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伝説のドラゴンが俺でいいワケがない!  作者: tetoc
■ 幼龍と移ろう日々 ■
4/5

No.4 雨の日の変な声

 

 俺がこの世に誕生して、5日目。


 俺はこの納屋からしばらく出ちゃダメだと言われた。

 ドラゴンと言えど、俺はやっぱり産まれたての赤ん坊で、外敵とか病気とか…そう言ったものに襲われやすいし、感染しやすいんだってさ。

 そもそも、産まれてすぐはヨチヨチ歩いて、くーくー鳴くのが普通らしく、俺みたいにちょこまかと動き回るのは産まれてから1ヶ月から2ヶ月はかかるんだってさ。


 天才ドラゴンってわけ!?やばくね!?テレビとか出れるんじゃね?あるか分からんけど。


 …冗談はさておき、中身がこんな口の悪い男だなんて思ってないんだろうな。


 おっちゃんに対して、テレパシーで喋れるのに、ルッティオやリチカに対しては全く使えない。

 まあ、このテレパシーはおっちゃんの能力で、俺もいずれは使えるだろうとのこと。成長が楽しみだぜ。


 あ、それとな。俺の親はリチカになるけど、もっとそばに居て世話をしてくれる…ほら、ドラゴンの社会性とかを教えたり、人間との接し方を教えたりしてくれる、育て龍?がおっちゃんなんだってよ。つまり、俺の父ちゃんってワケだ。


 さてさて、俺は今ブリーストのおっちゃんの前に座って、しっぽを揺らす。今はお勉強の時間だ。



『ってことは、オレはようりゅう(幼龍)?』

『そうだよ。産まれたてのドラゴンの赤ん坊は幼龍と呼ばれていてね。次の段階は子龍・成長期、次が子龍・成熟期、そして成龍…ようするに大人だ。』



 ふむふむ。第一次反抗期、第二次反抗期みてーなもんか?…違う?



『ただローチ、キミは黒皇龍。普通のドラゴン種に当てはまるかは分からない。』

『ん?でも、いっしょのドラゴンなんだろ?』

『黒皇龍は生態が分かっていないからね。』



 おっちゃんは横になったから、おっちゃんの上によじ登ってたてがみに顔を埋めた。今は元のでかさに戻ってるから万馬くらいのでかさから、倍近くのでかさ。この納屋がでかいのも頷ける。


 つーか…伝説のドラゴンってこういう時困るな。

 つーかさ、俺みたいな奴がみんなから崇められる伝説のドラゴンってありえなくないか?んー…。


 あ、そうそう。ブリーストのおっちゃんのことも聞いたわけよ。おっちゃんは白獅子龍・アルテレオンって言う結構レアなドラゴンなんだってさ。

 もう180年生きてて、年の頃は人間で言うと30代後半くらいらしくて、400年くらい生きるんだってさ。


 まだまだ聞いたぜぇ!偉いだろ?

 リチカ達が住むこの村は、パオの村って言って龍の乗り人(ドラゴンライダー)が隠れ住む村らしい。村の子は12歳を迎えると、自分の相棒になるドラゴンを卵から孵化させてるんだってよ。

 リチカの家は村でも優秀らしく、ルッティオもああ見えて王家に仕えてたくらい優秀なんだってさー。あ、そんで俺がリチカに選ばれてここで産まれたってわけだ。



『なあなあ、おっちゃん。』

『なんだね?』



 お天道様の臭いがする、おっちゃんのたてがみから顔を出した。



『ドラゴンライダーってなにするんだ?』

『乗り人はドラゴンと共に生きる者達。乗り人の手によって産まれた我々は、人と絆を結び、人を見守る存在。そう、我々は対等なのだよ。』

『ヒトのてつだいをするってことか?』

『近いようで遠いなぁ。』

『オレたちはてつだうだけ?それだけ?タイトーなのに?』



 おっちゃんの上から飛び降りて、おっちゃんの目の前に移動する。対等って言うけど、聞いてる限りそういう感じじゃないんだよなぁ。



『はっはっはっ。賢い子だ。』



 おっちゃんは目を丸くしたあと、すぐに笑いの声を上げ、首を持ち上げて俺の目を真っ直ぐに見る。



『いいかい?ローチ、よーくお聞き。ドラゴンも人もそれぞれ生きていく力はある。それに我々ドラゴン種は人間族よりも遥かに強い、この世で一番強い種族とされている。』



 ゆっくり立ち上がったおっちゃんに続き、俺も立ち上がって歩き始めたおっちゃんの後ろを歩く。



『弱い人間達と共に暮らし生きると、様々なことが学べるのだよ。』

『まなぶ?』

『そうだ。彼らは弱いなりに互いを想い、助け合う。そして、知恵をもって様々なものを生み出す。悲しいことに、逆となることをする者もいるが。それ故、人間は複雑な生き物、彼らの複雑な感情を知れる。』

『かんじょう…。』



 たどり着いた先は、外が見える小さな小窓。と言っても俺よりも少し高い位置にある。そこを覗くように促されて、俺は前足を持ち上げ、二足で立ち上がった。



『あっ!ルッティオだ!…もう1人いる。あれだれ?』

『ルッティオの奥さんのアナベルだよ。』

『アナベル。』



 嫁さんか。て、ことはリチカの母ちゃんか。うん、似てる。リチカは母ちゃん似か!



『いいかね、ローチ。ああして人は助け合い、大切に想い合い生きて行く。私はそんな彼らが愛しくて堪らない。悪い人間もいるが、この村にいる人間達はとても良い人間ばかりだよ。』



 リチカの母ちゃん…腹が大きいな。どうやら、腹に子供がいるみたいだ。ここの仕事…水を組んだのか?ルッティオが慌てて手伝ってる。

 おっちゃんの言ってることはイマイチよく分からん。分からんけど、分かったような気がする。んー…すんげー難しいな。



『よくわかんないけど、そのうちわかる?』

『そうだね。きっとその内。』



 そう言っておっちゃんは、寝ていた場所にゆったりと歩いて戻って行った。俺はまた窓の外を見てみる。


 リチカの母ちゃん。すげー優しそう。

 リチカは1日1度、卵の殻をあっという間に食い尽くした俺の為に晩飯を持ってきてくれる。あれだ、俺が病気にならないように、今は接触する機会をなるべく控えてるんだってさ。


 んで、俺の食事は、まだ幼体だから1日5回に分けられていて、他の4回はルッティオが俺に飯を持って来てくれる。俺は、リチカが来てくれるのが楽しみで仕方ない。

 リチカは少し引っ込み思案だけど、素直でとてもいい子で、すげー優しい。きっと、母ちゃんが優しいからなんだろーな。



『…ん?』



 そんなことをぼんやり考えていると、窓の縁にかけている前足がピリリとする。それと同時に別の俺が頭の中で叫んだと思えば、一気にテンションが上がる。



『雨…雨がくる!!おっちゃん!雨だ!』



 窓から離れて、横になっているおっちゃんのところに走って行って顔に飛び付く。



『雨…?こんなにも天気がいいのに?』

『くる!くる!たくさんくる!そとでたい!』

『いけないよ。病気の話をしただろう?』

『でも、でも!んんんっ、ぞわぞわするー!』



 しっぽの付け根がぞわぞわしてきた。叫び声を上げたくなるくらいのテンションの上がり具合。

 じっとしてられない俺は、おっちゃんの周りをぐるぐる歩き回り、それを抑えようとする。


 雨に打たれたい。土砂降りの雨に。

 くっそ、この感情抑えられないんだけど!



 間もなくして、雨が降り始めた。

 すぐに雨足が強まり、窓から見える景色は降る雨粒で辺りがよく見えない。すげー、見てて飽きないし、ずっと見てていたい。それに、なんだ?この声。


「ローチー?ローチくーん?ご飯だよー。…ブリーストー…見向きもしない。」

『先刻からずっとああしているんだ。』

「ずっと?」

『ああ、ずっと。恐らく本能だろう。』

「んー…興奮して怪我してもダメだろうから、しばらく様子を見るとしようかな。」

『そうだな。』


 おっちゃん、ルッティオ。分かんねーの?

 誰かが誰かを呼んでるんだ。や、ルッティオが俺を呼んでるとかじゃなくて。

 なんだろう?すげえ、こもった声だ。水の中にいる時みたいな…ハッキリしないような。どっから聞こえるんだ?聞いていて気持ちいい声じゃない。



「るう、くるるる…(なあ、おっちゃん。)」

『ん?』



 どうしてもこの声が気になって窓枠に手を乗せながら振り返る。



『へんなこえがきこえるんだ。』

『変な声?』

『このこえ、ふあんになる、すごく。』



 不安やら恐怖が湧き出てきて、翼の付け根がぞくりとする。俺はいきなり不安に押し潰されそうになって、慌てておっちゃん立ちの元へ走った。

 あれだ、夢の中で得体の知れない、すんげー怖いものに追いかけられて逃げるような感覚。



「ローチ!さあ、おいでご飯…!」



 両手を広げるルッティオを通り過ぎて、おっちゃんの前足の間に体を寄せた。なんだ?さっきまで見ていた方が気になって仕方ないし、窓から離れたのに聞こえてくる声が…遠のかない。

 ショックを受けてるルッティオはどーでもいい。お前早く帰れ。



『ローチ?』

『いやだ。…すごくいやだ。』

『どんな声なのか、どんなことを言っているのか分かるかね?』

『わかんね。ハッキリきこえない、でもすごくいやだ。』

『ふむ…。使えるか分からないが…龍眼を試すか。』

『りゅうがん?』

『ローチ。目を閉じてごらん。』



 おっちゃんに言われて目を閉じる。



『呼吸を深く長く吸って、ゆっくりと吐いて。まずそれだけに集中してごらん。』



 言われた通りに深呼吸してみる。何度か深呼吸をしていると、やけに自分の息遣いが聞こえて…あれ?なんだ?この周りの人魂みたいなもんは。



『自分の知りたいことを強く思い描いて。そう、キミだけに聞こえている"変な声の主"を知りたいと。』



 知りたい。なんなんだ?この声は?


 あ、この人魂…ルッティオとおっちゃん?それから家の方に重なってる人魂が動いてる。これは、リチカの母ちゃん…と、腹の中に赤ん坊だな。

 母ちゃん歌を唄いながら家事をしてるのか…小さな波動みたいなのが出てる。なるほど、これで探せばいいのか!



「ローチ?」

『ルッティオ。ローチは今深く集中している。』

「…龍眼か。分かった。」



 どこだ?この声の主。森の中。リチカや他の子供達が"先生"の所に行く時に入って行く森の中から聞こえる。


 たくさん人魂があるってことは…この森は豊か、たくさんの命がある。これじゃない、これじゃない…これでもない。どれだ?どいつだ?

 森を駆け抜け、声の主を探していると、ちいさな3つの人魂を見つけた。あれ?この中の1つ…見たことが…。



【みぃぃいつけたぁあ!!!】



 いきなり耳元で叫ばれた。俺は体を小さくビクつかせ、目を見開く。

 呼吸が荒くなっていて、心臓がバクバクと脈打ち、おっちゃんの足に身を寄せた。



『ローチ?大丈夫かね?』



 なんだ!?なんなんだ!?頭を殴られたぐらいの衝撃が走ったぞ!?喜んでいるような、叫ぶような…金切り声。

 おっちゃんの大きな前足が俺の背中を撫でてくれる。おし、ちょっと落ち着いた。



『おっちゃん…なんかいた。』

『どんな奴か分かるかね?』

『みつけたって、声がキーキーしてた。あたまいたい…。』



 マジで頭がボーッとする。んん、それに痛ぇ。おっちゃんがおねーちゃんなら良かったのに。でも…あの見たことがある人魂。小さくて、眩しくて、暖か……。



『おっちゃん!おっちゃん!』

『ん?』



 嫌な予感がする。ぞわぞわする。

 おっちゃんを見上げ、縋り付くような勢いで声を出す。



『リチカ!リチカは!?』

『リチカ?リチカがどうし…。』



 おっちゃんの表情が濁った。



『ルッティオ、リチカは帰って来てるか?』

「いや、まだ先生の所から帰ってきては…ッ!!?」



 俺はルッティオの言葉で駆け出していた。



『じゃま、だぁあ!!!』



 納屋の大きな戸が邪魔でぶち抜く。



『ローチ!待ちなさい!!』

「ローチ!!」



 おっちゃんやルッティオの声が聞こえたけれど、今の俺にはそんなことはどうでも良かった。


 リチカ…!




 No.4 雨の日の変な声。 END.

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