クールリュ攻略戦
会場に戻ると、あのジーン家の三男ラクトアがクールリュさんに絡んでいた。
「おぃ、今なら許してやる。こっちに来い!」
「許すって何をだ?」
「またお前かっ!!いいかげん・・・」
「どうした?カナメ殿」
丁度いい所にジグル王子が寄って来た。
「大丈夫だ。この・・・何だっけ、何とか家の三男って奴と話をしていたんだ」
「なるほど、こちらの女性はカナメ殿のツレかな?」
「そうだ、俺のツレのクールリュさんだ」
「違っ!何?」
「そうか・・・その何とか家の三男とやらを連れ出せっ!!不愉快だっ!」
ジグル王子の一言で、何とか家の三男は連れ出されていく。
ちょっとだけ威厳を感じた。
周りの貴婦人方もうんうんと頷いている。
ちょっとした一幕があり、今からベアトリーチェに誕生日プレゼントを贈るイベントらしい。
最初はやはりジグルが贈るそうで、俺も<氷の花>をいつでも出せる様にスタンバイした。
「ベアトリーチェ、誕生日おめでとう。君は家が決めた婚約者、会った回数も3回程度だ。だから君の好みはわからない」
もったいぶるねぇ、ジグルのくせに。
まだかな?
「だから君へのプレゼントは考えに考えた末に決めた・・・」
おっ、そろそろか?合図は?
「君へのプレゼントは[自由]だっ!」
会場がザワザワしている。
全員意味が分かっていない。もちろん俺もだ。
合図もない。
「父上・・・いや、王様。この度の婚約の話は破棄して頂きたい。私ジグルは、このユーザとレニー2人と結婚したく思います」
ジグルがこちらをチラ見して、護衛の巨乳ちゃん達を指差した。
えっ?コレが合図なん?しーらねっ!
とりあえず2人の巨乳ちゃん達の周囲に<氷の花>を出していく。
72本の<氷の花>は強いが決して嫌味ではない甘い香りを放った。
「うぉーーーーーーーー!!!!!」
会場全体が騒めきたった。
「よって、ベアトリーチェには自由をプレゼントしたく思います」
「ジグルよ・・・・・お前の気持ちはわかった。だが、誕生日の席でコケにされたベアトリーチェ嬢の気持ちを考えたか?」
「はい。考えました、父上。その上での結論です」
巨乳ちゃん達は2人して大泣きしている。どうやらよっぽど嬉しかったみたいだ。
ベアトリーチェは、びっくりはしているが残念がってはいなかった。
この後、誰が彼女にプレゼントをあげれるのか?そんな勇者はいない。
何をあげた所で、空虚な雰囲気になってしまうから。
そうならないのは・・・この空気をブチ破れるのは・・・ガタンッ!!
立ち上がり、騒ぎに負けないくらいの大声で話し出す。
「ベアトリーチェさん、お誕生日おめでとうございます」
一礼を深々として、一同の注目を集める。
「ジグル王子のプレゼントにはびっくりしましたね?私も負けないくらいのプレゼントを用意しました。どうぞお受け取り下さい、<転移の指輪>です」
一同の沈黙が続く。
意味を消化しきれていないのだろう。
「ててて、転移の指輪だとーーーっ!!!」
会場が一気に騒めき出した。
王族御用達の鑑定士が呼ばれて鑑定をしている。
しばらくして、鑑定士が大臣に耳打ちし、大臣が王様に耳打ちした。
一同が固唾を飲んで、王様の言葉に注目している。
「いま、鑑定士から報告があった。<転移の指輪>は本物じゃ。回数制限がある様じゃがの」
「まじかっ!何でそんなものを・・・いや、何でそんなものが・・・」
「ジグル王子の御親友の方らしいわよ?」
「ただの冒険者って聞いたぞ?」
よしっ!これで、ベアトリーチェはあのいたたまれない空気から解放されるな・・・。
あの乳が悲しむのは、俺も悲しいのだ。
クールリュさんは、ヤレヤレといった顔をしていたので、一応舌を出してやっちゃったと伝えた。
ベアトリーチェは、一同の反応が面白いのか、ニコニコと笑っている。
「んほんっ!!カナメ殿・・・」
王様が何が言おうとしている。
「はい、何でしょう・・・」
「これをどこで?」
「はい、先日ダークレッドオーガという魔物に出会いました。何処からか突然現れパーティーを襲ったのです。満身創痍で倒したオーガにピアスみたいにして付いていたのが、その指輪です」
もちろん大嘘だ。ダークレッドオーガはピアスなんてしていなかった。
「なんとっ!!そんな魔物聞いた事がないぞっ?」
クールリュさんが進み出て話し出す。
「私はギルド嬢をしておりますクールリュと申します。失礼ながら王様、そのダークレッドオーガは新種認定されており、倒したのはそこの冒険者カナメさんです」
「おぉー、そうじゃったか。だが解せんのじゃよ、何故ベアトリーチェ嬢にコレを?」
「理由は簡単ですよ。俺の物を誰にあげようと、俺の勝手。しかも美しいベアトリーチェ嬢はフリーになられたばかり、男として当然の事をしたまでです」
「なるほど、男として当然の事・・・は本当の様じゃの」
鋭いなこの王は・・・。
目が合い、こちらの心を読もうとしてくる。
「カナメ殿はこの城の謁見の間に来た事がある。そして<転移の指輪>を持っていた。コレは何か良からぬことを考えていると取られてもおかしくないんじゃよ?」
「ですが、オーガを倒してから今まで使った形跡はない・・・でしょ?使ったのであれば回数が減ってるはず。そして、そう疑われる様な良からぬことを考えていたならば、わざわざベアトリーチェ嬢に送って目立とうと思う訳がない」
「確かに・・・だが解せん。新種のオーガは突然現れたと・・・転移して来たかのようにカナメ殿は言った・・・じゃが回数が減ってないのは変・・・」
「それは私にもわかりません。ただ1つ言える事は、王家に害するなど微塵も考えていない。それは先日の件で証明できたかと・・・」
「先日の件・・・?」
「何があったんだ?」
「静粛にっ!内容は話せんが、先日カナメ殿に王家を救ってもらったのは事実じゃ・・・。良かろう、不問にする。この指輪は改めて吟味し、ベアトリーチェ嬢にはこの指輪の代わりに相応の物を贈る事にする。以上じゃ」
何とか上手くいったな。
クールリュさんに感謝を伝える。
その後は晩餐の続きで、クールリュさんの愚痴に付き合った。
どうやらクールリュさんは飲み過ぎたみたいで、
「私も女の子なんですから〜、ヒック!傷付く事もいーっぱいあるんれすよ。聞いてます?カナメはん、ヒック!」
って数十回言っている。
しばらくするとベアトリーチェさんが近づいて来た。
「先程はありがとうございます。流石にあの空気はきつかったですから助かりました。私なんかの為にあんな、ものスゴイ指輪を・・・」
「気にしないでくれ。それに私なんかの為にってのは無しで。俺にとって価値があったから指輪をプレゼントしたんだ。ベアトリーチェさんの自分評価なんて関係ないから」
「さん付けなんて無しで、お願いします。本当に感謝しかありませんから・・・」
「・・・カナメはん、聞いてます〜?」
「ふふっ、今日はそちらの女性のエスコートをなさっているのでしたね?では、このお礼はまた改めて・・・」
耳元で囁いていったベアトリーチェの声はいつまでも脳内を反芻した。
それはまるで<氷の花>の残り香のようだった。
さて宴もたけなわ、そろそろクールリュさんを送って行くか・・・。
フラつくクールリュさんの腰に手を回し、ゆっくりと会場を後にする。
途中ジグルと巨乳ちゃん2人が寄って来て、感謝を伝えられた。
巨乳ちゃんに、「田舎に帰らなくて良かったね」って言うと、「うんっ!」って言う輝いた笑顔を向けられた。ご馳走様です。
城から出て、馬車を待つ。
「クールリュさん・・・何て言う宿に泊まってるんですか?」
「・・・い」
「えっ?」
「宿は〜・・・ない、ヒック!あの貴族の三男の家に泊まる・・・予定らっら・・・」
「えっ?」
「えっ?」
「こっちがえっ?ですよ?」
いつかのやり取りを思い出す。
「わたしは〜、ヒック!ダロンの街で1番人気の〜、ギルド嬢なんれすから〜。もんらいある〜?」
「あはは、思い出しますね?」
「そうれすよ、結構・・・傷ついたんれすから・・・。本当に・・・イヤ・・・らっらんですか?」
「さっきも言った通りに、ギルドに初めて行った時、絶対クールリュさんの所に並ぶって決めましたよ?例え何十人並んでいようが・・・」
「本当に?・・・少しらけ嬉しい」
「少しなんですねっ」
「・・・嘘。かなり嬉しい・・・。さっきあの貴ろくの三男から庇ってくれら時・・・ロキロキしれしまったんれす・・・」
「それは・・・助けたかいがあります。宿をとってないなら家にきますか?アイリス達もいますし・・・」
「・・・いやっ!」
おうっ!クールリュさんの瞳がウルウルしている。反則じゃん!
馬車が着いた。
乗り込むと、御者が行き先を聞いてくる。
王都の人気宿を聞いてそこまで行ってもらう。
受け付けを済ませた。何故かダブルの部屋で、何故か俺も泊まる事になっている。
この宿にはシャワーがあるらしく有料で魔石を貸し出していて、それをセットすればお湯まで出る。
クールリュさんはベットでぐったりしていたので、先にシャワー室に入る。
シャワーを浴びていると、ガチャって音が聞こえて後ろから抱きつかれた。
「クールリュさんっ!ここまで来といて何ですが・・・」
「黙って・・・。お願い・・・」
お互いの鼓動が聞こえる。
身体全体から音が出てる様に感じてしまう。
「明日からちゃんとギルド嬢に戻るから・・・」
クールリュさんの方を向いてその身体を見る。
胸を隠そうとしているが、その両腕を上に持ち上げて全身を見た。
「やっぱり・・・胸のある・・・女の人の方がいいんですか?」
絶壁だろうが、クールリュさんの身体は美しいし、いやらしい。
女性らしい流線型のフォルムで、くびれやヒップラインが素晴らしい。
胸も僅かに膨らんでいて、突起の色は濃いピンクだ。桃色とはこんな色を指すのだろう。
恥じらう顔は扇情的過ぎる。
「胸があるかないかなんてどうでもいい。クールリュさんは美しいし、いやらしいですよ。だからホラっ!?」
「あっ!!」
変化していた部位に気がついたみたいだ。
さっきからずっとクールリュさんのお腹を押していたのに、気付かないくらいに恥ずかしがっていたんだろう。
翌日の朝、クールリュさんは居なくなっていた。自由都市ダロンの1番人気のギルド嬢に戻ったんだろう。
朝帰りに、アイリスは何も言わなかったが、不機嫌さマックスだった。
ミネルヴァが、そっと<共有>してアイリスの感情を教えてくれた。
リッカがニヤニヤしていてイラついた。
双子は家事を覚えるのに必死になっていて、この微妙な空気には気が付いていない様子だった。




