第16話 知らなかったこと
読んでくださりありがとうございます(≧∇≦)
―――――リーゼル視点―――――
私は走り去っていくユリスの姿をただ黙って見続ける。
その姿が見えなくなるまでずっとずっと。
抱えていたパンの袋から右手で一つパンを持つと一口かじる。
そしてそのパンの香ばしい匂いと良く感じるふわふわの感触を確かめながら呟いた。
「やっぱり違う」
ユリスは私の知っているユリスではない。
いや、本来のユリスをそこまで明確に知っているわけじゃないからハッキリは言えない。
でも、分かる。あれはユリスの演技をしている何かだ......と思う。
本来のユリスなら私に魔法を教えてもらった時、私と一緒に帰った。
けど今は違う。体形も違うし、考えてみれば違う場面は他にもあった。
まずこの歴史。
私はユリスと数少ないかかわりの中で様々な思い出を作った。
例えば私がユリスを助けた時、私が放課後デートに誘った時、私が魔法を教えた今。
それらの大切な歴史"は"通ってきている。
まあ、最初の一回だけ思わず会いたくなって会いに行ったこともあるけど、決定的な違いはユリスが私の放課後デート以前にルミナと関わっているということ。
確かにユリスはずっと凄い才能を秘めているということを思わずしゃべっちゃったけどそれでルミナが動くとは思えないし。
この歴史は前までは無かった。そして体形も違う感じになった。
「うまっ」
私はパンを一つ食べ終えると寮へと戻りながら次のパンを食べていく。
中にクリームが入っているものだ。その甘みが口いっぱいに広がっていく。
でもいつもより美味しく感じない気がする。
他にもあったことがある。
それはつい最近街の中で魔物に襲われるということだ。
この歴史は確かに今までもあった。そして今日で二回目だけど、本来なら今だ。
私は全く同じようにパンを食べて歩いている。
しかし、魔物が襲ってくる気配はない。
これは一体どういうことなのか? 少なくとも今の情報ではなにもわからない。
右手に持っていたパンを口に咥えるとユリスと握手を交わしたその手のひらを眺める。
特に変わったことはない私の手。指先に少しパンカスがついているぐらいだ。
その時ふと照れた時のユリスの顔を思い出した。
あの時の顔は間違いなく本物だった。私が知っているユリスそのものだった。
.......よくわからない。あのユリスが本物なのかニセモノなのか。どうして痩せてしまったのか。
さっきは断言してしまったけど、やっぱり訂正。まだ確証も何も持ってない。
ここはもう少しユリスと関わって探ってみるべきなのかな?
「なら、少し街へと行ってみよう。あそこも私が襲われた場所なのだから」
そう言って寮近くの通りまで戻ってくると大通りの方へと向かった。
あ、そうえいば、ユリスの照れた時の顔は可愛かった。
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―――――ユリス視点―――――
「魔物の数が複数。それも路地に潜伏している......か。これは従属しているか召喚されたかのどっちかだな。まあ、どちらにせよやることは変わらないんだが」
俺は大通りがよく見えるどこかの屋根の上からその通りをボーっと眺めていた。
そして<魔力感知>で路地裏に邪悪な魔力がいることを確認した。
俺がリーゼルからすぐに離れてどうしてここにいるかと言うとそれはルミナから聞いた「リーゼルが魔物に襲われた」という言葉からだ。
正直、その言葉はあまりに寝耳に水だった。
だが過去の俺はリーゼルのことをあまり知ろうとしなかったし、知らなかった。
それは白服と黒服と言う関係でもあり、貴族と平民という関係でもありでと言う理由があるのだがそんなことで「知らない」と出来れば言いたくない。
リーゼルは強い。だからきっとそこらの魔物じゃ傷一つつけれないだろう。
だがもしその場に俺がいたら.......そのもしであの時の事実が変わった可能性だってなくはなかった。
もちろん、今だからわかるということもある。だからこそもどかしい気持ちにもなってしまうのだが。
一先ずリーゼルには握手の時に魔物除けの魔法陣を設置した。ついでにバレないように隠ぺい魔法も。
だがまあ、魔物除けは魔力を込めれば込めるほど強い魔物を長期間寄せ付けなくなるのだが、強すぎる魔法陣はくっつけられた相手に気づかれてしまう可能性が高くなるので今回は避けた。
それをしてあげたい気持ちがあったがたかだか数回の会話しただけの男子にここまでされれば嫌われてしまう可能性もある。
俺の目的はリーゼルの歴史を変えてリーゼルを助けること。
そのためにはリーゼルとの信頼関係は必須事項だと思われる。
なので俺が設置した魔法陣も効いて数日程度だ。その間に目星のついている犯人がおかしくなる前に黒幕を確認したいところだが。
「明らかに人の数が減っている。これは人払いの魔法を使ってるな」
見ている大通りにはもう人の数が数える程度しか歩いていなかった。
これは本来ならあり得ないことだ。
現在時刻は午後四時半といったところ。
この時間ならまだ活動している人はいるし、なんなら宿を求めた旅人の姿だってあったりするはずだ。
つまりは大通りは賑わっているということ。
だが.......たった今大通りの人の数はゼロになったな。
一般市民とて魔力は保持している。その中には屈強そうな男もいた。
だがその男もいないとなるとそれなりに強い人払いの魔法を使っているようだ―――――学院の生徒以上でなきゃ歩けないぐらいに。
「襲う気満々かよ。敵さんはよ」
ゆっくりと立ち上がる。
風は強く吹き、髪を黒服を横へとたなびかせていく。
俺は腰の魔力袋から一つの黒に近い緑のコートを取り出すとそれを被った。
これには認識阻害の魔法が付与されている。これもお手製だ。まず俺の正体を見破ることは出来ない。
「さて、脅威は排除するに限る」
俺はその屋根から地面へと少し飛んで垂直に落下していく。
そして風魔法でクッションを作り出し、衝撃を和らげると一気にその大通りを駆け抜けていく。
すると視界が一変してきた。
先ほど屋根の上から見た大通りは先の方まで見渡せたのだが実際に大通りに入っていくと濃霧といった感じで数メートル先も見えない。
それに―――――
一度立ち止まると確認の意味も込めて逆走していく。
俺が大通りに入ってからは十メートルほどしか進んでいない。しかし今は倍の長さを走っても濃霧から抜け出すことが出来ない。
つまりは迷走の結界が張られているということ。
全く手の込んでいるようで。一人のために人払いの魔法に、多くの魔物に、迷走の結界とは至れり尽くせりだな。
だがそう思うと同時にかなり腹立ってくる。
それは俺自身にでもあり、敵にでもあり。
昔のリーゼルはこんなことに巻き込まれていたのか。そして俺はそれを知らなかった。仕方ないでは済ませたくないことだ。
「なら、憂さ晴らしに一役買ってくれよ?」
俺の周囲に黒い犬の魔物が十体囲むように現れた。
「魔物さんよ」
一匹の魔物が吠えると同時に周りの九体が一斉に襲いかかってきた。
俺はその魔物一体一体の距離感を把握していくと魔法を使わず<身体強化>のみで黒犬どもをぶちのめしていく。
一匹の黒犬が正面から来ればそれを半身で躱し、後方から襲ってくる黒犬の顔面を蹴って首を折る。
そして流れるように右手の裏拳で一体、背後から襲いかかってきたのをしゃがんで首根っこ掴んで地面に叩きつけて一体。
両サイドから挟み撃ちしてきた魔物をにはわざと腕を噛ませて、腕を思いっきり閉じさせることで互いの頭をぶつけ合わせることで二体。
そんな感じで残りの五体もちょちょいと蹴散らしていく。
すると俺の左側から魔力を感知した。この感じ―――――人だ。
「お、お前は何者だ!?」
ここでお出ましか陰キャよ。




