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伝説のドラゴンが俺でいいワケがない!  作者: tetoc
■ 幼龍と移ろう日々 ■
3/5

No.3 ドラ生開始して12時間

 

 あれからブリーストと名乗るライオンに色々話を聞かされた。

 今確認されてる黒皇龍は1体…じゃなくて、1柱は東の大国で神様として崇められているんだと。しかも云百年生きてて結構な婆ちゃんなんだってさ。


 云百年ぶりに孵化したのが俺。

 宝くじで1等を当てた気分。あ、これじゃあ、有り難みがないか?…いや、1等当たれば余裕で嬉しいな。

 つーか、俺も崇めたてられんのか。やだな…のんびり楽しくのどかに暮らしたい。てか、俺みたいなお気楽野郎が伝説のドラゴンで良いのかよ。


『美味いの…かね?』

『おう。』


 ルッティオだっけ?帰って来ないし、腹減ったし。

 そこで見つけた俺の卵の殻。食べなきゃならんと思った。だから一心不乱に食う。あれだあれ。パリパリサクサクしてて案外美味いぞこれ。


 ドラゴンがいるってことは…ここは俺が知らない世界ってこと。こんなことあるなんて考えたことなかったなー…ま、今はどうでもいいけど。


 普通はもっと驚くだろうって?や、驚くけど生まれちゃったんだから仕方がなくね?

 わー、異世界だー!って、一々驚いてたり、途方に暮れてたら自分の常識が通用しない世界でやっていけねーだろ。つーか、驚くは驚くがどうやって生きてこうって現実に引き戻されね?


 受け入れてこの世界に適合するのが第一。

 驚くとか嘆くとか、絶望するとか喜ぶとか…んなもん、こっちに生まれたんだからいつでも出来んじゃん。それは今やるべきことではない、俺はそう思う。

 そして、今やるべきことはただ一つ。


 そう!腹を満たすこと!


『うまぁーい。おっちゃんもたべる?』

『いや、私は遠慮しておこう。』


 え、ドラゴンって自分が孵化してきた卵の殻食わねえの?んー…ドラゴンによって違うのか、面白いな。


「ブリースト…お前。」


 ルッティオが帰ってきた。シカトして殻を食う。


 俺が殻を食っている間に、ブリーストのおっちゃんがテレパシーを使って、害はないことを伝えたみたいだ。ルッティオは安心したみたいで、俺の方へ近付いてきた。


 ……目があったんすけど。え、なに?飯食ってる所を人にガッツリ見られるの?


「黒皇龍は孵化すると自分の卵の殻を食べるのか…。」


 あんだよ、悪いかよ。ほんのり甘いせんべい食ってるみたいで案外美味いぞ?


「なるほど!だから今まで黒皇龍の卵が見つからなかったのか!でもなぜ卵の殻を食べるんだ…ドラゴンで卵の殻を食べるなんて聞いたことないぞ。原種である雷風竜の孵化直後の幼体は殻を食べないのに…これは黒皇龍だけの本能になるのか?だったら理由はなんなんだ…。」


 はん…?

 ポケットから紙とペンを出して、ブツブツ言いながらメモとってるんだけど…。

 え、なになに?この人なんなの、すげー怖い。


『すまないな、ローチ。ルッティオはドラゴンの研究者でもあるんだ。』

『めっちゃこわいんだけど…。』

『待っていなさい。』


 ブツブツ言うのがすんごい怖い。俺は思わず、大半が残る卵の殻の後ろへ隠れた。ルッティオは殻の欠片を拾って、俺を誘う。


「あ、ローチ!ほら、出ておいでー…!」

『ルッティオ、ローチが怖いと言ってるぞ。』

「なっ…。」

『ローチはまだ孵化したばかり。そんなに詰め寄っては怖いだろう。』

「…そうか…。ごめんよ、ローチ。」


 申し訳なさそうにするルッティオに殻の影から顔を出して見せる。


「はっ!!」


 うお!?なんだ!?


「黒皇龍の幼体はとても警戒心が強いのか!なるほどなるほど、よく考えれば黒皇龍と言えど幼体の時は弱く、他のモンスターやドラゴンに襲われたりしたら命を落とす危険性がある。これは納得だ!!」


 ……コイツ、さっきおっちゃんが言ってたこと忘れたのか?


 すごいスピードでメモをとるルッティオは放っておいて…俺はそそくさとおっちゃんに駆け寄り、その後ろに隠れる。


『おっちゃん、リチカにあいたい。』

『ん?どうしてかね?』

『わからない。すごくきになる。あいたい。』

『ふむ。キミが初めて見たのは誰かな?』

『リチカ。』

『なるほど、初めて見た生き物を親と思ったのか。』

『?リチカはリチカじゃん。』

『はっはっはっ、そうかそうか。』


 なんか笑われたんすけど。え、なに?俺知らない間にこの世界の鉄板ネタ放り込んだ?


『今日はもう休みなさい。』

『いやだ。リチカのとこにいく。』

『君はまだ生まれたばかりだ。まだそん状況で外に出るのは出来ない。』

『?なんで?』

『まだ弱いキミは病気にかかりやすいからね。』

『ビョーキ…そうだな、リチカにうつしちゃダメだな。』


 すんなり聞き分けのいい子になってると、おっちゃんがルッティオに俺を寝かせるから出て行けと言う。すんげー残念そうなルッティオ。

 しゃーないだろ。俺は産まれたての赤ん坊なんだから…あ…?寝るってことを自覚したら、急に…眠気が…。


『ほら、来なさい。』


 ルッティオが出て行くと、ブリーストが寝藁に伏せた状態で俺を呼ぶ。何が悲しくておっちゃんと寝なきゃいけねーんだ…と、思ったけど。眠くて眠くて仕方がない。それに、なんだ?すげー寒く感じる。

 おっちゃんのたてがみ…温かそうだ。


 おっちゃんの前足の間を通って、豊かなたてがみに埋もれる形で丸くなると、とんでもないくらいの安心間に襲われた。


『おっちゃん…おやすみ…。』

『おやすみ。ローチ、明日もきっと良い日になるだろうね。』


 おっちゃんのその言葉を聞いて、俺は眠りの底へ落ちて行った。




 ────────

 ──────

 ────




『んあーー!くーっ、よくねた!』


 ライオンのおっちゃんと朝チュンするとは思わんかったが、すげーいい朝!藁のいい香りと、澄んだ空気がうまい!


 おっちゃんはまだ眠ってるし、猫や犬がよくやる感じで背伸びをする。んー、丸くなって寝てたから背筋が伸びて気持ちいいー!

 俺は納屋全体を見回してみた。つーか、バカ広い。あ…鏡があるぜ!自分の姿がどんなのか気になってたんだよ!


 俺は布がかけられ、少しだけ鏡面部分が見えている鏡に駆け寄った。布を前足で引っ掻いて布をとると、くすんでヒビは入っているものの、俺の姿は十分確認出来た。

 すげー光沢のある濡烏色の全身。その体に入る、赤いライン…あ、よく見たら目元にも赤がある。翼は長距離も飛べそうなくらい丈夫そうだ。


『うお…、かっけー…。』


 でもあれだな、ちょっと鏡が小さくて全身が見れない。全身が確認出来るように、鏡から少し離れてみて見よう。

 …しっぽがある。あ、案外しっぽって思ってたより簡単に動かせるんだな。手足も太く大きい、こりゃでかくなるわ。犬猫原理がドラゴンに当てはまるか分かんねーけど。


 なんつーか、まだ産まれたてで、ゴツゴツした感じじゃないけど、将来はやたらカッコ良くなるんじゃね?やば、俺ドラゴン界のイケメンなんじゃね?何、もう勝ち組!?


『くーっ!おっちゃん!おっちゃん!』


 テンションが上がって、まだ寝てるおっちゃんの所へ走って行って、首辺りに飛びついた。ふわりと香るお天道様の匂い。


『おっちゃん!おっちゃんってば!』

『んん…、どうしたのかね…。』

『おきて!なあ、おきてー!』

『あと少し寝かせておくれ…。』


 あんだよ、異世界でもそんなセリフ言うのか?しかも言ってんのドラゴンだぞ、ドラゴン。


『ダメ!おきてってば!』

『んー……。』


 俺、負けない。俺、強い子。

 おっちゃんの頭によじ登ってみる。そして落ちる。くっそ…もう1回だ!

 慎重に慎重に。改めて思ったけど、動物ってしっぽでバランスをとってるんだな。よし、今度は意識して…この際翼も使って慎重に。てか、でけーんだよ!クソ、負けねー!


 それから何度か転げ落ちる。俺の体は頑丈みたいで、あまり痛くはないけど、なんか悔しいので何度もチャレンジする。ってかよ、おっちゃんは唸るだけで、全く起きないんだけど。


 そして、感動の瞬間。


『よっしゃあーー!!!』


 待って、嬉しい。すんげー嬉しい。

 まだまだ俺は赤ん坊、なんか、感情っつーの?そう言うのが剥き出しになるって言うか、歯止めをきかせようと言う気がおきないし、素直にちょっとした事でも嬉しい。

 おっちゃんの頭頂部あたりに登れて、羽をばたつかせて喜んでいると、俺が立つ場所、つまりおっちゃんがゴソッと動く。


『うおあっ!!?』


 そして、伏せるように寝ていたおっちゃんはゴロンと横向きになった。


 ちょ、おま!キュートな俺が乗っ…!!!


 哀れな俺。体がでかいおっちゃんの上でずっこけ、そのまま転がり落ち、ゴロゴロと壁まで転がって背中を強打した。


『………………。』


 痛くはない。上下反転した世界、おけ、俺今逆さになってるワケな。この顔に垂れかかっているのは、俺のしっぽだ。

 体をよじって体勢を戻すとまだ眠るおっちゃんに、ふつふつと怒り?でもないな、そこまでじゃない。これは、感覚的に言うと…ムッとしてる。


『にゃろー…。』


 体を低くして、軸前足をきちんと踏み込む為にしっかり地面に押し当てる。当たる時は、頭を前へ倒して、頭からしっぽを真っ直ぐにするイメージ。

 次の瞬間、俺はおっちゃんの腰辺りに頭突きをかました。


『ぬぐ…!』


 うおおおお!いっってー!!!どんな硬い腰してんだよ!!見た目そんな硬くなさそうじゃん!!電信柱にチャリで激突した時みたいにいてー!!


 おっちゃんに体当たりをして、痛む体に悶えていると、おっちゃんがもそりと起き上がり、そのまま呑気に大きな欠伸をしたのが聞こえる。けど、今それどころじゃない。


『くあー…。おはよう、ローチ。さあ、起きたぞ。』


 おっせーんだよ!!低血圧の女子か!!


『おや?どうしたのかね?どこか痛いのかい?』


 なに…?大したダメージが入ってない、だと…!?


『おっちゃんなんか…おっちゃんなんか…。』

『なんだい?』

『だいっきらいだーー!!』

『えっ!?』


 孵化して約12時間程度。

 俺の人生ならぬ、ドラ生はまだ始まったばかり。




 No.3 ドラ生開始して12時間。END.

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