ベア
早朝リッカを宿屋まで<転移>させたあと、ダンジョンに潜る準備をしていると、玄関のドアベルが鳴った。
「・・・・どちら・・・様・・・」
「なの〜?」
リリとルルが対応している。
早朝から訪問とかどこのバカだよ!!
とりあえず玄関に向かうと、ピンクの髪の女性が頭を下げていた。
・・・・ん!?ピンクの髪?まさか・・・。
「お久しぶりですわ、カナメ様。ベアトリーチェは、カナメ様の元に嫁ぎ・・・コホンッ・・・お仕えに参りました」
今嫁ぎにって言わなかったか?
聞き違いかぁ・・・、満面の笑みだから突っ込むのも悪い気がするし。
「話しがよくわからないんだが・・・説明してもらえますか?」
「はいっ!!」
またもや満面の笑みだ。
やっぱりかわいいんだよな〜、薄ピンクの髪はセミロングだ。誕生日会に居た時は腰まであったが、今は短くなっている。
整った顔してるし、目も切れ長で大きいし、胸も大きい。何より、唇が少し厚めで大人なエロスを感じさせる。
胸の大きさを比較すると、
アイリス>ミネルヴァ>ベアトリーチェ>・・・>リッカ>・・・・>クールリュさん=リリ・ルル、って感じだ。
「私は自由を頂きました。なので家を捨てて、あの時私を救ってくださったカナメ様の元に嫁ぎに参りました」
言い切った!!!
さっきは誤魔化したのに、今回は「嫁ぎに来た」と言い切ったぞっ!?
ベアトリーチェの話しを要約すると、結構ヤバい人間な事が分かる。
ジグルから自由を貰うという事は、王族からある意味何をしても咎めないという免罪符・・・いや、傾奇御免状を貰ったという事だ。
元々貴族の生活に辟易していたベアトリーチェは、その自由の権利を傘に家を出たそうだ。
そして、その足で冒険者ギルドに登録をし、うちの屋敷に来たそうだ。・・・嫁ぎに。
どんだけアグレッシブやねんっ!!
王族っ!!ヤバい奴にヤバい御免状を渡したんじゃないだろうなっ!!!
「へ、へぇ〜そっそうか・・・。でも元貴族のお嬢様なんだよね?付け焼き刃で戦えるほど冒険者は簡単なお仕事じゃ・・・」
「大丈夫ですわっ!あの時くださった<転移の指輪>は王家が保管することになり、その代わりにこの<スギーアスアルグラン>という王家秘蔵の大盾を頂きましたから」
そう言うと、ベアトリーチェの手に大盾が現れた。
あっ!もしかしてアイテムボックス持ちか?
それに、大盾?貴族のお嬢様が前衛のタンク?
ない、ない、ない。
でも、可愛いは可愛いんだよなぁ〜。
「何でもいたしますわっ!カナメ様が望むならばいつどの様な状況であっても、どの様な事でも受け入れますっ!!」
・・・えっ?まじ?
いや、いや、いや・・・・・・ありでしょ〜!!
という訳でベアトリーチェ加入が決定した。
「ベアと呼んで下さいね?それから、カナメ様のお仲間は皆奴隷ですよね?私だけ違うのは何か嫌なんです。私も是非、カナメ様の奴隷として登録して頂きたいと思います」
「えっ!?それは流石に無理でしょ。お嬢様が耐えれる訳が・・・」
「私はまだ奴隷ではありませんので、拒否なさるのであれば自由の権利を使って・・・」
「わかったわかった、まーとりあえず数週間様子を見てから決めないか?」
「わかりましたわ。・・・良かったです。カナメ様のパーティを調べさせ、壁役が居ないって知って王家秘蔵の大盾を譲り受けた苦労が報われますわ」
ふぅ、決断力と行動力がハンパない。
えっ?調べたの?怖いわっ!!
ま、まぁ、とりあえずパーティにフィットするか試してみるしかない。
奴隷になった後で、パーティにフィットしなかったり、思ってたのと違うってなっては遅いのだ。
っとその前にベアトリーチェ・・・ベアだったか、のステータスを確認してみた。
ベアトリーチェ・イギ・アレイスタ
種族:人族
職業:盾士
称号:
年齢:15
レベル8
HP:1200(1200)
MP:640(640)
攻撃力:1380(580+800)
防御力:3200(1200+2000)
素早さ:850(850)
魔力:640(640)
器用さ:1050(1050)
運:70(70)
<固有能力>
「ゾーン」
<スキル>
大盾:LV1
アイテムボックス:Lv2
剛力:LV2
状態異常耐性:Lv1
<技スキル>
シールドバッシュ:LV1
フォーカスクライ:LV1
<加護>
<獲得可能職業>
ストーカー:LV1
<獲得可能スキル>
身体強化:LV1
ストーキング
<獲得称号>
スキルポイント 280
うぉいうぉいっ!!
突っ込みどころ満載だぞっ!
まず、年齢は15なんかよっ!めちゃくちゃ大人っぽいんだけど・・・。
まあそれは良しとしよう。
<固有能力>の「ゾーン」がヤバい。
ゾーン・・・数十秒間、周りの速度を遅く感じる。集中力により、持続性や遅く感じる能力が変化する。
こいつがヤバいっ!!
シールドバッシュなどはタイミングが重要だし、<ゾーン>のスキルが活きるだろう。
そんなことより、ミネルヴァの<共有>とのコンボ。
それが可能なら凶悪なスキルだ。
そして更に、王家秘蔵の大盾<スギーアスアルグラン>の防御力の高さは異常だ。
でも、それらも霞むくらいのインパクト・・・それが、獲得可能職業の<ストーカー>・・・と、獲得可能スキルの<ストーキング>だ。
恐ろしい・・・背筋がゾワゾワする。
アイリス達に事情は説明したが、幾分かアイリスの目がフラットになっていた。
ベアが挨拶をすると、青白い稲妻が女性陣の間に発生したのは、見なかったことにするべきだろう。
・・・・・とりあえずダンジョンに向かった。
ダンジョンの地下5階、メインの敵はオークだ。
「はっ!!」
「ガギンッ!!」
オークの突進をベアが受け止める。
どこにこれほどの力があるのか不思議だ。
「やっ!!」
「はーっ!!!」
アイリスの弓とミネルヴァのスラッシュが同時に入り、オークは倒れた。
はっきり言って、俺とウィルオーウィプスは用無しだ。
ま、まぁ今回は1匹だけだったし、複数の場合は活躍するもんねっ!!
そ、それに、アイリスに言わせれば、主人が活躍するのは奴隷の自分達が不甲斐ないからだそうだから、敢えて活躍してないんだからねっ!!
勘違いしないでよね!?
次は、オーク2匹とコウモリが2匹らしい。
ウィルオーウィプスが先行して囮役をしてコウモリを引き付けている。
このっ、裏切りウィプスがっ!!
その間にアイリスがスタンボールを放ち、1匹を痺れさせ、もう1匹はベアが<フォーカスクライ>で注意を引いて、後ろからミネルヴァがバサリと切り捨てた。
痺れて動けないオークに俺がトドメを刺そうとしたところにアイリスの強射が飛んで行き、眉間を貫いた。
ど、どうやらアイリスさんは、ベアさんに対抗意識を燃やしておられるようです。
そんなタイトルでラノベ1冊かけそうだが、問題は、コレって俺要らなくない?って事だ。
いやいや、囮役のウィプスくんは俺が指示したから動いたんだ。
その囮があったからこそ、スムーズに敵を殲滅できた。
つまり・・・。ん、そう言う事。
これなら問題なさそうなので、今まで潜った最下層である地下12階に転移して、深部を目指す事にした。
地下12階の敵は謎だし、マッパーのリッカがいないので、地図をカキカキしながら進むから時間がかかりそうだ。
「ベアトリーチェ・・・ベアで良かったか。調子はどうだ?」
「お気遣いありがとうございますですわ、カナメ様。戦闘は疲れますが、思ったよりやれそうです」
「そうか、とりあえずミネルヴァの<共有>とベアの<ゾーン>を試したいんだが・・・」
そう言ってミネルヴァに視界を<共有>してもらった。
ベアはダンジョンが珍しいのかキョロキョロしている。
酔う酔う・・・酔っちゃうからっ!うぷっ。
でも、アイリスとミネルヴァは平気みたいだ。この世界の三半規管は半端ないのだろう。
そうしてマップを描きつつ(1番仕事してない俺が描いてますよ)ダンジョンを進んでいると、アイリスから警戒の声が小さく上がった。
「アイリス、どうした?」
「大体100m先に今まで出会ったことの無いモンスターの気配がします、ご主人様。数は・・・6・・・です」
「6か・・・多いな・・・だが、慎重に進んで、ウィプスを囮にしていつも通りにやるぞ」
「はいっ、ご主人様」
「わかった」
「わかりましたわっ、カナメ様」
周りを照らしていたトーチを消して、慎重にダンジョンを進んでいった。




