第19話 なんとかなった
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
日常だとなんとかなったこと少ない気がする
俺の心臓はバクバクと激しく音を立てるように鳴り響いていた。
それこそ目の前にいるリーゼルに聞かれてしまうのではないかというぐらいに。
確かにリーゼルが俺の手を握っているということにも焦りと恥ずかしさがあるが、それ以上に俺の行動がバレのではないかという焦りが大きい。
俺がこの時点でバレてしまえばそれこそ大きく歴史が変動してしまう。
俺の手で本来あった歴史から完全に外していき、それによって俺が助けられないような状況で死んでしまったとしたら、俺は自分のことを一生許すことは出来ないだろう。
リーゼルは俺の目を射抜くように真っ直ぐと見つめてくる。
その目には恥ずかしさというものはなく、どこか決意を宿らせている感じであった。
俺はそんな真っ直ぐな目から視線を逸らしていく。
自分の濁った眼が彼女の瞳を汚染してしまいそうだったからだ。
するとリーゼルは俺に聞いてくる。
「その拳はどうしたの? どうして自分で自分の拳を傷つけているの?」
「これは......その.......」
言葉に詰まる。
何か言い返した気持ちがあるがリーゼルに嘘をつきたくないという思いの方が大きいのか中々言葉に出せない。
そしてとった行動は―――――はぐらかしだ。
「そ、そういえば、どうしてこんなところにいるの?」
考えて見ればおかしいことだ。
ここは普段のほとんど生徒が訪れない場所だ。
要するにいじめやおいたするにはもってこいの場所だということだ。
つまり言いたいことはリーゼルがここに来る理由がないということ。それこそルミナを連れないで。
その質問にリーゼルはサラリと答えた。
「レイナちゃんから事情を聞いた。だから来た」
「だからって......それだけで来るもんなのか?」
「友達だから。違う?」
違わないです! 友達を助けるためにこんな所までやってくるリーゼルさんは最高です!
......とまあ、無理やりテンションを上げようとしたが今日は調子が悪そうだな。
それにその言葉で俺はやはりリーゼルとは相いれない。相いれてはいけない相手だとわかってしまった。
リーゼルはいい子だ。友達のためなら一人で平然とやってこれる。
たまに様子を見て眺めることもあるけど、いろんな人を助ける姿をよく目にする。
その対価としてお菓子をもらったりしてるけど、それぐらいだったら可愛いものだろう。
つまり本質からしてそうなのだ。俺とは違う。
目的ためなら友すら切り捨てる自信がある。
それこそ一度目の人生はそれで生き延びた所も多々ある。
俺は自分が助かって欲しいと思う相手以外は心底どうでもいい人間だと思ってるからだ。
それは自分だって例外じゃない。
だからこんなに汚れた人間にはリーゼルはこんなにも深くかかわって欲しくないのだ。
確かに今はあの決定的な歴史だけ変えるために行動しているが、それが過ぎればもう俺は影で支えるものであればいい。
だからこそ今の状況は危険だったりする。
一定の信用は得なければいけない。だがそれ以上関わってはいけない。
俺はリーゼルの幸せを願う一人としてこの人生を終わらせるのだ。
「違わないね。ありがとう、助けに来てくれて」
「でも殴られたような傷は見られない。もしかしてあの人達に何か言われた?」
「いや、聞かれてないよ」
ここで俺は思わず閃いた。
確かに今は危険な状況かもしれない。だが逆に言えばリーゼルからあの陰キャの情報を聞き出せるかもしれない。
「けど『ロウは知らないか?』とは聞かれた。リーゼルは何か知ってたりする?」
「残念だけどわからない。あの時たまたま一緒になったけど、霧を出て私が人を呼びに行っている間に消えてた。でも恐らく一番最後に会ったのは私なのは確か」
「そっか。あ、別に気にしなくてもいいよ。聞かれて少し気になっただけだから」
あの陰キャの情報はなし.......か。まあ、予想してあったことだからそこまで落ち込まないけど。
ただ結局陰キャの言葉は嘘だったのだろうか。
あの時は確かに陰キャが嘘をついていると思っていたんだが.......今思うとわからなくなってくる。
わからないことをあまり考えていても仕方ないか。
なら今はこの状況を何とかしよう。
落ち着てきたせいか羞恥心の方が大きくなり始めているしな。
「それでリーゼルの聞きたいことはそれ?」
「聞きたいことは......それだけ。ユリスは触れて欲しくなさそうだし知らなかったことにしておく」
「そうしてくれるとありがたい」
リーゼルが少し言葉に詰まったのが気になったが一先ず事なきを得たようだ。
なのでそろそろ手を離していただけると大変心の平穏が保たれて嬉しいのですが.......
俺がそう思いつつもリーゼルは中々に手を離そうとしない。
それどころか少し目をキラキラさせている。
「まさかここに新たなる触感モチモチがあったとは!!」
おっとー? リーゼルさん? なに人の手の甲の肌をプニプニし始めているんですか?
それは太った時の代償――――――というわけではない天然ものだがまさかここにもリーゼルを好奇心を刺激してしまうものがあったとは!!
「お、落ち着いてリーゼル! それはそんなに柔らかくないから!」
「ならその肌は手よりももっとモチモチしてそうだね」
そう言って俺の顔の―――――頬の肌へと強い視線を向ける。
ま、まさか!?
「まあ、それは今後のお楽しみにしておく」
ふぅー、安心したぜ。まさかここで触られることになれば声にもならない声で卒倒するところだったぜ。
とはいえ、「これからも狙い続けるよ」と言っているかのような宣戦布告を受け取ってしまったが。
ともあれ、もう十分俺は満たされた。もう放してもらわなきゃいろいろとヤバい。
「リーゼル? 俺の手は血で汚いからもう放して――――――」
「汚くないよ」
リーゼルは被せるように言葉を告げてきた。そして続けていく。
「この手はずっと頑張ってきたような手に感じる。そう感じるだけかもしれないけど、この手で確かに......」
リーゼルは俺の手を優しく擦りながら言葉を告げ、途中で切らした。
その先が気になるのもそうだが、その言葉が無性に嬉しく感じた。
まだ何もしてない。何も未来を変えられてないけど胸を熱くさせる言葉であることは間違いなかった。
校舎裏の光の刺さない場所で気まぐれな風が優しく吹いていく。
そして俺の手を見つめながら髪を揺らすリーゼルの姿は美しかった。
その言葉に尽き、他の言葉では言い表せないようだった。
それから俺はリーゼルから「また魔法訓練をするから」とだけ言われて解放された。
そしてリーゼルの姿が見えなくなったところで膝から崩れ落ち、四つん這いになりながら右手で左胸の黒服を掴む。
「お、終わったかと思った~!」
いろいろな意味でその気持ちであった。
**************************************************************
―――――リーゼル視点―――――
「少し攻めすぎた」
私はユリスから離れた後にそう一人呟く。
だけど収穫はあった。
先ほどの会話からユリスが何かを隠していることは確かになった。
その内容まではさすがに聞けなかったけど、何か重大な秘密があることがわかっただけでも良しとしよう。
でも本当に聞きたかったのは「ユリスは何者?」という質問だ。
今のユリスは本物の部分もあればニセモノの部分もある。
だから思いっ切ってこれでハッキリさせようと思っていたのだけどなぜだか勇気が出なかった。
ただの気まぐれかまだ早いと判断したのか......いや、どれも違う。
怖かったのだ。ユリスとの関係性が崩れることを。
私はあの時の彼の顔を見て後悔した。そしてその後を知っている。
だからここにいる。
「......」
私は両手を眺める。
その手はユリスの血で少し汚れていた。しかも乾燥してしまったようでハンカチで拭いても完全には落とせないだろう。
だけど私はその手を見て思わず笑みが浮かんだ。
「私も一つ守れたかな?」
小さすぎることかもしれない。だけど確かに今胸の中に嬉しさの熱っぽさが宿っている。
そのせいか足取りも軽くなっていく。
二割増しで前に進む速度が速い気がする。
「ともあれ、次は慎重にやろう」
私はそう決意すると両拳を軽く握って胸の前に掲げてやる気ポーズを決めた。
しかしすぐに頭を傾げる。
「慎重って......どうすればいいの?」




