第18話 過ちの可能性
読んでくださりありがとうございます。(*‘ω‘ *)
悩みますね~
「どうしたの? なんか元気ないけど」
レイナは俺の顔を覗くように長机に顔を伏せて見てくる。
「なんでもないよ。ただちょっと怖い夢見てさ。それをふと思い出しただけ」
俺は他の男子ならば胸キュンしてもおかしくないレイナの表情を横目に見つつサラッと答えていく。
それは昨日見ていた出来事が気になったからだ。
俺はあの陰キャを追ってすぐ近くから様子を見ていた。
最初は陰キャがリーゼルに何か危害を加えるのじゃないかと思っていた。
だがその予想は外れた。
あいつはただリーゼルに声をかけて「妹を探すのを手伝って欲しい」と言っているだけだった。
もちろん、その言葉を鵜呑みにしているわけじゃない。
とはいえ、実際のところあいつが何がしたかったのかわからないのだ。
もしリーゼルに何かしようと思ったなら白服姿なはずがない。
少なからず小道具を隠すために不自然にならない程度のコートか何かは纏うはずだ。
だがあいつは何もしなかった。リーゼルに言ったのも俺と同じような言葉だ。
なら、あいつがリーゼルを襲ったという見込みは間違っていたのか? あいつではない何かにリーゼルは襲われていたということなのか?
それとも――――――また歴史が変わっているのか?
「おい、クソブタ」
その時、俺のすぐ近くから耳障りな声が聞こえた。
その声の主はもちろん金髪サルだ。全くこんな時になんのようだか。
またストレス発散のサンドバックか? はあ、演技するのも大変何だが。
「少しツラ貸せ」
「?」
その言葉に俺は違和感を感じすぐに金髪サルの方を見る。
すると金髪サルはイライラしたという感じではなく何かを頭で考えている様子であった。
その後ろには取り巻きがいるのだがいるのはデブのみで陰キャの姿がなかった。
俺はさらに違和感を強めいくと同時に確信に近い予想が立った。
なので俺は金髪サルの言うことに従うことにした。
レイナは心配そうな表情で見つめているが俺はそれを申し訳なく思いつつも自分を優先させた。
それから俺は学院の人影の少ない校舎裏へと連れてかれた。
いつもならすぐさま一発へなちょこパンチが来るのだが今はただ金髪サルがポケットに手を突っ込みながらメンチきるのみ。
すると金髪サルは聞いてきた。
「おい、てめぇ。ロウに何をした?」
ロウ?......ああ、あの陰キャの名前か。まさかこいつは俺が何かをしたと思ってるのか? まあ、しそうな動機は腐るほどあるがまだ何もしてないな。
「な、何をしたって?」
「チッ、シロか。まあ、そもそもこんな雑魚にロウがどうにかできると思えないしな」
「そ、そのいん......ロウさんがどうかされたんで――――――」
「てめぇには関係ねぇことだ!」
俺が聞いた途端に怒号のような声で返答された。
そして金髪サルはお供のデブとともに何もせずこの場を立ち去った。
俺は校舎へと寄り掛かる。やはり昨日のうちに何かあったらしい。
そしてすぐに昨日の自分にぶん殴りたい気持ちになった。
実はリーゼルと陰キャが出会って会話を聞いた少しした時に俺は引き返したのだ。それ以上尾行を続けなかった。
理由は二つ。
まず一つ目に今の陰キャにリーゼルは傷つけられないこと。
陰キャは他の黒服に比べれば強い。だが白服内であれば底辺に近い。言うなれば中の下というところか。
そんな実力の陰キャがトップクラスのリーゼルに適うわけが無いのだ。それは魔力の強さから判断した。
ということは、まだあいつはまだ首元にドーピング魔法陣を施していないということだ。
二つ目にリーゼルにつけた<魔物除けの魔法陣>だ。
これは純粋に魔物がリーゼルに近づかないように取り計らったもの。だが別の意味もあった。
仮に陰キャがリーゼルを襲うとして、それでも一人で挑もうとは絶対にしないはずだ。
それにあいつ自身でもリーゼルとの実力差をわかっているから。だから必ず魔物を使って多数で襲ってくるはずだ。
加えて、独占欲の強そうな性格してるあいつのことだ。他の人をリーゼルに関わらせるわけがない。
だが――――――この歴史は俺の思っているものとは違うものになってしまった。
金髪サルの言い方からすると今はこの学院に陰キャの姿がないんだろう。
そしてその歴史は過去には絶対になかった。そう言い切れるのは俺が毎日あいつの顔を見てイジメられていたからだ。
しかし今はどうだ。俺が知らない未来にまた来てしまっている。
どうしてこうなった? あの陰キャに何があった? 陰キャの意志であの時リーゼルを襲ったんじゃないのか?
.......いや、考えるべきことはそれだけじゃないかもしれない。
過去の俺はリーゼルが襲われているなんてことを全く知らなかった。
だから今回の俺はそれを防ごうと動いた。いや、動いてしまった。
俺の行動は過去の俺の行動とはまるで違うものだ。もともと多少変わっていたがそれでもそれらは勝手に変わっていた。
しかし今回は違う。もしかしたら、本来の未来に辿るべき道を自らが考えなしに潰してしまったかもしれない。
そうなるとこの先の歴史がどう動くのかますますわかんなくなってくる。自分でぐちゃぐちゃにしたのだ。
そう考えると俺がこの体型になったことすらも間違ってくることになる。
些細なことだと思っていたことが、リーゼルのためだと思っていたことが全て裏目になるとしたら......! クソぉ! 何やってんだ俺は!
だがそれだと俺はリーゼルが魔物に攻撃されていることを知らんぷりすることになる。
俺はそもそもそれが嫌で、俺が弱くて助けられないばっかりにあんな悲劇を起こしたことを悔やんでいるからこうして戻ってきた。
なのにせっかく助けられる力があるのにリーゼルを助けないのはおかしい。
しかしそれだと本来ある歴史から大きく外れてあの時よりも最悪な可能性になることだってあるかもしれない。
「俺は.......俺はどうすればいいんだ.......」
校舎に体の正面を向けると八つ当たりするように拳を叩きつけた。
何度も何度も皮膚が切れて血が出ても何度も何度も叩きつける。
正解がわからない。俺の行動は正しかったのか。それとも間違っていたのか。
あの時までの歴史を変えてでもリーゼルを護るために動くべきだったのか。それともあの時確実に助けられるタイミングまで見てみぬふりをすべきだったのか。
「俺はどっちを選択すればいいんだ!」
拳を大きく振りかぶって校舎に叩きつけようとした。
だが俺の拳が壁へと衝突する前に何かが滑り込んだ。だから俺は思わず拳をその何かの前に寸止めさせた。
それは―――――手であった。
白くて細い指先をしたか弱く見える手。だけどどこか優しさを感じるような手。
その手は俺の血にまみれた拳を汚らわしく思うこともせずにそっと握っていく。
するとさらにもう片方の手が俺の拳へと重ねられた。
俺は思わずその手を辿って目線を追っていく。
するとそこにいたのは―――――リーゼルであった。
「どうしてここに.......」
俺は思わずそう呟くと自分の手を見た。
自分の血で汚れている。そんな血がリーゼルの手についてしまっている。リーゼルの手を汚してしまっている。
そう思った瞬間、俺はリーゼルの両手から拳を引く抜こうとした。
だがその手は決して俺の手を放さなかった。
「見て」
俺はその声にわずかにビクッと体を震わせる。
そして恐る恐るリーゼルの顔を見た。するとその顔はなぜか怒っていた。
眉間にしわを作るように無理に寄せている眉に、無理に釣り上げたようなやや鋭い目つき、それから「怒っているぞ」という雰囲気。
それが何より俺を混乱させた。
ま、まさか俺がリーゼルに施した魔法陣の存在に気付いてそれに対して怒っているのか!?
だとしたら、どういう風に弁解するべきなんだ!? わからない、何にも思いつかない!
ただ少なくとも、ここで関係を崩壊させるのは危険――――――
「ユリス、話を聞いて」
あ、終わったかもしれない.......。




