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伝説のドラゴンが俺でいいワケがない!  作者: tetoc
■ 幼龍と移ろう日々 ■
1/5

No.1 泥棒されました

 

 う…ん…?暗い…いや、うっっすらと明るい。


 目一杯腕を伸ばしてみる。ぷにんとなにか膜のようなものにあたった。


(へ?どこかに入れられてんのか?)


 体をよじってみると体全身が小さな抵抗を受ける。まるで、とろみのある水に全身浸かって…あん!?


(く、空気!酸素…死、ぬ!!)


 もがいてみるが苦しくない。

 でも、なんだか大した動きではないと自分でも自覚する。これは多分、身をよじった程度だ。


(って……あれ?)


 苦しくないし、うっすら明るい何かの中に入れられてるのは分かった。そして、ぽかぽか温かくて気持ちいい。


 ああ、動いたせいなのか?

 すごく、すんごく眠い…あ、やば……。



 ────────

 ──────

 ────



 あれから何日経ったんだ?

 俺は眠っては、少し起きを繰り返していた。


 起きては、ここは何なのかを知る為に、色々動いて探っていた。少しずつ少しずつやって分かったこと、認めたくないが…。恐らくここは卵の中だ。


 …………。鳥にでも生まれ変わったのかしら。


 なんとなくだけど、そう思って仕方がない。


 そして、最初は気づかなかったけど、この温かい理由は、聞こえてくる音。最初は不気味だったけど、何かの呼吸音が聞こえるわけよ。

 多分、親鳥が卵を温めてくれてるんだと思う、だからめちゃくちゃ温かい。あ、親鳥って言っちゃダメか。新しい母ちゃんか父ちゃんだな。



 起きてる時間も随分長くなった。最初は戸惑いしかなかったけど、この中もなかなか快適だ。


 前の人生は、クソを練り合わせてクソでコーティングしたみたいな人生だったと思う。でも、なぜだかよく覚えてない…。俺が人間で、名前があったのは覚えてる、けど思い出せない。死んだと言うことは、なんとなく分かるが死因を覚えていない…そんな感じ。

 よく覚えてないせいか、自分が死んで何かに生まれ変わった事実を、怖いくらいすんなりと受け入れることが出来た。


 そう考えていると、いきなりぐらりと傾く感覚。


(おおぉあ!?…は、始まった!!)


 俺が入っている物ごと、ずずず…っと動かされる感覚。

 母ちゃんか父ちゃんか知らんが、いきなりやると驚くじゃねーか!俺を包むとろみのある液体のおかげで、衝撃は和らいでいるけど、これが驚く。


 よく知らんが、抱卵中は卵を均等に温めたりする為に、せっせと配置を変えたり、傾けたりするんだっけ?本当にビビるんだわ、これ。


(あ、落ち着いた…。)


 伝わってくる衝撃と音がやんだ。俺の位置が決まったらしい。


 安心したら眠気が…。ヤバ…おや、すみ…。



 ────────

 ──────

 ────


 皆さんどうも。鳥(仮)です。

 あれから数日、体がでかくなりました。そして、俺から皆さんに質問があります。


 鳥って、表皮?体毛?羽毛?…硬かったっすかね?


 や、あれなんすよ。日に日に感覚というかそう言うのが発達してきて、深く考えるとか、音とかよく聞こえるようになったんすよ。

 もちろん、感触もはっきりしてきて、自分の体に触れてみたんすよ。オスかメスか気になったので。


 や、いや!変な意味はないっすよ!?本当、マジで!あまりに暇でふと気になったんですって!自然に一人称が俺ってことは前世が男だったんすよ、今世でメスなら色々気をつけなきゃじゃないっすか!

 まあ、ほら!そしたらっすよ、自分の体?皮膚?それがゴツゴツした感じで硬かったんす!爬虫類みたいに!


 俺、ショック。好きな人に裏切られた時以来の。

 ……うん?…待って!今サラッと前世思い出した!!俺好きな人に裏切られたの!?ここで思い出すか普通!!?


 俺、爆絶ショック!!


 鳥(仮)と思ってたのに、ここにきて爬虫類説が浮上。人生ならぬ、理想の鳥生を描いてたのに。爬虫類として生きていかなきゃいけないのか。

 爬虫類か…だったらワニがいいな。強そうだし、フォルムがカッコイイし…アリだわ、爬虫類。


「……!…………!」

(…ん?なんだ?)


 なんか聞こえたぞ、聞きなれない音だ。俺達がある程度成長したと分かってるのか、親はたまに出かけるようになった。

 ついさっきまで温めてもらってたけど、親は出かけたみたいだし、母ちゃんや父ちゃんじゃねーなこれ。


「…れに……んだ?…やく…親…が…って……。」

「……と、…って…。」


 はっきり喋れや!聞こえねーだろ?!

 や、待て、爬虫類は動じない。もしかしたら距離があるだけかもだしな。


 耳をすませて聞いてみる。


「あ、この卵…これにする!」

「よし、親が帰って来る前に持って帰るぞ!」


 声が近くで聞こえたかと思うと、俺が入ってる卵がぐらりと動いた。


(はん!?まさか…まさか俺!?よりによって俺にすんの!?嘘だろ、おい!)


 やめ、やめろ!俺は母ちゃんや父ちゃんみたいな立派な爬虫類(仮)になるんだよ!


 生まれてもいない俺が抵抗出来るわけねーんだ。分かってる。けど、俺の卵を運んでるらしいコイツらは、ようするに卵泥棒だろ?泥棒に盗られて、素敵な運命を送れるとは思わない。最悪、即食われる!


(やめろ!戻せこの野郎ーー!!!)




 ────────

 ──────

 ────



(う…ん……?)



 温かい…。あ、俺生きてる!?

 や、待て待て。もしかしたら卵に入ってる俺を卵泥棒が料理か何かに使って…またどこかで生まれ変わってるかもしれない。


 冷静になって考えてみる。

 あの後、何か乗り物のような物に乗せられて移動して来たような気がする。その最中にまた眠気が襲ってきて、気を失うように眠りについた。

 途中、痛みもなかったし…。聞こえて来た声は2つ、ってことは2人の何かに盗まれたのか、俺。


「ほら、優しく丁寧に卵を拭いてあげなさい。」


 おん?この声は…。卵泥棒Aだ。

 声からして男か?若い感じではなさそうだし、年老いているって感じでもない。


「うん。」


 あ。この声…よりよって俺を選んだ卵泥棒B!

 声からして子供、か?おい、よくも俺を泥棒しちゃってくれたな!ものを盗るなんて最低だぞ!


「あっ!パパ、今少し動いたよ!」

「おお。動くようになってるなら、あと3、4日くらいで孵化するな。」

「ほんと!?あたし頑張ってたくさんお世話する!」

「うん、元気に孵化出来るように頑張りなさい。」


 いい子じゃねーか、ちくしょう…!って、何を呑気に考えてるんだよ、俺は。


 とりあえず、卵泥棒AとBは俺を食う気はない、のか?さっきAは、孵化まで3、4日って言ってたし、孵化する直前の卵を好き好んで食べる奴は、そういないと思う。なら無事孵化出来んのか…?


 て、言うか…やっぱり俺、卵に入ってるんだな。なんだか少しの期待はあったけど、ちょっとショックだわ。


 それからBはせっせと俺の世話をする。

 殻を拭いたり、慎重に慎重に傾けたり。優しく話しかけたり。


「ねえ、パパ。孵化するのに転卵しないほうがいいんじゃないの?他の子の家ではやってないよ。」


 いや、他の家の子も卵盗んでんのかよ。どんな教育してるんだ。


「抱卵していても親が動いたりするだろう?」

「うん。」

「そしたら卵も動いたり、傾いたりするんだ。」

「うん。」

「孵化する直前で動かしたりするのは、自然な状態に近付けるためなんだよ。」

「へぇー!さすがパパ!」


 へぇー!って、A、お前プロか。慣れてるな、お前。


「あのね、パパ!あたしこの子名前決めてるの!」


 お?せめてカッコイイ名前にしてくれよ。


「どんな名前にするの?」

「ローチ!」


 可でもなく不可でもなく、反応に困る名ま…。


「ローチか。古代語で"天空"を意味する言葉だね。」

「うん!」


 どこの古代語か分からんが、前言撤回。Bよ、いい名前をありがとう!


 ローチ、ローチか。それが今世の俺の名前。

 この卵泥棒親子と所にやってきて、一時はどうなるかと思ったけど、聞こえてくる会話はほのぼのとしてて、穏やかだ。


 孵化する前から波乱万丈だけど、ひとまず安心していいかもしれない。


 あ、…安心したら…眠気が…。




 No.1 泥棒されました。END.

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