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チート?いいえトーチです  作者: 取手名
28/62

翌日昼ごはんを食べてから屋敷を出る。

リッカが御者を出来るらしいので、馬車を1台借りて出発した。


前方にある山がシズ山でその山の中腹にその<氷の花>があるそうだ。

結構レアな花だそうだが、美しく清い香りを放つと言う事で、この花を使った香水が超高値で取り引きされているとリッカが説明してくれた。

予定としてはどこかで野宿をし、翌日中腹まで行く。2日ほど探して、成果があれば下山だ。



山の麓に着いたので、早速野宿の準備をする。

少し開けた場所に火を用意し、そして<聖火>を使い魔物を遠ざける。

万が一のことを考えて逃げ道を全員で確認した後、それぞれ休憩する。

昼に王都を出たので、そろそろ周りが暗くなり始めている。

アイリスは俺に膝枕をしてニコニコしている。何が楽しいんだか・・・。

ミネルヴァは武器の手入れと再点検。

リッカは煮込み料理をセットした後、スリングショットの練習をしていた。

そんな時、


「グオォォォォォォォーーーーーーーーオ!!!!」


少し遠くから恐ろしい叫び声が聞こえてきた。

ミネルヴァはいち早く構えて、続いて俺も武器を受け取り構える。

アイリスとリッカは少し動揺している。

もしかしたら雄叫びスキルかもしれない。俺は異常状態耐性があるし、ミネルヴァは戦場で経験しているのかもしれない。


「ドゴンッ!!!」


数100m先からトラックが電柱にぶつかった様な、大きな音がして、それが段々と近づいてきている。


「アイリスっ!リッカ!戦闘態勢だっ!!!早くしろっ!!」


命令の効果があったのか無かったのかわからないが、2人は動き出して武器を準備した。



「ズンッ・・・・・・ズンッ・・・・ズンッ・・・ズンッ・・ズンッズンッドスンッドスンッドガン・・・・ッ!!!」


大きな音と共に目の前の木々が激しく揺れた。


「・・・上だっ!!」


ミネルヴァの声に反応して上を見ると、黒い影が段々とデカくなって降って来た。

一歩後ずさりすると、目の前を何かが高速で上から下に通過した。


「ご主人様っ!!」

「ご主人っ!!」


我に返ると目の前に赤黒い鬼が立っていた。


冷や汗が吹き出る。

鬼はトゲ付きの棍棒を振り下ろした態勢で、片目に矢を受けていた。

矢は多分アイリスが放った物で、それがなければ一歩後ずさりしていても、あの棍棒の餌食になっていただろう。


「グオァーーーーーーー!!!」


鬼が叫ぶ。

アイリスはスタンボールを放ったが、麻痺する様子はない。

火にかけていた煮物の鍋が横倒しになり、中身が溢れて火が激しい音と水蒸気をあげている。

剣を握り直し、グリップを確認。


(・・・よしっ、やれる!)


「すまない、大丈夫だ。いつものフォーメーションでいくっ!!リッカはサポート頼むっ!」


「ズザッ!!」


鬼の胸から鮮血が吹き出る。

アイリスのウインドエッジが、鬼の胸板に傷を着ける。


「アイリス、ミネルヴァ、バフを頼むっ!!」


「はい、ウインドフォローっ!!」

「オートシールドっ!!」


「ミネルヴァっと・・・自分・・・・にもっ!!」


鬼が棍棒を振り回しているのを避けているのでなかなか指示を出せない。

だが、ミネルヴァは察してくれたようで自分にもバフをかけた。


「オートシールドっ!・・・ストレングスっ!!」


<ストレングス>は自分の攻撃力を上げるスキルなので他人にかけることはできない。


「ウインドフォローっ!」


アイリスはミネルヴァにウインドフォローをかけた様だ。

なんとか前衛にバフが付いたが、後衛のアイリスとリッカには付いていない。

だが、アイリスはわかってくれているみたいで、順次かけて行ってくれた。


問題は1つ。

最初にアイリスが当てたウインドエッジの傷が塞がっていってる事だ。

俺とミネルヴァは、2m50cm程の身長から放たれる、リーチの長い鬼の攻撃になかなか責めれないでいる。


「パリィ!!!・・・グッ!」


その上重い、武器スキルを使って受け流していても身体が吹き飛ばされそうになる。

それだけでなく、棍棒を持ってない方の手で殴られてしまった。


「があっ!・・・くそっ!!」


「ご主人様っ!!!」


「大丈夫だっ。オートシールドのおかげで助かった」


鬼が吹き飛ばされた俺の方を向いて追撃を再開した。


(ヤバいっ、今のでオートシールドが壊れたっ!パリィ出来るかっ!?)


「くらうッス!!」


「ガアッ!!!ガアッーッ!」


状況を打破したのはリッカ。

スリングショットで飛ばした物体が鬼の顔面を捉えた。

その物体は、今回俺がリッカと話し合って用意した3種類のスリングショット用の玉の1つ。

胡椒(こしょう)と痺れ薬と毒草の粉をブレンドした玉で、対象物に当たると破裂し、胡椒でクシャミをする為に痺れ薬と毒草の粉を吸い込んでしまう。


「名付けて、クシャミ痺れ毒丸ッス!」


いや、まんまやないか〜い!!


とにかく鬼はクシャミをしている。目にも粉が入ったみたいで、棍棒を手放し目を擦っている。


「ダッシュラッシュ改っ!!!牙顎(ががく)っ!」


ミネルヴァの攻撃が綺麗に決まったが、鬼の身長が高い為、時間差がほとんど無い上下のコンビネーションである<牙顎>が鬼の脳天を捉えきれなかった。


「・・・・スラッシュ・・・改っ!!!!」


鬼がフラついたので溜めスラッシュ改を放つ。レベル4になったことでスラッシュは溜める事が出来る様になった。溜めると攻撃力が上がる、その渾身のスラッシュ改が鬼の背中を大きく切り裂いた。

だがまだ浅い。鬼ががむしゃらに振り回した腕があたり吹き飛ばされる。

見ると、さっきミネルヴァが与えた傷が回復していってた。


「まじかっ!!どんな回復力だよっ!」


「オーガは腕力と回復力が化け物じみてる。まだ倒してないぞ!!」


ミネルヴァは油断してないみたいだ。普通の魔物ならもう死んでいても良さそうな傷だが、塞がり始めオーガの目も意思が消えていない。


「スタンボールっ!!」


ナイスっ!!回復しかけた鬼の動きが止まり、とうとう鬼が膝をつく。傷口にスタンボールだったから良く効いたみたいだ。


「ミネルヴァっ!!」


俺が何を言いたいか察したらしく、ミネルヴァが構える。


「・・・・スラーーーシュっ!!」

「・・・・スラーーーシュッ!!」


膝をついた鬼の頭の位置は低くなり、その首めがけて挟むように、お互いぶつけるようにスラッシュを放った。


「ギャギンッ!!!」


刃がクロスし、×になるようにぶつかり光が飛び散る。

鬼の首が弾けた飛んだ・・・・。

鬼は・・・動かない。

・・・戦闘が終わった。


「まだですっ!!もう1匹居ますっ!!ご主人様っ」


「グガァーーーーーーーーー!!!」


もう1匹鬼が飛び出してきた。


「デ、デカいっ!!」


さっきの鬼は大人が肩車した高さだったが、今回の鬼は肩の上に人がもう1人立ったぐらいの高さがある。

つまり3mぐらいある。

その鬼は憤怒と悲しみ両方を感じさせる表情をしていた。

事前にオーガは群れないと聞いていたが、さっき殺した鬼つとこの鬼は(つが)いか親子なのかもしれない。

鬼は大きく息を吸い込んだ。


(咆哮がくるっ!!)


だが、おれの予想に反して鬼の口に何かが収束する。


「ドンッ・・・・・!!!!!!!」


横っ飛びした身体の横に何かが落ち爆破した。

霞む視界に見えたのは、鬼と抉れた地面、倒れた奴隷達だった。


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