第9話 はい、キレた
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「ぼ、僕の正体は僕のままだよ。急に何を言ってるの?」
「その割には動揺が少ないと思うけど? あ、もちろん、あんたが演技しているというところは抜きにしてね」
......チッ、厄介だな。ここまで俺が怯えたような言い方をしてもあの女には通じないか。
つまりは、この女が納得する言葉や行動をしないと退かないということか。本当にめんどくさいな。
だが俺もそう簡単に折れると思うなよ。俺にはやるべきことがあるんだ。
「そもそもどうして紅潔の剣姫様が――――――」
「ルミア・アストレアス。特別にルミナで構わないわよ。私もあんたをユリスって呼ばせてもらうから。あ、ちなみに様なんて敬称つけなくてもいいわよ。今は同じ学院の生徒なんだしね」
へぇ~、珍しい。まさかこの女が俺のことをクソブタ呼ばわりをしないとはな。
......いや、もしかしたらこれも歴史が一部変わったことの影響か? その可能性も否定できないが、ともかく今はこいつからはどうして俺に興味を持ったのか聞かないと。
「わ、わかった。それじゃあルミナ、どうして僕のことをそんな風に言うの? 君は確かに見ていたはずだ。僕が無様にやられるところをね......」
俺は顔を暗くさせる。しかし、この女の強気な口調は変わらなかった。
「そうね。確かにあんたは無様にやられていたわ。でも、それがとても気になったのよね。なんというかそれほどの威力でもないのに大げさに吹き飛んでいたりしていたような」
「それはあくまで君から見たらだよね? 僕からしてみれば対戦相手の攻撃一つ一つが強烈な一撃だっただけ。知ってるでしょ? 僕の噂を。まぐれでこの学院に入学できたとか。教師を脅してこの学院に入ったとか」
「確かに聞いてるわ。でもそれは所詮根も葉もないうわさに過ぎないわ。全く真実を語っていない」
「けど火のないところに煙は立たないとも言えるでしょ? それにそう思われても仕方ないことをした。だから僕がそう思われるのは当然のことで、僕からも言い返せることはない」
(......あの子が見込んだから気になってみれば本気なの?)
俺が適当に言い訳を作っていると不意にこの女が何かをしゃべった気がした。
だが俺はその時聞き耳を立てていなかったので何を言っているかわからなかったが。
とはいえ、ここまで言えば十分だろう。
俺はお前に構っている暇もなければ、これから関わるつもりもない。
それに見ている様子からすれば俺のうじうじしている姿は酷くイライラするはずだ。
さあ、俺がどこか行こうとしてもどうせお前は消えやしないんだ。だからお前が消えろ。
「私の見込み違いだったようね」
ルミナは肩を僅かに震わせながら赤髪によく似た紅い目で睨みつけるように俺を見た。
その時だけ周囲が少し暑く感じた。
そして風はルミナの髪を揺らしながら、その熱ぼったい空気を俺に送ってくる。
ルミナは両手に拳を握ったまま後ろを振り向くとそのまま立ち去って―――――――
「......」
「へぇ~、全然ビビってないわね」
ルミナは踏み出した一歩の足で大きくブレーキをかける。そして後ろへと体重を移動させながら抜刀。
俺のすぐ首へと自分の顔が映るほど磨き込まれた剣を押し当てられる。
もちろん寸止めだ。だが僅かにズレていれば即死の位置。
しかしここをあえて狙ったということはそれだけ自分の力量に自身があり、さらに俺に本気を出させるための行動だろう。
とはいえ、俺はお前に攻撃されても別にどうということはない。なんせ剣に殺気が宿ってないんだからな。
だが、お前の剣はバカがつくほど信念が宿っている剣でもある。
一年でもトップになり、上級生を倒す実力も納得いく。
ともかく演技演技。
「ぼ、僕は何が起こったか理解できてなくて......こ、これは?」
「これでも逃げるようね。なら、本気で化けの皮を剥がしてあげる」
「!」
ルミナがそう言った瞬間、ルミナは俺から大きく距離を取った。
同時に俺が座っているベンチの足元に紅く輝く魔法陣が現れ過剰なほど大きく周囲へと広がっていく。
そしてその魔法陣からは俺の<魔力感知>から異常なほどの高エネルギー反応を感知。
まさか先ほどの熱ぼったい空気は魔法陣の!? この女、足で地面に魔法陣で転写するなんて高等な手段を持ち合わせてやがったか!
俺は急いで魔法陣の中心であるベンチから離れると地面に手を置き、その手に魔力を流し込んでいく。
この魔法は"爆裂華"。簡単に言えば一段階目の爆発で植物のような花を爆炎で造形させ、二回目の爆発で花粉代わりの火種を飛ばし、三段階目でその多くの火種が爆発。
火属性特級魔法の一つで広範囲を大量爆発。殺傷能力は弱い順にC(殺傷能力なし)、B(軽傷)、A(重症)、S(殺傷能力あり)の中で文句なしのSランク。
―――――魔法解析完了。
この魔法は爆裂魔法陣、拡散魔法陣、一段階保護魔法陣、二段階保護魔法陣、魔力吸収魔法陣、魔力成長魔法陣の六つが合わさっている。
そのうち厄介なのは魔力成長魔法陣。これは吸収した魔力で威力を高める魔法陣。これをまず潰せば被害はだいぶ収まる――――――解除。
次に保護魔法陣二つ。これを解除すれば二段階目の魔法も三段階目の魔法も一段階目と同じ魔法として処理できる――――――解除。
それから拡散魔法陣。これで広範囲への被害はなくなる―――――解除。
さらに爆裂魔法陣。攻撃魔法が組み込まれた設置系魔法の本陣だ―――――――解除。
最後に魔力吸収魔法陣を解除すれば終わり――――解除。
「はあはあはあ......」
俺は額から大量の汗をかいていて、その汗が頬を伝って鼻先やあご先から滴り落ちていく。
肺は大きく動いて呼吸していてその動きに連動して肩も上下に動いていく。
全く動いていないというのに体がやたらと熱い。
まるでぶったおれるまで全力で走った気分だ。
とはいえ、その汗のほとんどは魔法陣からの熱波によるもので焦りでの汗は少ししかかいてないけど。
つーか、それよりも!
「何考えてんだお前は! この学院を半壊させるつもりか! それに被害はそれだけじゃねぇんだぞ!」
「やっと本性を現したようね。でもその言い方的に自分が助かるのは当然って感じだし、あまり知られていない特級魔法のこれを知っているし、その魔法陣を解除までできる。まさにチェックメイトね」
何がチェックメイトだ! この女! あれほどの威力を全く無傷に俺以外に止められるのは恐らくこの学院の理事長ぐらいしかいねぇぞ!
クソ......かなりイライラしてきたな。まさかこんなことまでしてくるなんて本気で何考えてんだ?
「どうやらこれであの子が言っていたことも証明できたようね」
「あの子?」
「気にしなくていいわ。こっちのことだから。それよりも、あんたはもう言い逃れできないわよ」
ルミナは俺に剣先を向けると紅い瞳で俺の目を射抜こうとする。
そして俺はその言葉に白旗をあげた。
もうここまでしてしまったんだどうやって騙せようか、いや騙せないな。
「それで俺の正体を明かしてどうするつもりだ?」
「どうもしないわよ。ただどうしてあんな試合をしたか気になっただけ」
「それこそお前には関係ないことだな。あれは俺の個人的都合のためだ」
「学院最底辺としての方が動きやすいこと......とても気になるわね。もし良かったら教えてくれないかしら?」
「はあ? ふざけてんのか?」
この女、急に何を言い出しやがるんだ? わからない。もうきっとこれは違う歴史だ。この先の展開は全くわからない。
するとルミナは俺に剣先を構えながら腰を少し落とした。そして足を上下に開くと腕を引いていく。あれは突撃の構え。つまりは戦闘行為だ。
「なんの真似だ?」
「私は個人的にあんたに興味が湧いたのよ。だから、あんたの実力を測るとともにその都合とやらを聞き出すためにね」
はい、キレましたー。もういいもういい。周りに人気がないのも確認したしもう抑えねぇ。
手も足も出ないほどの圧倒的力の差で地面に寝かせてやるよ!