手を見ながら、グッと握る。その手で自分の歴史を確かに掴んだと思い込むため。
その時、前方から魔力を感じた。その気配はよく知っているし、忘れるはずもない気配だ。
その気配の人物―――――リーゼルはいつもなら抱えているであろうパンの詰まった袋を持たずにまっすぐ俺の直線上を歩いてくる。
「やあ、リーゼル。調子はどう――――――」
「ルミナと何か話した?」
リーゼルは俺の言葉を遮るように聞いてくる。その言葉に俺はゆっくりと頭を横に振っていく。
先ほどのやり取りをリーゼルに知られて不信感を抱かせるわけにはいかない......とまあ、すでに少し怪しんでいる様子ではあるが。
それでもあと少しなんだ。ここで変えられるわけにはいかない。
リーゼルは「そう」とだけ答えて俺に目線だけを送ってくる。
その目はどこか問い質されているようで、俺は気まずくなって「それじゃあ」と声をかけながら横を通り過ぎていく。
「ユリス、最後に一つだけ聞かせて」
その言葉に俺は思わず立ち止まった。そして振り返らずに聞いた。
「何かな?」
「次の魔物狩り、引く気はないんだね?」
「......ああ、僕はやるよ」
「そう、なら―――――――」
リーゼルは振り返ると背中越しから伝えてきた。
「もう容赦はしないから」
「!」
それだけ俺に伝えるとリーゼルは立ち去っていった。
そして俺はその言葉に多大なる衝撃を受け、ある一つのあり得ない仮説が思い浮かんだ。
まさか!?......いや、あり得ない。そんなことはあり得ないはずだ。だがもし、そうだとしたら.......一体どうやって!?
俺の心はしばらくの間、迷走していた。
完全に俺あてに送られた宣戦布告とも言えるその言葉。それはまるでこっちの思惑を知っているかのような.......
しかし、そんなことを知る手段はどこにもないはずだ。
俺は俺のやることを誰にも話していないのだから。だがあの言い方は.......そうとも捉えられる良い方であることは確かだ。
仮に、仮に俺の思惑を知っているのだとしたら、どうしてそんな言い方をしたのか。まさかイタズラでやっていると思っているのだろうか。
いや、さすがにリーゼルに限っては考えにくいことだが.......
「ああ、クソ―!」
俺は両手で思いっきり頬を叩く。かなり強く叩いたため顔は少し赤くなっているが。
ともかくだ、俺のやることは変わらない。いい加減気持ちを切り替えろ。
始まるんだ。俺の全てを捧げたこの時が。
三回目の魔物狩りが。




