宿屋
自由都市へ入る際の料金は大銀貨5枚と言われた。
金貨を出しても、お釣りはくれなくて泣き寝入りするだろうとクリスさんが両替してくれた。
金貨1枚で大銀貨10枚、大銀貨1枚で銀貨10枚、銀貨1枚で大銅貨10枚、大銅貨1枚で銅貨10枚。
その上に大金貨と白金貨があるらしいが一般には使わないので知らなくても大丈夫らしい。
クリスさんから聞いた物価なとで大体推測してまとめると、
白金貨(大金貨10枚)・・・・1000万円から1億?
大金貨(金貨10枚)・・・・約100万円
金貨(大銀貨10枚)・・・・約10万円
大銀貨(銀貨10枚)・・・・約10000円
銀貨(大銅貨10枚)・・・・約1000円
大銅貨(銅貨10枚)・・・・約100円
銅貨 ・・・・約10円
だと思われる。
あくまでも推測なのだが、一回の食事は銀貨1枚でお釣りがくるくらい、1家族大銀貨20枚で1カ月すごせるみたいだからそう外れていないはずだ。
ちなみに暦の概念はあり、1年が360日で12ヶ月だそうだ。
(地球とあまり変わりないのが不思議だが、異世界なんてそんなもんだな)
気を取り直して門番に大銀貨5枚を渡すと、代わりに変な割符をもらった。
この割符を見せれば何度でも出入りできるが、期限が1カ月で切れるとの説明を受けた。また市民としての身分証が発行されれば、それを提示することで大銀貨をしはらわなくても良くなるそうだ。
ここまで小説のようなお姫様馬車や、盗賊襲撃、門番に絡まれるといったイベントに遭遇していないのが少し悲しかったが、スムーズな展開に感謝した。
行商人クリスさんと別れたあと聞いていた宿屋を探す。
大通りを五分ほど行くとあるらしいのだが・・・
あれかな?三回建ての大きな建物、看板には新緑の風亭と書いてある。
扉を開けると、猫耳の少女がカウンターらしき所で片手に帳簿らしきものを持って何やらブツブツ言っている。
「あの〜?ここって・・・」
「いらっしゃいっ!!おかぁさ〜ん?お客さんだよ〜!!」
そう言うと可愛らしい猫耳少女はこちらを振り返った。
「新緑の風亭へようこそっ!!私はエリー、この宿屋の娘ですよ。宿泊で良かったですよね?・・・ってか宿屋には宿泊にしか来ないか・・・いやいや、商品の売り込みかも・・・それにしても変な格好・・・」
猫耳少女エリーがブツブツ言っていると、
「エリー、何やってんだい。せっかくの金が逃げちゃうだろ?」
「あっ、お母さんっ!大丈夫だよ、私の魅力でこのお金っ・・お客さんをリピーターにしてみせるよっ!」
客の前でなんてこと言う親子だ、店間違えたかな?
そろそろと後ろに下がろうとした瞬間、ガシッと腕をエリー掴まれた。
「いっ、今のは冗談ですよ?ほらほらっ何泊なさいますかぁ?ちなみに食事付きですと、今なら何と・・・1泊銀貨5枚・・・いや、8枚はとれるか・・・」
「ゴンッ」
どうやら拳骨が落ちたようだ。
「エリー、そう言うのは金・・・っとお客の前で言うんじゃないよ!」
俺がジト目を向けると、
「やだよお客さん、私は旦那がいるよっ!」
ババアに欲情するわけない。
「それより宿泊なら食事付きで銀貨5枚だよ、どうすんだい?」
「とりあえず10日。あと、風呂はある?」
「風呂なんて高級なもん、王都の宿屋にしかないだろうさ。水を入れた桶と手拭いがあるからそれで拭きなっ。扉の前に置いていたらこちらでまた置いとくからね」
「お金さんっ!私が拭いてあげようか?銀貨3枚でいいよ?」
「エリー・・・でよかったかな?」
「うんっ!」
「もう少し成長して出直してこいっ!」
ブーブー言っているエリーを尻目にエリーの母親が部屋まで案内してくれた。
「食事は朝・夕方の2回。教会の鐘がなってから次の金がなるまでの3時間だよ。遅れたらなしだからね?」
わかったと頷いて部屋に入る。
とりあえず10日間は大丈夫だが、残りのお金が金貨9枚分しかない・・・。
異世界のお金稼ぎといえば冒険者ギルドだが、今日はもうヘトヘトなので飯を食べてねるかな?と考えているうちに眠りについていた。
翌朝、朝日の眩しさと暖かさで気持ち良く起きる。
ハッキリしない思考で、夕食を食べれなかった残念さと、知らない天井イベントをこなしながら1階に降りていく。
「あんた確か・・・カナメだったかい?夕食食べにこなかったんだねぇ?その分の金返せって言っても返さないよ?」
朝起きてすぐに金の話かとうんざりしているとなかなかの勢いで腹が鳴った。
「グギュ〜」
「そりゃ夕食抜けばそうなるさね。朝食には少し早いけど準備してやるから奥のテーブルに座っときなっ!」
俺は恥ずかしくて反論もできずにテーブルに着いた。
しばらくしてテーブルの上には2個のパンとコンソメ風の香りがするスープ、2切れの分厚いハムが乗った野菜サラダをエリーが運んできた。
「最後にコレっ!」
そう言って大きな骨付き肉を持ってきた。
「これは昨日の夕食の残りなの。本当は出さないんだからねっ!?」
昨日は成長したら出直して来いと言ったが、思わずドキリとしてしまう。
「あっ!今のは惚れたかな?そーでしょ〜!?今なら体を拭くのを銀貨5枚にしたげるっ!ゴッシゴッシ拭いちゃうよ〜!?」
「微妙に金額上がってるし・・・それはまた今度なっ!」
「もーっ!!」
ブーブー言ってるエリーに冒険者ギルドの場所を聞く。
「冒険者ギルド?玄関を出て右に10分ぐらいいけば、この宿屋よりも大きな建物があるからそこだよ?盾のマークに剣と杖がクロスしてるマークが目印だよ」
エリーは人差し指と人差し指をクロスして見せた。
「そうか・・・、ありがとなっ・・・」
礼を言って朝食に集中してあっという間に平らげた。
宿屋の玄関を出て右に歩いていく。
まだ早朝の為あまり多くのは歩いていないが、行き交う人々はこっちを見てヒソヒソ話しをしている。
ちょっと気分が悪い・・・いや、この破れた地球の制服を見たらそりゃああなるか・・・。
急いで宿に戻り、エリーに服屋を聞いてまた宿を後にした。
服屋はギルドとは反対方向に少し行った場所にあった。マークはカッコイイ服のマークだ。開店してそうなので店に入ってみた。
「・・・いらっしゃ〜い・・・。なんて・・・格好なの?」
いきなり現れた店員さんは普通ーのジミーなお姉さんだった・・・。
「あなた・・・どこから来たの?その格好じゃ・・・この街では浮くわよ?」
「はぁ、だよな・・・。適当にコーディネートしてくれないか?予算は金貨1枚かからないくらいで・・・」
「金貨1枚ってあなた・・・どこのボンボンよっ!かかっても大銀貨3〜5枚よっ!?」
「済まない、実は遠くから旅してきて良くその辺がわからなくてな」
「わかったわよ・・・、ん〜そうね〜、インナーはこの赤いやつがいいかしら、あとはジャケットとパンツは青黒いやつでいいかしら・・・靴は・・・これね。いや、こっちがいいわね・・・」
地味な店員さんが一生懸命に選んでくれていたので、真剣な表情にドキリとしてしまった。
着替えてみるとなかなかだな・・・。うん、イケてるはずだ。
「ありがとう、じゃあ大銀貨5枚でいいのか?」
「あっ、お釣り渡すわね?」
「いや、大丈夫だ。その代わりに今後もコーディネートしてくれないか?」
「これだから男って・・・まぁいいわ・・・また来てくれたらちゃんとコーディネートしてあげるわ」
礼を言って店を出て、今度こそと冒険者ギルドに向かった。