第14話 リーゼルの話題
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「あの子に何をしたの?」
俺は今腕組みをしている。そして理不尽な物言いを受けている。
現在は学院のある階段の裏側。
そこは普段他の部屋に置けなくなった箱とかが置かれていて、普段は誰も近寄らない場所だ。
そこに呼び出された俺は壁を背にして、ルミナに頭のすぐ横を腕で通せんぼされている。言わば壁ドンだ(※古の勇者が名付けた)。
他の男子ならば紅潔の剣姫にこんなことをされれば乙女的感情を抱いてしまうかもしれない。
だがそこは女嫌いの俺だ。もっと言えば他の女に興味がない俺だ。
こいつがリーゼルとかかわりがあった以上はどうしてあの時あのような態度を取ったのか分かったので、他の女に比べればマシという程度なだけだ。
それにしても、呼び出しておいて早々にその言われようは何なのだろうか。なぜ急にそんなことを言われるのか。
ルミナの表情からは鬼気迫るようなものを感じる。
もちろん、どうしてそのような表情なのかはさっぱしだ。
「何をしたとはまた突然の言いがかりだな。そもそも、呼び出しておいてなんだこれは? 果たし状みたいな紙もよこしやがって。動きにくいったらありゃしねぇぞ」
「あら、動きやすいように底辺を走っている男とは思えないセリフね」
ルミナは腕を組みながら得意げな顔をする。どうも俺への当てつけが返せたのが嬉しかったみたいだ。
ちなみに、俺が"あの女"呼びから"ルミナ"呼びに変わっているのはリーゼルとの関係がわかって、過去のこいつの態度の原因が分かったからだ。
気持ちの上でのせめてもの譲歩というやつである。
「何事にも限度ってのがあるんだ。そういうお前こそ一学年トップを走っているとは思えないな。特に今みたいな状況は」
「私が底辺(仮)であるあんたに構っていることにかしら?」
「仮をつけるな......とにかくそういうことだ。それにこれ以上関わるなと言ったはずだ」
「だったら、あの魔法でまた縛れば良かったじゃない。そうすればこんなことにはならなかったわよ?」
なんだ? こいつはマゾか?
「そんなわけないじゃない!」
ルミナは動揺したような顔を見せる。
おっと、思わず声に出てしまっていたようだ。
ルミナは慌てて俺から距離を取ると一度深呼吸してから不遜な態度を見せてきた。
まあ、それに関しては俺も負けてないが。
「それで何をしたの?」
「何についてだ? 少なくともお前に迷惑をかけるようなことはしていないはずだ」
「してるわよ。それで昨日、寮でリーゼルと会ったの。そしたら彼女見たこともないいい笑顔だったのよ。そして思わず尋ねてみたら『なんでもない』って言われちゃって」
あのリーゼルが良い笑顔か。それはどんなものか凄く興味あるな。
基本リーゼルの表情は喜怒哀楽一貫して変化に乏しい。
俺が笑っていると思っているリーゼルの表情も口角を僅かに上げたような表情に過ぎないからな。
「でも普段見たことない笑顔で聞いても『なんでもない』って言われたら気になるじゃない? だからちょっとしつこかったかもしれないけど聞いてみたのよ」
ちなみに、リーゼルが表情に乏しいからと言って感情が全くないうわけじゃない。
なぜそう言えるかって? それは時折見せるリーゼルのキラキラとした目であったり、シュンとして顔を向かせるような表情である。
それからリーゼルは感情を表情に出すのが苦手なだけであって雰囲気には出ているのだ。
だからどちらかと言うとリーゼルはわかりやすい方だと思われる。
「ねぇ、ちょっと聞いてるの? そして続きだけど、そしたら何と言ったと思う? 『デート』って言ったのよ!? 私の可愛いリーゼルがどこぞ馬の骨に取られてしまうかもしれないと思ったわけ。そしてついに聞き出したのよ。その馬の骨ってのが――――」
「なっ! 誰だその馬の骨は! リーゼルに何かしたらただじゃおかねぇぞ!」
「あんたよ! あんたに決まっているでしょ!」
俺の言葉にルミナはやや被せ気味に言葉を告げる。
「?」
「なんで何言っているかわからないみたいな表情してるのよ! あんただって言ってるのよ!」
ん? 俺が馬の骨だと? というか、こいつは何かをペラペラと話していたようだが全然聞いてなかった。
そういえば、リーゼルがデートだかどうとか言ってたな。
そんでリーゼルがどこぞの馬の骨とデートしていて、その馬の骨が俺だと......!
「馬の骨!!!」
「なんでその言葉で嬉しそうな表情してるわけ?」
ルミナは俺に対して若干引いたような態度を見せる。
だが、そんな態度では傷つかない。というより、俺のハートは基本リーゼルにしか傷つけられないからな。
とまあ、そんなことは置いといてまさかリーゼルが俺とのあの時間をそんなにも楽しんでくれていたとはな。
これは増々失敗できない状況に追い込まれて来たな。
まあ、もとより失敗するつもりは毛頭なかったしな。関係ない話であるが。
だがまあ、随分とハードルを上げてくれる(※ユリスが勝手にそう感じている)じゃないか、リーゼル様よ。
「だがそれだけでまさか俺に言いがかりとかないよな?」
「そのまさかよ。リーゼルのあんな表情は幼馴染の私でも数回しか引き出せたことがないのよ。それも一か月半ほどのあんたに抜かれるなんて! あんた、惚れ薬とか使ってないでしょうね?」
「使うかバカ」
あの神聖にして純潔のリーゼル様だぞ? そのリーゼルを傷つけるやからは俺が許さないし、俺自身も俺を許さない。
リーゼルが好きな人を見つけたなら俺は快く応援するだけだ。
俺はもう既に十分すぎるぐらいの恩義をリーゼルから受け取った。だから、今度は俺が返還する番だ。
どんな間違いが起ころうとも、それがたとえリーゼルの意志であっても今の俺はリーゼルの幸せを影から支える存在であればいいのだ。
「それで? いい加減に本題に入れ。一体いつまで茶番につき合わせるつもりだ。まあ、リーゼル談義をするだったら別だがな」
「あんた、急に惜しげもなく本性を露わにしたわね。そんなにリーゼルが好きだとは知らなかったわ」
「間違ってもリーゼル本人には伝えるなよ? この気持ちは墓場まで持っていくものだ。お前が心配するようなことじゃない」
「それがあんたの目的のためなのかしら?」
「.......」
「肯定と見なすわ。まあ、あんたがリーゼルのことが好きなのは純粋な気持ちであることはなんとなくわかるし、その目的もきっとリーゼルをいい方向へと持っていくものでしょうから今は深くは聞かないわ。ただリーゼルを傷つけたら承知しないわよ」
「煮るなり焼くなり好きにしろ。俺がリーゼルを傷つけるなどあり得ない」
「そう、わかったわ。それじゃあ、本題に入るわよ」
そう言ってルミナは深呼吸して深く心を落ち着ける。
胸に手を置きながらゆっくりと数回ほど。
俺はそれを依然として腕組みをして壁に寄り掛か我りながら眺めていた。
ルミナが本題が別にあることはなんとなくわかった。だが、それを話すにはまだ周囲に人が多くいた。
だがその数は俺とルミナが変な言い合いをしている間に数を減らしていった。
まあ、もとより人が立ち寄りにくい場所だ。人がいたと言ってもそれは数えるほどしかいなかった。
とはいえ、人が全くいない方が何かを話すにしてもこれほど安全な状況はないだろう。
それに近くに魔法が設置されているような魔力も確認できないしな。
だからルミナは最初に俺にどうでもいいことを振ってきた......いや、どうでもよくはないか。俺にとってはいいニュースだし、恐らくルミナも俺に文句を言いたかったに違いない。
にしても、ルミナがわざわざ俺をこんな人気のない場所で話すこととは一体何のことだろうか。
ルミナのリーゼルに対する好意は大体把握できた。
それに俺はあえて気持ちを赤裸々にしたことで俺のリーゼルに対する嫌疑もルミナの本題ごとではないと確認できた。
だがリーゼルの話題を振ってきたということはリーゼルに関する内容であることは間違いないだろう。
ルミナは俺の目を見る。どうやら言う準備が出来たらしい。
なら、何が起こったか聞かせてもらおうか。
ルミナは口を大きく開けてハッキリと言葉を口にする。
「リーゼルが街中で魔物に襲われたの」
俺はその言葉に思わず目を鋭く細めた。




