パーリーナイツ
誕生日会当日、馬車が屋敷まで迎えに来た。
開始は夜からだと思っていたが、服を仕立てる為にジグル王子が寄越したそうだ。
服の料金も王子持ちらしい。
えっ・・・俺の30万が無駄になってしまった。
仕立てられた服は200万程らしい。もうバカらしくなって来た。
夕方まで服の仕立てにかかり、それから登城する。
ちなみにアイリス達は留守番で、俺だけで向かう。
応接室に案内されて、ジグル王子の護衛だった巨乳ちゃんの1人が、俺の相手をしていた。
「・・・ジグル?あぁ、いつもビクンッビクンッやってるよ〜。あれはアホだね、婚約して結婚するなら私の役目も終わりかな〜」
「そうか・・・。冒険者には戻らないのか?」
「田舎に戻る予定だよ〜。金はたっぷり稼いだからね〜」
そんな話しをしていると、執事らしき人が呼び出しに来た。
どうやらパーティー会場に向かうらしい。
パーティー会場の扉を開けると、そこはまるで別世界。色とりどりの羽根や、華やかな衣装に身を包んだ女性やそれをエスコートする男性が会場中にいて、話しが盛り上がっている。
案内された席に座る。
すると、喧騒の中から聞き慣れた声が聞こえた。
「やめて下さいっ!!」
「なにをっ?この絶壁がっ!ちょっと可愛いからって調子に乗りやがって!!」
見ると、クールリュさんが男に手を捻られていた。
たとえ絶壁だろうと、エルフ保護委員長の俺が黙っている訳にはいかない。
立ち上がって歩み寄り、男の腕を掴んだ。
「なんだ?キサマは・・・」
「クールリュさんが嫌がってるだろ?手を離せ」
「!!カナメさん・・・!」
「なんだ?この絶壁の知り合いか?俺をジーン家の三男ラクトアだと知って言ってるのか?」
「ジーン家?知らんっ!とりあえず離せっ」
「いっ!!」
男の腕を強く握ると、男は手を離した。
クールリュさんを後ろに庇いながら、痛がる男と対峙する。貴族のご婦人方から黄色い声が上がる。
「貴族の三男って予備の予備だろ?そんな奴が粋がるな。それに女性に対して失礼な事を言う奴はゴミのゴミ以下だ。理解できるか?」
「くっ!ふざけやがって。ギルド嬢の分際でパーティーに参加させてやったってのに・・・」
男はツバを吐きながらその場を離れた。
男が吐いたツバは執事やメイドさんが綺麗にしていた。
クールリュさんは終始無言で顔を真っ赤にしていた。
そりゃ絶壁と罵られ、好奇の目に晒されたら怒りと恥ずかしさで赤くなるわな。
俺は好奇の目に晒されているクールリュさんを他人の目から隠しながら自分の席に座らせた。
そのせいで俺が座る椅子がないことに気づいたメイドさんが椅子を持って来た。
「正直かっこよかったです。私が絡まれた時もあんなカッコよく庇って下さいね?」
って言われた。
クールリュさんは知り合いだし、専属ギルド嬢だから庇ったのであって誰でも庇う訳ではないのだが、そのメイドに耳打ちする時、何気に腕に胸を押し当てられたので、もう知り合いと言えなくもないか。
さて、クールリュさんは相変わらず絶壁・・・違った、無言だ。
髪をアップにして、ドレスは深い青。いつもギルドで見る時と違ってメイクが決まっている。ピンクのリップが少し厚い唇によく似合う。
胸は・・・かすかにある・・・いや、あれはドレス自体に厚みを持たせている。乳愛好家を騙そうったってそうはいきませんよ。
「災難でしたね・・・」
「カナメさん・・・何故ここへ?」
「それはこっちの台詞なんですが、一応答えると、ジグル王子に招待されたんですよ」
相変わらずクールリュさんに対しては横柄な態度を取れない。
クールリュさんはあのラクトアって言う貴族の三男の担当ギルド嬢らしい。
それでパーティーに誘われて、いい出会いがないかと来たそうだ。
だが、貴族達の気取った態度や、横柄な立ち振る舞いに嫌気がさして帰ろうとしてさっきの様な事になったらしい。
ジグル王子のに招待された事には驚いていたが、知り合いだって事は知っていたそうだ。
ギルドの情報網を甘く見ないで欲しいと言われた。
「やっぱりクールリュさんは綺麗ですよね?ギルドに入った瞬間、ぜっぺ・・・失礼。絶対クールリュさんの所に並ぼうって思いましたから」
「今絶壁って言いそうになりました?そんな訳ないですよね?私は絶壁ではないですから、ホラッ!?」
「いや、それってドレスのデザイン上の厚み・・・えっ?えっ?ちょっ・・・はいっ!そうですっ!間違い無く絶壁ではないです」
クールリュさんは怒るどころか、真っ赤になって目尻に涙を浮かべて泣きそうな顔になっていた。
いつものオーラはなりを潜めている。
何か調子狂うなぁ。
「分かればいいんです」
なんだ演技か、でもいつものクールリュさんに戻って来た。
いや、いつもはギルド嬢として少し壁を築いた態度だけど、今はその壁が無い分魅力が増している。
しばらく経つと、会場に王様が入ってくる。
その王様の紹介で、主役とジグル王子が入って来た。
全員立ち上がり、拍手しだしたのでそれに習った。
ジグル王子の婚約者は、なんだアレ。ふざけやがってザ・お姫様って感じで包容力がありそうな柔らかいオーラだ。可愛い・・・それに、どこかの絶壁とは違う大きな胸。
いっでーっ!!!
足先に激痛を感じた。
「あら、ごめんなさい。お酒に酔ったのかしら?よろけてしまいました」
「よろけた足であの衝撃って、どれほどの重量が・・・」
「それ以上言うと・・・」
「じ、冗談ですよ、クールリュさん。クールリュさんはスタイルバツグンですから」
ジグル王子の婚約者とジグル王子は会場を周り始める。
護衛の巨乳ちゃん達も引き連れていた。
しばらくして俺の方に向かって来る。
ヤバイっ婚約者の人、めちゃくちゃ可愛い。ジグルにはもったいなさ過ぎる。
くそっ!くそっ!ジグルのくせにーっ!
「ベアトリーチェ、この方が親友のカナメ殿だ。カナメ殿、婚約者のベアトリーチェだ」
親友にまでランクアップしてるよっ!
どんだけ友達居ないんだよ、ジグル。
「ベアトリーチェと申します。今夜は私なんかの誕生日パーティーに参加して下さってありがとうございます」
「カナメです、こちらこそ参加させて頂いてありがとうございます。ジグルにはもったいなさ過ぎの婚約者さんですね」
「あっはっは、カナメ殿もそう思うだろ?俺には過ぎた婚約者だ。親が決めた相手でな、直接会ったのはこれで3回目なんだ」
ん?護衛2人が面白くなさそうな顔をしている。
よくわからないが、複雑な心境なんだろう。
ジグルが耳打ちしてくる。
「例のヤツは、俺が指を指して合図するからそこに一気に出して欲しい。大丈夫かな?カナメ殿」
「わかった。合図されたら指示された場合に一気に出すんだな?」
ジグル王子とベアトリーチェは会場周りを再開した。
・・・あれ?俺は誕プレあげなくていいのかな?アレ?いやいやいや・・・。
「クールリュさんはプレゼント何あげるの?」
「女の私が女性にプレゼントするわけないでしょ?絶壁だから男だとでも言う気?」
「クールリュさんが男な訳ないです。こんなに魅力的なんですから。ただルールを知らなくて・・・俺がプレゼントあげないと問題になりますか?」
「は?当たり前でしょ。どんな物でもいいからあげるのが普通よ。名誉に関わるから、最悪ギルド除籍もあるわよ」
ま・じ・で?
一難去ってまた一難。
どーするよ、とりあえずアイテムボックスの中を確認する。
・・・何もない。小さな魔石が20数個と売り残しの素材、金。アイリス用の矢とリッカのスリングショットの弾。
どうする、どうする?
「クールリュさん、その指輪を売ってくれませんか?」
「もしかしてプレゼント用意してないの?この指輪あげてもいいけどボロボロよ?」
「そんな事ないです。お願いします」
クールリュさんの承諾を受け指輪を受け取るとトイレの場所を教えてもらい立て籠もる。
洗面所に、ありったけの小さな魔石と、指輪を用意し、指輪には<転移の灯台>を刻んだ。
確か転移系のアイテムは国宝級だったはず。そこまでのじゃなくても良いから、たのむっ!何か良いやつになってくれっ!!
「<好転>っ!!」
固有能力の<好転>は、固有能力以外の抽象的な事象、具体的な物質を自分にとっていい方向に変化させる。デメリットはMP消費がバカデカイことと、どんな風に変化するのか自分でもわからない事だ。
<転移の灯台>を刻んだ指輪と小さな魔石が光を放ち、それが終息した。
その場所には、大きな宝石を抱いた指輪があった。クールリュさんからもらった時とはかなり見た目が違う。最初は宝石なんて付いていなかったからだ。
さっそく鑑定してみる。
転移の指輪・・・一度でも訪れた場所に転移できる。イメージが曖昧な場合は場所がずれる場合もある。(22/22回)
いや、コレはヤバイだろ。
もっと劣化しないと大騒ぎになってしまう。
回数の22回は多分小さな魔石の数だと思われる。
これを装備にやればいいと言う話だが、MP消費の多さと、使える武器になる保証がないから今のところやる気はない。
お金に余裕が出たらやってみてもいいかなっ?ってレベルだ。
こんな国宝級の物が出来るって誰が思う?こんなの渡せる訳がない。
これはプレゼントが無いっていう不名誉を甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
そんな事を考えながら会場に戻ることにした。




