オークション②
熱気に当てられたせいか下半身を搾り取られたせいか、かなり疲れていた為、昼飯は軽く済ませて時間まで雑談する。
「オークションは安上がりなのかと思っていましたが、結構な値段になってしまいますね?安く済ませる方法ってないんですかね?」
クールリュさんは少し考えて、
「まぁ、あるにはありますが・・・。カナメさんは、オークションにはどのような人が参加すると思いますか?」
「・・・金持ちですかね?」
「間違いではありませんが、正確には3種類の人間がオークションには参加します。」
クールリュさんは指を1本づつ立てていった。
「まず、先程カナメさんが言った金持ちですね。金持ちは趣味の物を収集したり、余ったお金で興奮を味わいに来たりしています。こういった金持ちと争うのは資金源の違いがあるので不毛と言えます」
「なるほど・・・」
「次に、どうしても手に入れなければならない物がある人達。例えば仲間や家族が病気や怪我をしていて、どうしても治療薬が必要な人です。この人達も必死に競り落とそうとしてきます。時には自分の資産以上に・・・。この人達とも争うと、予想以上の高額になります」
「じゃあ最後の?」
「そうです。3種類目の人達は、安く手に入れて高く売ろうとする人達です。そういった人達は資金源も決まっていて、商品に対する執着も薄い。この人達と争えば比較的安く競り落とせます」
それ以外にも、普通のオークションであれば出品者が値段を吊り上げる場合があるそうだが、この王都のオークションでは厳重に管理されており、落札額の吊り上げ行為は、王国法による厳罰と、オークションへの出入り禁止となるので、出品者の吊り上げ行為はないそうだ。
更に、クールリュさんのオークション指南が始まった。
オークションでなるべく安く購入するにはどうしたらいいのか。
クールリュさん曰く、相手の心を折る必要があるとの事。
その為にまず、総資産を知られないようにする必要がある。
その入札だけでなく他の入札の様子も結構見られていて、入札できる金額の目星を付けられている。
資産を知られれば、それ以上の金額を用意できるし、相手の心理が読めるようになるそうだ。
ただ、相手の心理をある程度理解したりするスキルはある。
ミネルヴァの固有能力「共有」だ。
これを使って相手の心理を読み、諦めた人と共有させてやる気を削ぐ作戦を考えている。
午後からは、美術品や歴史的な一品、アーティファクトなどの出品があり、先日手に入れたアーティファクトのコテージもここで出品される。
コテージが出品されるのは、トリとは行かなかったが午後部門で最後から2番目の出品となっていた。
所持金がスネークスパイダー戦で得た1500万円・・・つまり大金貨15枚。
これまで目玉商品こそめちゃくちゃ高額になっていたが、その他の物はそう高くなっていなかった。
何か掘り出し物があれば1つぐらいは買えるかもしれない。
オークショニアが午後の商品を捌いて行っている中で、1つだけ気になる物が出品された。
「商品番号302、シャーの壺でございます」
シャーの壺?
まさか、3倍の人の?
「この壺は3つの小さな壺が台座に設置されており、そこに良い香りの粘液が充填されています。この液体は口にすると、嘔吐・下痢なとの症状を起こしますので、摂取出来ません。しかし、使っても使っても充填されるというアーティファクトです。是非この香りを楽しんでは如何でしょうか?」
なんじゃそりゃ?
ローションか何かか?
いや、あの液体はシャンプーなんかの液体に見える。
もしかして・・・いや、そんなはずは・・・。
「開始金貨は大金貨2枚です」
「ミネルヴァ、[共有]を使ってくれっ!あれを競り落としたい」
「分かった・・・だが、あれを積極的に競り落とそうという奴は居なそうだぞ?」
たしかに、オークショニアの説明では液体は毒物の様に感じる。
つまり、いい匂いがする毒物を永久に出す壺って感じなんだろうな・・・。
「クールリュさん、あれを競り落として欲しいんですが・・・。俺はあまり経験ないのでお願い出来ませんか?」
「カナメさん・・・分かりました。ミネルヴァさん協力して下さい。資金はいくらまでですか?」
(資金は1500万・・・えっと、大金貨15枚です)
(分かりました。ミネルヴァさん、競り落とそうとしている人は何人ですか?)
ミネルヴァの固有能力「共有」は、思考や感情に加え五感までも共有出来る。
クールリュさんはミネルヴァとやり取りをして、オークションを有利に進めようとしている。
「1.5枚」
「2枚」
年老いた貴婦人が参加してきた。
「2.1枚」
「3枚」
クールリュさんは細かく刻んでいくが、貴婦人は財力があるのかドンッと金貨を吊り上げる。
「・・・・3.5枚」
「4枚」
「・・・・・」
「4枚です、他にはいらっしゃいませんか?いらっしゃらな・・・」
「・・・5枚」
「6枚」
クールリュさんが少し値段を吊り上げた。
それに応戦するように貴婦人が吊り上げる。
「10枚」
俺が10枚をコールする。
「10枚っ!!10枚が出ました。ではこの商品は大金貨10枚で1104番のお客様が落札っ!!」
あっと言う間にオークショニアは終了させた。
あまりに呆気なく終わった為、えっ?みたいな顔を貴婦人がしている。
俺はミネルヴァの「共有」を使ったクールリュさんの指示に従って、大金貨10枚をコールした。
今回クールリュさんは、ミネルヴァの「共有」を使い、オークショニアがさっさと終わらせるように感情を操作したのだ。
流れはこうだ。
貴婦人は財力もあり、パトロンもいる。
金額的には敵わない。
やる気もそこそこあり、なかなか降りてくれそうにない。
そこでクールリュさんは、オークショニアの感情を操作することにしたようだ。
最初にちょこちょこ金額を上げていき、貴婦人に余裕だと思わせる。
次に時間をかけて、少し値段を吊り上げる事によってクールリュさんの財力はそこまでなんだと貴婦人は勝利を確信する。
その瞬間、俺が10枚とコールする事によって貴婦人は混乱しパトロンに相談しようと後ろを振り返った。
その僅かな時間に、「共有」で他の客が感じている早く次の商品をと言う感情を、ミネルヴァがオークショニアと共有させて、半ば無理矢理終了させたのだ。
オークションはオークショニア次第でどうにでもなるのだ。
貴婦人の財力は結構あったみたいなので、大金貨10枚で落札出来たのは正に奇跡だ。
「クールリュさん、ありがとうございます」
「上手く作戦がハマりましたね」
黒服が近づいてきて、金属の板を渡された。
「本日中にこの割符と落札金額ご用意になり、地下の商品受け渡し場所まで起こし下さい」
なるほど、受け渡しはそうやるのか。
そうこうしているうちに俺が出品したアーティファクトのコテージの番になった。
「商品番号378、ラホールのコテージ・・・因みにアーティファクトです。こちらの商品は本来ならこのオークションの最後を務めても良いぐらいの商品ですが、次の商品の紹介には時間がかかるということもあり、午後の部の最後から2番目に紹介させて頂きます。」
「「「おぉ!!!」」」
歓声と感嘆の声が上がり、商品が紹介される。
「こちらのコテージは、先程も申しました通り、アーティファクトとなっております。通常はこの様に両手で収まる大きさですが、僅かに魔力を通しますと、人が1人入れるくらいの大きさになります」
オークショニアは口の渇きを潤す為に、側にあったコップの水を一口、口に含んだ。
「失礼・・・。この商品の最大の特徴は、内部にあります。中の広さ・調度品などは一流のホテルのそれと変わりません。また、室温も最適に保たれており、水も使い放題でございます。食料も持ち込んでおいて、小さくしておけば何日も持つそうです。これだけでも凄い事が分かりますね?」
客達は皆一様に頷いている。
「さらに特徴があります。それは、内部に入ると、魔除けと認識阻害の結界が発動するのです。冒険者の方も、商人の方も、遠出をされる貴族の方も皆が欲しがるこのコテージ、開始金額は白金貨1枚から」
は?白金貨?1枚が大金貨10枚分・・・1000万円っ!!!まじで?
もう、金銭感覚がくるいまくるわっ!!
「2枚」
「2.5枚」
「3.5枚」
「8枚」
「・・・・」
「8枚、白金貨8枚が出ました。他にはいらっしゃいませんか?この貴重なアーティファクトのコテージ。私もこれだけの品を捌くのはそうありません。もうこの様な品は出てこな・・・」
「8.1枚」
「8.2枚」
「8.3枚」
「8.3枚が出ました。通常、この様なアーティファクトは消耗していくのが常ですが、このアーティファクトは魔力さえ通せば消耗がない品です。売却しても値が下がる事は無い為、資産としての役割を担う事も・・・」
「10枚」
「・・・」
「15枚」
「20枚」
「「「おぉーっ!」」」
会場中で感嘆の声が上がった。
「20枚、白金貨20枚が出ました。それでは、白金貨20枚で・・」
「20.5枚っ!!」
「21枚」
「22枚」
「・・・25枚っ!!」
「25.5枚」
「・・・・・・」
「よろしいですか?よろしいですね?では、白金貨25.5枚で21番のお客様が落札っ!!」
まじかっ!!!
貨幣価値がよく分からないが、大体2億5500万円でコテージが売れてしまった・・・。
ミネルヴァの「共有」で会場の熱気とオークショニアのやる気を高めたが、ここまでの金額になるとは思ってなかった。
そのあとは午後の部の最後の商品である、ドラゴンの子どもがオークションにかけられて、白金貨38枚で競り落とされた。
金はある所にはあるみたいだ。




