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チート?いいえトーチです  作者: 取手名
25/62

Y字状の金属

翌日の朝、クリスさんが宿に訪れた。

また奴隷が増えていた事に驚いていたが、訪れた理由は王都の家の件だそうた。

1週間ほど前、王都でバカ王子の呪いを解いた褒美として家をくれると王様が言っていた件だ。


「忘れてた訳じゃないんだけど、もっと先になるかなって・・・」


「はぁ、そうですか。つい先日連絡が届いたので、また王都に行きたいと思うのですが・・・」


正直、王都まで行くのは面倒だが、1度行ってしまえば<転移の灯台>というスキルで転移が出来る様になるからなぁ。

でも今日は無理だな、リッカの武器を何か買わないと・・・でも最悪は武器無しでもいいか?


「今日は無理ですね。明日出発でもいいですか?」


「明日ですね?承りました。昼頃迎えに来ますので」


やり取りが終わるとクリスさんはアッサリと帰って行った。何やら明日の準備があるそうだ。


「クリスさんも帰ったし、ちょっとやりたいことがあるんだが・・・」


「何でしょう?ご主人様」


「キサマの事だ、どうせエロい事だろ!?」


「ミネルヴァの姉さん!お前達がそう思ってるならってなるッスから、そう言う事は・・・」


こいつらっ!・・・アイリスもエロい事だと思っていたな?え?違うんですか?って顔してやがる!


「それは夜だっ!夜っ!それよりも・・・<転移の灯台>っ!!」


スキルを使うと灯台のマークが中央にある魔方陣が浮かび上がり、地面に広がって転写された。


「そのスキルは何だ?」


「魔法・・・陣、ですね?ご主人様」


「ほえ〜、何ッスか?これ」


「これは秘密にしたいんだが、このマークを刻んだ場所に転移できるスキルがあるんだ」


「まぁっ!!すごいです、ご主人様」


「てててっ転移だと?」


「それはすごいッスねぇ!転移が使えたのは過去3人で1人は国を作って、1人はあの勇者パーティーの1人ッスよ?後の1人は西の果ての魔女が使えるらしいッス」


リッカが言うには、西の果ての魔女以外は昔の英雄達で、魔女は居るかどうかも怪しい存在らしい。つまり、現在使える人間は居ないと言う。

転移出来る魔道具はそこそこあるが、国が管理していたり、高額だったりするらしい。


「まあ、これで王都から簡単に帰れるはずだ。試した事はないがな。とりあえず今日はこれから買い出しだ。まずはリッカの武器だな」


こうして、昼飯を食べに外に出て、その足でギルドに隣接している武器屋に向かった。






「どうもっ!」


「お主は・・・たしかカナメじゃったか?武器の具合はどうじゃ?まさかまた壊れたとか・・・」


「違う違う。この装備を買い取って欲しいのと、リッカ・・・コイツの武器が欲しいんだが、コイツはどんな武器を持っても職業やスキルが発現しなかったらしいだが・・・」


「なるほど、たまにおるわい。多分適正武器が特殊なんじゃ。今までにどんな武器を扱った?」


「ん〜そうッスね〜、剣、短剣、大剣、槍、杖、槌、棍棒、斧、それから弓ッスね」


「そうか、ならこの水晶を持ちながら、店にある武器を全て持ってみるがいい。適正があるなら水晶が光るはずじゃ。それから装備の買い取りじゃな?これは・・・、主はこれをどこで?」


「オークの村を殲滅した際にあったんだよ。それを拾った」


武器屋の髭オヤジは何か悲しそうな顔をしながら装備を鑑定していた。多分このオヤジが売った装備なんだろうな。その売った装備を身に付けた冒険者が死ぬのは何かくるものがあるのかもしれない。

装備の買い取り価格は金貨5枚と大銀貨7枚、日本円にして57万円だそうだ。

高いのか安いのか、もう良く分からない。


「リッカ、適正がある武器はあったか?」


「ないッスね〜。鞭もダメ、大弓も短弓もダメッス・・・」


「以外と大盾とかありそうだけどな・・・」


「・・・ダメッスね」


その後はフレイルや鎌やグローブ、吹き矢まで試したがダメだった。

職業やスキルが発現すれば俺の<好転>スキルでどうとでもなるし、呪いでそうなっているとしてもそうだ。手詰まり・・・いや、俺の<好転>は、固有能力以外の、抽象的な事象、具体的な物質を変化させる能力だ。スキルにこだわる必要はない。武器をリッカに合わせて変化させればいい。リッカに適正がある武器に変化するかどうかは賭けだが、<好転>は自分にとって望ましい変化をするはずだからイケる・・・か?


「ちょっとこれを持ってみろ」


何かちょっとだけ高価そうな短剣が傍らにあったので、それをリッカに持たせる。

武器屋のオヤジからは棚があって死角になっているし、<好転>させるなら今だな。


「<好転>」


短剣がグニャグニャしている。リッカは驚いて落としたが、液体金属の様になっている為に、音は鳴り響かなかった。一安心すると、地面に丸っこいYの字状になった金属が落ちていた。


(刺股?って訳じゃないよな・・・20〜30cm程度しかないし・・・!!もしかしてスリングショットか!!)


スリングショットの歴史は意外に浅い。たしか地球の歴史で1800年初期にゴムの剛性が改善されてからだったと思う。つまりは近代武器なはず。

この地球の中世レベルの世界にはゴムがなく、スリングショットもないのかもしれない。だからリッカは適正武器が見つからなかったんだ。


でも、問題がある。


「お、オヤジ・・・リッカが武器を触ったらこんな風に変化してしまったんだが・・・」


「えっ!えっ?ウチが悪いんスか〜」


「なにーっ!!それはそこそこの短剣だぞ?」


「だっ、だよな・・・。すまん、いくらだ?」


「少なくとも金貨3枚だが、不良品だった可能性もある、代金は貰えんっ!!」


「いや、この変な金属の棒は欲しいんだ。ちゃんとお金は払うよ」


「なら材料費として金貨1枚だ」


まぁ、金貨1枚なら安いもんだ。リッカの装備も買い揃えて、代金を払った後は全員で森に向かった。






「さて、アイリスかミネルヴァは、何かネバネバの樹液を出す木を知らないか?」


「キサマと言う奴は・・・抽象的すぎるだろ!もっと具体的な特徴はないのか?」


「俺も良く知らないんだよ、何か木の皮を剥ぐと白くネバネバした液体が出るらしいんだが、それをしばらく放置して、酸を入れたりするんだと思うんだが、そうするとこう・・・なんだ、びよ〜んってなる奴だが・・・」


「なるほど、ビヨーンの木ですね?」


「あぁ、ビヨーンの木か・・・」


あったらしい。この森にもビヨーンの木はあるらしいので盥を準備してその木に向かう。

2人に案内されて着いた場所には胴回りが2〜3mある、立派なビヨーンの木?があった。

早速傷を入れてみる。


「おぉ、出てきた出てきた。もっと傷をつけてこの液体を集めてくれ」


「はい、ご主人様」

「仕方ないな・・・」

「何か変な匂いがするッス」


傷を上手く付けれなくてかなりのロスはあったがしばらくイチャイチャしていると盥に白い樹液が溜まった。


「アイリス、例の変化させるヤツを今からやるからなっ!今日は2回目だから多分倒れる。宿まで任せて大丈夫か?」


「はい、ご主人様」


「無茶はしないようにっ!よし、<好転>・・・」


あっ、抜けて行く・・・。そういえば異常状態耐性があったんだった。でも、たったって居られない。

あっ!フワフワポヨンポヨン!!

気がつくとミネルヴァの背中の上だった。結局気絶したらしい。一度下ろしてもらいゴムの状態を見てみた。


「おっ!いいじゃん!」


<好転>はいい仕事をしてくれたみたいだ。

程よい弾性で引っ張っても切れない、素人目にも分かるくらいにいい1m四方のゴムシートが出来ていた。

とりあえずナイフで適当な大きさに切り、武器屋で手に入れたY字状の金属の上の部分にゴムを渡した。

中央には皮を配置してみたが上手くいかない。


「貸すッス。ウチこういう雑用は得意なんスよ」


リッカが針と糸で皮を縫い合わせてゴムの中央にセットした。


「出来たッスよ」


「おぉ、いいじゃん。それはリッカの武器なっ!」


「キサマは何を言ってるんだ?」


「ミネルヴァさん?ご主人様に間違いなんてないんです」


「アイリスの言う通りだぞ、これは・・・こうして使うんだ」


地面に落ちていた手頃な小石を皮の台座にセットする。セットした小石を台座ごと後ろに引っ張り、Y字状の金属は前に出す。


「ヒュッン!!」


小石は明後日の方向に飛んでいった。


「これはスリングショットって言うんだ。小石やら何やらを敵にぶつける。まぁ、使い方はリッカに任せる。アドバイスぐらいはするから、とりあえず使ってくれ」


「マジッスか?わかったッス」


こうしてリッカの武器が決まった。適正があるかどうかは直ぐにわかるだろうが、多分大丈夫なはずだ。

宿に着いてからはリッカがスリングショットの練習をしたいと言うので、アドバイスしながら見学した。

だが、翌日は王都に出発するので早めに夜の営みを済ませた。


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