躾
「お帰りッス。あの子達は、ご飯を食べさせて風呂に入れたッス。今応接間にいるッスよ」
「・・・俺より先に?何か釈然としないな」
俺は別に、いい人や主人公キャラを狙っているわけではない。だからこういうことはキッチリしたい。
「リッカ、俺は主人だ。こういうのはケジメが必要だ。今度からは俺を待て。わかったか?」
「す、すいませんッス」
「リッカさん?ご主人様は躾の話をされてるのです。許可なくリッカさんが勝手な事をすると、ご主人様の権威が揺らぎかねないのです」
「わかりましたッス、奥方様」
「まぁ!!リッカさんたらっ♪ご主人様、今回は大目に見てあげた方が・・・」
リッカめっ!アイリスの扱い方が日に日に上達してやがる。つまりは俺の扱い方が上手くなっているって事だ。
ここはケジメが必要だっ!!
「ダメだっ!!アイリス!リッカに流されるなっ!」
「申し訳ございません、ご主人様」
「お前達には今晩罰を受けて貰う。いつもの倍は頑張って貰うから覚悟するようにっ!」
「はいっ♪ご主人様」
「う〜、わかったッス」
「イチャイチャはそのくらいにして、姉妹の様子を見て来たらどうだ?」
確かにそうだ。
応接間にいるんだったな・・・。
応接間に向かい扉を開けた。
2人は部屋の隅で寝ていた。
リッカが2人を起こす。
「起きるッス」
「・・・ん」
「はぅ・・・」
「眠たいだろうが、眠る前に話をしないとな」
「・・・はい」
「はいなのっ」
二人の姉妹の事情は、この世界ではありきたりな事情だった。
姉と双子の姉妹3人で暮らしていて、両親は既に他界していたそうだ。
姉が冒険者で家族を養っていたが、その姉がクエスト中に失踪・・・というより死んだんだろうけど、魔物に食べられれば死体は見つからない。
ともかく、姉がいなくなった事で2人は住む所を追われ約2ヶ月間、乞食の真似事をしていたらしい。
あの男達は、浮浪者を痛め付けていた有名な下衆だった。見つからない様にしていたが、食べ物を探しに出た所をとうとう見つかってしまったそうだ。
「リリ・・・だったか?何でもするから助けてくれだったな?妹だけでも・・・」
「・・・・・・はい」
「ならお前は、俺の奴隷になれ」
「・・・はい。・・・そういう約束」
もう1人の方に向かって言う。
「ルルだったか?姉は俺の奴隷になる。お前はどこにでも行っていいぞ?」
「ダメなの。私もここに置いて欲しいのっ!何でもしますの」
意外と妹の方がしっかりしてる・・・のか?
俺の言いたい事を理解して・・・ないな。天然だ。
「ならルルも奴隷だな。お前達の仕事は・・・冒険者は無理だろうから、屋敷の掃除や洗濯。他にも料理などをやって貰う。メイドだな、出来るか?」
「・・・いつもやって・・・いた・・・ました」
「得意なの」
なら良かった。明日はコイツらに奴隷紋を刻む為に王都の奴隷商に向かうか・・・。
あと、服がボロボロすぎる。今日はとりあえずいいとして、服も買ってやらないとな・・・。
はぁ、金がない。
とりあえずやることはやって寝ることにする。
「アイリスとリッカはいつもの2倍なっ!」
「は〜ぁいい、ご主人様ーっ!!」
「おっおおっ!おぼあぁ・・・えてたっ・・・ッスねーぇっ!!」
「私は?キサマっ!私の分も残しておけよっ!」
「ミネルヴァっ!ステイっ!!」
最後の言葉はアイリスさんである。
阿鼻叫喚の宴は夜遅くまで続いた。
双子はもう眠っているはずだが、この大声で起きないことを願った。
翌日の朝、玄関のベルが鳴った。
ミネルヴァが起き上がり、部屋を出て行った。
「ジグルが来てるぞ?」
「早っ!まじか、応接間に通しておいてくれ。リッカ・・・リフレッシュシャワーと飯を頼む。アイリスは双子を起こして・・・」
「双子は起きているぞ?」
ならばと、アイリスには俺の準備と付き添いを頼んだ。
着替え終わって応接間に入る。
「おぉっ!カナメ殿!<氷の花>を集めてくれたとか・・・」
「あぁ、ギルドには指名依頼って事にして貰った。お前の婚約者の誕生日は3日後だったか?」
「そうなんだ。本当に助かった。集まりが悪くてどうしようかと悩んでいたんだ。して、何本集まった?」
「何本必要かわからなくて、とりあえず、72本程ある」
本当は73本集めたが、昨日1本使ってしまった。確かにいい香りがした。というか今もかすかに<氷の花>の香りがする。リッカのリフレッシュシャワーでも落ちない香り、だが嫌味な香りではなく優しく甘い香り・・・そりゃ香水が高額で取り引きされるわっ!
「72本!!流石だなっ!カナメ殿に頼んで良かった。報酬だが、1本大銀貨2枚で買い取ろう。これはギルドで依頼を受けた者と同じ金額だ」
「わかった、それでいい」
「それとは別に、指名依頼達成報酬として大金貨2枚でどうだろう」
<氷の花>の金額が144大銀貨、つまり大金貨1枚と金貨4枚、そして大銀貨4枚。日本円で144万円。指名依頼達成報酬は日本円で200万円。合わせて344万円。
そんなものか・・・。
「因みにだが、<氷の花>はまだ新鮮だぞ?多分摘みたてだ」
「なんとっ!」
プレゼンを開始する。
香水ではなく貴重な<氷の花>、その新鮮な摘みたての花そのものを婚約者に贈ればどうか?その花を香水にしてまた贈れば2回喜ばれる。
「なるほど・・・なら早速・・・」
「で、この新鮮な<氷の花>をいくらで買い取ると?」
「なるほどなっ!さすがカナメ殿。商売にも長けてるなんて。では、誕生日に友人として参加してくれるのだな?そうしないと新鮮な<氷の花>をプレゼントするのは不可能だからなっ!なっ!?」
どんだけ友達居ないんだよっ!
なんか墓穴を掘った感じだが、今は金がいるから仕方がない。
大金貨1枚ぐらいしかなかったからな。
結局、摘みたての<氷の花>は1本で大銀貨4枚、依頼達成報酬は3日後に誕生日会に参加も含めて大金貨3枚になった。
達成後に報酬が発生するので、服を買いたいが金が残り少ない。
今回は俺のパーティー用の服だけを買った。
お値段は金貨3枚って30万なんて高過ぎだが仕方ない。アイリスのオススメなんだよ。
食料品を買い込み誕生日会まではコツコツと小さなクエストをこなしながら過ごした。




