第24話 不安
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
もう少し時間が欲しい日ですね
「よし、これで設置完了だ」
フードを被りコートに身を包んだ俺は周囲が濃い霧で包まれている森の中で、足元に光る巨大な魔法陣に目を移していた。
その魔法陣は俺が先ほど設置したものだ。これであの魔物は捉えることが出来る。
そして周囲にも目を移していく。
すると足元以外にも所々に輝いている地面がうっすらと点在している。
これも全て俺が仕掛けた一回り小さめの魔法陣だ。
もうじきこの場所は決戦場になる。
俺の忌まわしき過去とおさらばするための場所だ。言い換えるなら、過去の記憶の墓場と言ったところか。
俺はしゃがんで地面に手を付けると隠ぺい魔法で周囲一帯にある魔法陣を隠していく。
これでよっぽどの魔法を使える者じゃなきゃ見破ることは出来ない。
つまり見破った者が黒幕ということになる。
正直なところ、俺は陰キャのことを恨んでいるがあいつも被害者の一人ではないのかと思っている。
まあ、まだ確定的なことでないにしろ、色々と不自然なことが多いのだ。
それは俺がこの二度目の人生であいつを用意深く観察していたからわかったこと。
だが、あいつがあの時の犯人であることには変わりない。
過去のあいつは俺達が襲われていたというのにそばにいなかった。
濃い霧は魔物の出現で一時的に晴れて周囲が見渡せる状態であったにもかかわらずだ。
そして俺達に相対するように向かい合って、そして―――――
だからたとえあいつが操られていたとしても同情はしない。
あいつが過去にリーゼルを殺したことには変わりないのだから。
.......いや、あの時にリーゼルの制止を聞かなかった俺も同罪かもしれないがな。
だがその業を背負って俺は今ここにいる。
きっとこの二度目の人生で死んだら、良いあの世は迎えられないだろうがそんなことは知ったことじゃない。
俺は俺自身が心底どうでもいいのだ。今更命が惜しくて逃げ惑うなんて行動はしない。
俺は湿った草の露で濡れた手をそのままに濁った黒い瞳を濃い霧へと向けていく。
するとその濃い霧が歪み始め、巨大なあの時の化け物が目の前にいるように見えた。
もちろん、これは俺の過去の記憶を濃い霧に投影しただけに過ぎない。
そしてその幻影の化け物に向かって露が滴る左手をかざす。
「哭雷」
俺はその右手から魔法陣を浮かび上がらせると紫電を収束させた光線を放った。
その光線は濃い霧を周囲へと押しのけて晴らしながら真っ直ぐ進んでいくと俺の幻影の魔物を通り抜けて、森を焦がしながら遠くまで進んでいく。
そして撃ち終わりの時には、俺の目の前には巨人が森ごと地面をすくい上げたような抉れた地面だけが露出していた。
それから、正面には肌に吸い付く霧の露を蒸発させるように燃えた木々が広がっている。
それを見て俺は.......
「あ、やべ。感情的になり過ぎて森燃やしちまった。これで未来が変わるとかはやめてくれよ? ともかく、急いで消して<樹木魔法>で直さないと」
余計な仕事を増やしてしまったことを嘆いた。
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「あっ! しまった! はあはあはあ.......」
俺はバレないように疲れた演技しながら地面へと座り込む。
今は俺が霧の森へと赴いてから数日が経ったリーゼルとの魔法修練の日。
この日ほど待ち望んでいた日はない。なぜかって? 特別なことだからだ。
リーゼルと二人っきり! これはとっても重要。
肉体は若者も精神はおっさんだからすぐに心のエネルギーが枯渇してしまう。
だから定期的に行われる魔法修練は心のオアシスなのだ。キモイって言ってくれるなよ? ほんと重要だったりするんだから。
とはいえ、あの日が近づいてるとなるといつもより癒しの吸収率は悪いな。
日が増すことに刻み付けた過去の記憶が顔を覗かせにやってくる。
その度に俺がせっかく得た心のエネルギーもゴリゴリと削り取っていきやがる。
そしてそれは修練している今も例外じゃない......!
俺が俯かせていた顔をふと上げるとすぐ目の前にリーゼルの距離があった。
その距離は数センチで鼻先が触れてしまうかもという距離!
この距離は危険だ! 癒しがキャパオーバーして逆に精神が持たない!!
俺は咄嗟に後ずさりしようと体重を支えていた後ろ手を動かそうとする。
だがその手は後ろに動かした瞬間、何かにぶつかった。
それは氷の壁であった。どうやら俺の行動を先読みして作り出したようだ。
つーか、いつの間に!?
「また逃げようとした」
リーゼルは俺にジッとした瞳を向けてそう告げる。
その瞳は夕陽に照らされて、もともとのサファイアのような蒼い瞳からピンクサファイアのような赤みを帯びた瞳へと変わっていた。
俺は思わずその瞳に吸い込まれそうになるがグッと堪え、リーゼルから顔の距離を離すように引いていく。
「逃げようとしたって.......思わずこの距離に顔があれば誰だって逃げるよ.......」
「ん、確かに。でもユリスなら平気かなって」
何を根拠に!? 元の体だったら心停止してるかもしれないレベルに今は動悸が速いんだぞ!?
するとリーゼルは俺に近づけていた顔を引いていくと少しだけ顔をそらしていく。
「でもユリスの言う通りだね。頑張ったけど......これは逃げる」
「!」
心なしかリーゼルの頬が赤いようにも見える。
だがその顔は夕陽によって照らされているために真実はわからない。
そしてリーゼルが俺に顔を合わせた時にはザ・無表情の顔であった。
まあ、その氷のような美しさがまた良いと言いますか。うむ、最高。
するとリーゼルは再び俺に距離を詰めていく。
俺は後ずさるが氷の壁が邪魔をして逃げることが出来ない。
いや、逃げようと思えば逃げれるが、それだと俺がまだ使えないはずの火属性魔法を使うことになるので、それはリーゼルに疑心感を与えるので行使することは出来ない。
その時、リーゼルは俺に向かって両手を伸ばしてくる。
そしてその両手で俺の両頬を掴むと横に引っ張っていく。
両頬から痛さと手の冷たさが同時に襲ってくる。
「こっち見る」
リーゼルが一言告げる。その言葉に俺は反応して俺は思わず視線を合わせてしまう。
彼女の銀髪が僅かに風で左に流れていく。
「集中してない。やる時はしっかりやる」
「ご、ごふぇんなふぁい」
リーゼルに怒られてしまった。
どうやら俺がリーゼルの指導の裏で考えていたことが体の方でも現れていたらしい。
といっても、バレないことをメインでやっていたはずなので完璧だったと思うんだがな.......
「それでユリスは何に悩んでいるの?」
「.......」
リーゼルは唐突にそう告げてきた。俺はすぐには答えられなかった。
どうやら今後の展開に対する不安が顔に現れてしまっていたらしい。
その不安は当然、俺が向かって欲しい歴史とは別の歴史を辿ること。
言うなれば、今だって不安だ。
今の展開は当然、過去には存在しない。だが事実としてこういう未来になってしまっている。
それがまたリーゼルと関わった時に。だからこそ、不安が絶えない。
俺が向かう歴史はまさにリーゼルと関わる未来だ。
その度にこのようにして歴史が変わってしまったら、俺のやって来たことが全て否定される事実が起きてしまうかもしれない。
そしてそれでまたリーゼルを目の前で失う。それが一番怖いのだ。
するとリーゼルはつねっていた頬を放すと今度は優しく包み込むように触れていく。
俺の心音は喜びと恐怖という相反する感情が複雑に混じり合った音を奏でていた。
そしてリーゼルは告げる。
「ユリス、お願いがある。今度の魔物狩り演習の二回目と三回目には参加しないで。特に三回目は絶対に」
リーゼルの言葉は俺の知っている歴史をさらに歪めていく。




