第17話 すがった報い
読んでくださりありがとうございます。
一人称はなかなか大変なところも多いですが、面白いですね。
どうやら俺のことはわからないようだな。まあ、声も姿もわからないようにしているし当然か。
それにしても、やはり陰キャだったか。
まさかこんなにも早く動いていたとはな。
知らなかったとはいえ、ほんとに自分に腹が立つな。
「俺はしがない冒険者さ。たまたま遅くにこの街について宿を探そうと大通りに来てみればこの有様。中に入って様子を見てみれば魔物の群れに襲われる始末。なあ、あれってお前の魔物?」
「ひっ!」
俺は声色を低くして問いかける。
すると陰キャはその言葉に身を震わせて怯えたような声を漏らした。
「俺は質問しているんだが答えられないということはそう言うことか?」
「ち、違う! 僕は学院の生徒で巻き込まれただけだ!」
「声が震えてるぞ?」
「う、うるさい! 初対面が苦手なだけだ!」
その割には随分と大きな声を出してくれるじゃないか。
それだけ威勢がある......いや、それだけこれをしようと意気込んでいたというところか。
だがそれを俺に邪魔されて怒っている。まあ、こんな感じだろう。
全くもって俺にはどうでもいいことだが。
「そうか。なら、二人で一緒に抜け出さないか? こんな濃い霧の中じゃ何が至っておかしくない。それに学院の生徒となればこの国の貴重な存在だと聞いたことがある。そんな将来有望な生徒がこんなところで魔物に襲われたとなれば目も当てられないし、俺は助けなかったことを悔いることになるだろう」
正直、上っ面の嘘満載の言葉だが言っているだけでも反吐が出そうだ。
こいつがどんなことをしたかを俺はよく知っている。
どんなに命乞いをしてこようとも俺はすぐに無慈悲に殺せる自信があるぐらいにな。
それにしても、こいつはどうして制服姿なんだ? 魔物を使って襲うなら普通身バレを防ぐために何らかの処置をするはず。
だが陰キャの体の周りには隠ぺい魔法をかけたような痕跡は見当たらない。
どうしてだ?
俺は陰キャに向かって手を差し伸べていく。
触れたら思わず誤って指の骨を折ってしまいそうだがさすがに我慢だ。
すると俺の言葉と行動に陰キャは酷く動揺したような顔をした。
「そ、それは......できない」
「できない? どうして?」
「ぼ、僕には助けなくちゃいけない人がいる。そ、その人はこの霧の中ではぐれてしまった。だから僕は探さなきゃいけない」
陰キャは顔をうつむきながら拳を強く握っていく。
その言葉がほんとか嘘か。そんなことは陰キャの様子を見ていればすぐにわかる。
それこそ魔法なんか使わなくてもな。
「それは君の家族ということか? なら、俺も冒険者の端くれだ。君を一人にしておくことなんてできない」
「チッ.......だ、ダイジョブ! 僕は栄えある王立魔法学院マリージョアの優秀生なんだ。この白い服がその証明さ。だからあなたは仲間を呼んでこの原因を突き止めて欲しい」
小さくだが舌打ちしやがったなこいつ。今手出ししないだけ心の底から感謝しろ。
「......わかった。無事を祈る」
そして俺は陰キャを背にして走り出す。
だが当然、本当に仲間を呼ぶわけじゃない。こんな魔法程度俺が数秒で解除できる。
だから今度は純粋な尾行だ。
俺は体に<認識阻害魔法>をかけると<消臭魔法>という生活魔法を使って体臭を消していく。
そして次にしゃがみ込むと地面に手を当てていく。
陰キャは知らないだろうがな<迷走の結界>は絶対じゃないんだよ。
この結界は方向感覚を狂わせるだけで地面は必ず繋がっている。
その地面から魔力の感じる方を辿っていけばすぐ抜け出せるし、お前の居場所だって探れるんだよ。
さあ、居場所を教えろ。陰キャぁ!
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―――――陰キャ視点―――――
おかしい! おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!
どうしてここに人がいるんだ!? 人払いの結界は絶対じゃなかったのか!?
確かに愛しのあの人が入って来れるように威力は抑えた。
だが逆に言えば一年で五本の指に入るぐらいだぞ!? それほどの魔力を有した人などそう多くはいないはずだ!
なのに、どうしてこんな時に他所から冒険者なんかが流れ着いて来るんだ!? 僕の運が悪いって言いたいのか!?
僕は走っていく冒険者の姿が見えなくなると右手の甲を見る。
その甲にあるのはフードを被った女から施された"人を探知する"魔法陣だ。
その魔法陣には上下中心に方位が描かれており、さらに自動で動く針が僕が求めている人を探知してくれるという優れモノだ。
正直、あのフードの女はうさん臭かったが何も交換条件を出さないで僕にこんないいものを与えてくれた。
あの女の人に次にいつ会えるかはわからない。
けど、<人払いの魔法>も<黒犬召喚>も<迷走の結界>も全てあの女の人から教えてもらったことだ。
それに関しては運がいい。
それに結局のところは上手く事が運んでいる。
あの無茶苦茶かもと思った言葉でもなんとか言うことを聞いてくれた。
それにしても、ウザかったなあの男。野蛮な冒険者風情が良い人ぶってんじゃねぇぞ。
「来た!」
するとその時、右手の甲にある魔法陣が突然発光した。これは範囲100メートル圏内にあの人が入って来たということだ。
何度も張り込んで詳しく調べ上げてこの時間に来ることはわかっていた。
まあ、少しばかり思っていた時間よりも遅かったけれどおおむね時間通り。
僕は右手の甲に描かれている指針を頼りに走り出す。
そして自分で立てた作戦を脳内で忠実にシュミレーションする。
まず僕はあの人のもとまで駆けつける。
するとあの人はきっと多くの待ち伏せさせていた黒犬に襲われているだろう。
前回襲った時に素早い相手が苦手みたいだったから恐らく丁度いい相手だ。
そしてその人が戦っている時にたまたま居合わせた僕が助太刀に入って共闘。
それでその人に恩を売る。あわよくばもっと詰めよれる所まで距離を縮める。
これで完璧。まずはこれでいい。いきなり距離を詰めすぎても不審がられるし、恩を売るという大義名分があれば悪くは思われない。
少なくとも、あのゴミブタ野郎よりは確実に好印象だ。
それに同じ白服ということもあり、きっとあのゴミよりも高く評価してくれる。
そしてゆくゆくは.......デュフデュフフフフっとダメだダメだ。落ち着け僕。まだ何も始まっていないんだ。
「近いみたいだな」
僕はさらに発光する魔法陣を見てそう確信する。
これはあの女の人が教えてくれたことで対象者の位置が自分と近くなると光ってくれるらしい。
他にも知らせる種類があるのだというが......まあ、そんなことはどうでもいい。
そして僕がその人まで近づくと思わず唖然とした。
なぜならその人―――――リーゼルさんの周りには黒犬が一体もいなかったからだ。
この時点で僕の作戦が崩壊した。
でもなぜ? あの冒険者に少し黒犬は殺られたけど、それは一部に過ぎない。作戦はなんの問題もなく始まるはずだ。
なのにどうして!?
「ん、ロウ君。どうしてここに?」
「わからない。気づいたらこうなってて」
(ユリスじゃないんだね......)
僕に気付いたリーゼルさんが気さくに話かてくる。
最後に何か呟いたように聞こえたけど気のせいだろうか。
ともかく作戦は失敗したけど、リーゼルさんに出会うことは出来た。
はあ、やっぱりすごくきれいだ。ずっと手元に置いて飾っておきたいぐらいに。だからこそ許せない。あのゴミが僕のリーゼルを汚していくことに。なにより僕よりも関わりが深いことが。
「そう。なら、早くここから出よう」
リーゼルさんは急かすようにそう言ってきた。
僕はその言葉に思わずビクッとする。
もしかしてこの魔法のことについて気づいたのか? いやさすがに用意周到に練った計画だ。そう簡単にバレるはずがない。
「無理だよ。どこへ行こうとも同じ場所に戻ってきているような感じで全然出れないんだ」
「それなら大丈夫。私が印を作ってきたから」
「え?」
そうリーゼルが指差した方向には地面に細い氷の線があった。
しかもその氷の線は霧の奥まで続いているようだ。
これには僕も冷汗が隠せない。もしこの時点で黒犬討伐の助太刀が出来ていれば何の問題もなかっただろう。
でも今はなぜか黒犬がリーゼルさんを襲っていない。
その状況でこれはかなりまずい!
「ま、待って!」
「ん?」
「ぼ、僕は妹と歩いてて突然霧が張って見失っちゃったんだ! だから探すのを手伝って欲しい」
僕は咄嗟の思いつきで言葉を並べていく。
するとそれに対してリーゼルさんは......
「だったら尚更人がいるはず。この大通り全てが霧に囲まれているなら二人だけで探すのは危険」
「......わかった」
僕はリーゼルさんの言葉を受けて渋々承諾した。これ以上不審に思われないためだ。
そしてリーゼルさんが目印代わりにした氷の線を辿って歩いて行くと霧の外に出た。
先ほどまで薄暗い白一色だったのに今はオレンジ色の日差しが眩しく目に入ってくる。
それからすぐにリーゼルさんは人を呼びに走っていってしまった。
その姿を僕はただ茫然と眺めていく。
するとその時、背後から気配を感じた。
「ものの見事に失敗したわね」
その艶っぽい声は僕を煽ってくるように言葉を投げかける。
「―――――――だ」
「え?」
「お前のせいだ! こんなしょうもない魔法を与えやがって!」
僕は怒り狂ったまま振り返った。
八つ当たりなのはわかってる。だけど今ここのどこにこの怒りをぶつけようがるというのか。
そんな僕の態度にその女は呆れたようなため息を吐く。
「いちゃもんもほどほどにして欲しいわ。私はあなたの作戦にあった適当な魔法を教えてあげた。それなのにその言われはあんまりだわ」
「うるさい! 魔物がクソほどにも役に立ってないじゃないか!」
「それは仕方ないわよ。だって――――――」
その女は右手を頬につけるとその右手に頭を預けるように傾けていく。
「あの女の子には<魔物除けの魔法>が使われていたからね」
「え?」
「あの子がつけたのか、魔道具によるものなのか、はたまた誰かにつけられたのかそれは定かじゃないけどあの子にその魔法がかけられているのは確かよ」
「うそ......だろ......」
僕は思わず膝から崩れ落ちた。
なら、僕の計画ははなから失敗していたというのか。まるでバカみたいじゃないか。
こんなにも作戦を練ってうさん臭いこの女を信用して頑張って来たというのに.......。
「なあ、まだ何かあるんだろ!? その力を僕に――――――」
僕はその女性にすがるようにコートを掴んだ。
その瞬間、少し強く吹いた風とともにフードが外れる。
そして僕は見てしまった。
「お、お前は――――――」
「それ以上は高くつくわよ。ぼうや」
その女は妖しく微笑した。




