今後の予定
食事も終わり一段落してから、全員に向けて話し出す。
「今回臨時報酬として大金貨3枚の収入があった。アイリス、ミネルヴァ、リッカには金貨3枚づつ与えるから好きな事に使ってくれ。リリとルルも金貨1枚づつ与えるから好きに使っていいぞ」
みんな呆けた顔をしている。奴隷にこんな大金を与えるなんて信じられないとアイリスが言ってきた。
「大丈夫。ただし、自分の事に使うんだぞ?武器の整備や、食料を調達は別に出すから心配しなくていい。アイリスも頼む」
「かしこまりました。ご主人様」
これでよし。だが、奴隷が1人で買い物なんかしていたら衛兵に捕まったりするし、皆美人だから襲われる危険性がある為、買い物に行く際は2人以上で行動する様に言い聞かせた。
「・・・ご主人・・・様」
「お願いがあるの〜」
「どうした?リリ、ルル」
「・・・このお金で・・・クエスト・・・依頼」
「お姉ちゃんを探して欲しいの〜」
どうやら、与えたお金で俺達にクエストを依頼したいらしい。クエストの内容は帰って来ない姉の捜索。
「リリ、ルル。わかった。ただし、お金はいらない」
「ダメ・・・です」
「そうなの〜ダメなの〜」
意味がわからなかったので双子に聞いたところ、冒険者に無償でクエストを頼むのは失礼な事だからやってはいけないと2人の姉に教えられたらしい。
なんとなくだが、2人の姉の意図が分かる。
多分だが、無償でクエストを受ける様な冒険者はロクな冒険者ではない。だから、双子が騙されない様にそういう教育をしたのだろう。
だが、困った。2人にはいつも掃除や洗濯、料理などをしてもらっているその分報酬をあげたい。
「ならこういうのはどうだ?お前たちの依頼はアイリスが受ける。だから、そのクエスト料はお前達の主人である俺が払う。これなら冒険者にちゃんと報酬を払ってるから問題ないだろ?」
「よく・・・わかりませんが・・・よろしいのですか?」
「なの〜」
アイリスは双子に向けて満面の笑みを浮かべる。
追加でアイリスに金貨2枚を渡した。
「はいっ。ご主人様の御依頼はしかと承りました」
これで解決したと思っていたら。
ドアがノックされてクリスさんが部屋に入って来た。
目が合うと、なんとなくミネルヴァの話しだとわかった。
2人きりで話すかどうか、気を使ってくれているのだろう。ミネルヴァの方を見ると頷いたので、全員で聞いても問題ないようだ。
「クリスさん、大丈夫です。それで話しとは?」
「そうですか・・・では先日カナメさんから依頼された、ミネルヴァさんを裏切った副将について、知り得た情報をお伝えいたします」
皆が固唾を呑んでクリスさんの次の言葉を待つ。
「バストール王国の元副将ナズールは、現在ニブラスカ国の辺境の地、レザレを治める代官の座にいます」
クリスさんの情報を要約するとこうだ。
<共有>のスキルによって若くしてバストール王国の四大将軍の1人に上り詰めたミネルヴァは、バストール王国の王子のお気に入りだった。
周りからは、王子のお気に入りだから大将軍になれたのだという妬み嫉みが多々あった。
そのせいでミネルヴァは味方に<共有>を使うことがなかった。使えば自分への悪意を感じてしまうからだ。また、悪意でなくてもいやらしい感情を向けられる事に辟易していた。
そのせいで副将ナズールに裏切られる事になる。
ナズールは、ニブラスカ国に取り入って多額の報奨金と辺境伯の地位を受け取る。ニブラスカ国は小規模とはいえジリジリした戦局を打開でき、四大将軍の1人を討ち取る事が出来る。
ナズールは他の大将軍の首も持ってニブラスカ国に亡命したらしい。
2人の大将軍を討ち取った英雄として迎え入れられる。
その後、辺境伯としてレザレを治めるに至るらしい。
ミネルヴァは歯ぎしりをしなが話しを聞いていた。
その後、補足するかの様に、裏切られた顛末を話し始めた。
「最初は一本筋の通った武官って感じだったのだ・・・」
ナズールは大将軍に上がったばかりのミネルヴァを補佐する為にバストール王国の王子が付けた副将だった。
王子はミネルヴァに気があり、何度も迫られたのだとか。
弟みたいな存在にしか見れないミネルヴァはいつもやんわりと躱し続けた。
ある日、バストール王国にニブラスカ国から兵が攻めてきているという情報が届いた。
ミネルヴァの<共有>の射程距離は目に見える距離らしい。
その<共有>で敵の視界をジャックしたり、狙いを感じたり、味方にジャックして、戦局を有利に進めて、連戦連勝、約2ヶ月仲間達と協力して戦争を有利に導いた。
事が起こったのは2ヶ月を少し過ぎた頃である。
明らかに部隊の隊長格の人間の数が減っていたのだ。仕方なくナズールの部下を隊長格の代わりに据えた。
すると問題が起こった。
方針決定時の発言力がミネルヴァよりナズールの方が上回ったのである。
結果、望まない方向へ兵を進める。
そこにいたのは、大部隊の待ち伏せ。
そして、そこには苦楽を共にした隊長達の死体だった。
「ナズールは笑っていたよ・・・下衆な笑いだった。お前を欲しがっている奴がいる。お前はそいつの奴隷になるのだと・・・一瞬王子の事かと思ったが違った。ナズールは追加でこう言った。お前の主人に貴族なんてもったいない。お前はどこの誰とも知らない奴に雌豚として使ってもらえと。王子ざまーって言い放ったんだ」
なるほど、ナズールは王子に恨みがあったんだな?それで王子のお気に入りのミネルヴァを奴隷にしたと・・・。ついでにもう1人の大将軍を手土産にニブラスカ国に亡命したのか。
どうする・・・。いや、答えは決まってるな。ミネルヴァの為にレザレに向かいナズールと対峙するしかない。
方針は決まっている。あとはクリスさんの協力を得られるかどうか。
得られなくても対峙することは決定だけどな。
クリスさんの方を見ると、やれやれと言った表情だが、口元が笑っていた。
よし、明日からはレザレを目指す。
だが、レザレまでは馬車で1カ月程の長旅だ。
危険もあるし、何より金もいる。
クリスさんの協力と言っても多額の旅の費用を用意してもらう訳にはいかない。
「みんな、聞いて欲しいんだ」
クリスさんを含めて全員が注目する。
「今後の方針だが、俺とアイリスとミネルヴァの3人でダンジョンに潜って金を稼ぐ」
「ウチはどうするっスか?」
「リッカには別の事をやってもらう」
そう言って説明をする。
ここで重要になってくるのは<転移の灯台>スキルだ。
このスキルは現れた魔方陣を場所に転写するスキルだ。
つまり、<転移の灯台>の魔方陣を馬車の荷台に転写することによって、移動式の転移場所を作ってしまって、その馬車をリッカが運転して行くのだ。
そして馬車は町の宿にでも留めさせて、夜は迎えに行く。
その間俺たちはダンジョンで金を稼ぐ。
クリスさんには、ナズールに何か物を送ってもらう。賄賂的な物なら喜んで受け取るだろう。
その賄賂の箱か何かに<転移の灯台>を転写して、それを使い屋敷に侵入する予定だと説明した。
ナズールの対処については敢えて語らなかったが、クリスさんは聞かないでいてくれた。
正直殺す事になるだろうが、最終的な判断はミネルヴァに一任するつもりだ。
料理屋を後にして屋敷に戻り、やることを全員としっかりヤってから眠りについた。




