事情
「あっ!カナメさん!どうされました?」
「クールリュさん、ちょっと相談があるんですが・・・」
「個別面談はちょっと・・・。あっ、人払いしますので端のカウンターにどうぞ」
冒険者ギルドに戻ってきてクールリュさんに事の顛末を話してみる。
「それでしたら大丈夫ですよ。依頼の譲渡ですね?」
依頼はパーティー同士で話し合って、ギルド職員が許可を出せば譲渡可能らしい。クールリュさんは1度席を立ち、他の職員と少し話して戻ってきた。
「はい、譲渡可能です。今回パーティーリーダーが死亡しているので、リッカさんのサインをココと、ココと、ココに下さい。・・・はい。リッカさんは綺麗な字を書くんですね?」
「そんな事無いッスよ。ウチはこんな事しか取り柄が無いッスから」
クールリュさんは「そうですか・・・」と答えた後、依頼達成報酬について話して来た。
「今回の依頼はオークの村の威力偵察だけだったはずですが、壊滅までしていただいたので、確認後報酬をお渡しします。多分素材買い取りも時間を頂くと思いますのでまた明日お越し頂けますか?」
と言うことらしいので、素材買い取り所にオークの死体を23体と、行きと帰りの道で狩った魔物(ゴブリン2匹、スラッシュラビット3匹、ウインドウルフ3匹、ワイルドボアという猪を1匹出して宿に戻る。
リッカは宿代がないと言うので、一緒の部屋に泊まることにした。
「おかえり〜!ありゃりゃ、また奴隷が増えたんだ・・・。私のゴシゴシは・・・需要ないよね」
「エリー、今度頼むから。それよりまだ大きな部屋は空いてないか?」
「空いてるよっ!?1泊、大銀貨1枚と銀貨5枚だよ?移るの?」
「エリー、さすがにそれは高すぎないか?それなら他の宿「わ〜っ!!嘘、嘘!!大銀貨1枚でいいからぁ!」にって、それならいいんだ。とりあえず10泊分払うよ」
金貨1枚を出すとエリーの瞳は金貨色に染まる。今日はさすがに疲れた。宿を出て帰ってくるまで約4日。久々ベッドでゆっくり致したいが、リッカがいるので自重した。部屋の中にはベッドが2つあり、俺とアイリス、ミネルヴァとリッカで別れて寝た。
翌日、昼過ぎに起きてギルドに向かった。クールリュさんは俺を見かけると手招きして、カウンターの端に呼んだ。
「えーっと、依頼達成は確認されて、残っていた建物は焼き払いました。オークの村の威力偵察の成功報酬が大金貨1枚、村の殲滅が大金貨2枚、素材買い取りが魔石を含めて大金貨1枚と金貨2枚です」
内訳を聞くと、オークジェネラルの素材と魔石が高いので大金貨1枚になったという事だ、これで日本円にして420万、持ってたお金と合わせると、520万円ぐらいになった。
リッカはとなりでドヤ顔を決めていた。
「どうッスか〜?ご主人〜」
「わかったわかった。で借金の肩代わりの手続きとか奴隷登録はギルドがしてくれるの?」
「はいっ、大丈夫ですよ。今使いを出してますから・・・って言ってる間に来ましたね」
あれよあれよと言う間に事が進んでいく。リッカの借金である大金貨2枚と手数料が金貨1枚出て行って残りが日本円で210万円になった。
借金で奴隷落ちは犯罪奴隷らしいので解放もなく、性奴隷もオッケーだそうだ。なんかめちゃくちゃ厳しいと言うと、そうでもしないと借金分を回収出来ないかららしい。つまり、お金を貸した親切な人を守る為の法律とのこと。
リッカはそれがわかっていた為に、奴隷に優しい俺に買われる事を望んだらしい。
いろいろ落ち着いて宿に戻ってきた。
「あっ!!オークの村で拾った、大きな魔石と冒険者の装備の事忘れてた・・・」
「冒険者が拾った物は、その冒険者の物ですので、大丈夫です、ご主人様」
「キサマ次第だが、あの装備は剣以外使えそうになかったぞ?」
「売った方がいいッス。ご主人」
「リッカ、お前はさらっと馴染んでるな?」
「お二人とはいろいろ話せたので今さらッス。それにウチはこんな性格ッスから・・・ニシッ」
「ニシッって・・・はぁ、わかったもういい。明日売りに行くとして、今はリッカを戦えるようにするぞ?」
「・・・?出来るなら有難いッス・・・」
考えていたことがあった。
リッカには攻撃スキルがない、というか使える攻撃スキルがない。
そこで、リッカのドレインミストを<好転>させて見ようと思う。どう変化するかわからないが、俺にとって得な変化をする筈だし、使えないスキルに変化しても元々使えないスキルだからあまり関係ない。
それから、リッカの職業はマッパーにする。斥候というかそんな感じになってもらう。
「リッカ・・・お前にはマッパーになってもらう」
「いやぁ〜、いきなりッスかご主人。まぁ奴隷になった時点で覚悟はしているッスけど、真っ昼間にお二人の先輩奴隷を差し置いて・・」
「職業なっ!!真っ裸じゃなくてマッパーな?斥候みたいな職業なんだろ?」
「嫌だな〜ご主人、わかってるッスよ〜」
「お前が想像していた事は夜まで待て・・・」
「あはは〜、初めてなんでお手柔らかにッス」
とりあえずリッカのステータスを見て、職業をマッパーに変える。次に、ドレインミストを注視して<好転>を使った。
あっ・・・ヤバイ、減る減るっ!めまいがするが倒れることは無かった。状態異常耐性のおかげだろうが、いっそ倒れた方が楽なくらいに気持ち悪い。
気分が落ち着いてからリッカのステータスを見る。
リッカ
種族:人間
職業:マッパー:Lv5
称号:パーティーマスコット
14歳
レベル:15
HP:230(250)
MP:540(540)
攻撃力:450(400+50)
防御力:400(320+80)
素早さ:520(500+20)
魔力:450(400+50)
器用さ:850(850)
運:23(23)
<固有能力>
「オートマッピング」
<スキル>
水魔法:Lv3(クリエイトウォーター:Lv3 リフレッシュシャワー:Lv2 )
ドレインボール:Lv1
魔物図鑑:Lv4
料理:Lv3
<加護>
女神の加護:Lv5
<獲得可能職業>
料理人:Lv5 探索者:Lv3
<獲得称号>
散財者
スキルポイント120
あれっ?水魔法の派生スキルだったドレインミストが、ドレインボールという別カテゴリーになってる。
ドレインボール・・・当てた対象からHP・MPを吸い取り、吸い取ったボールが次に当たった対象にそれを与える。ドレイン量はスキルレベル×2%
ん?スキルレベル×2%・・・。今だと2%って事か、微妙だな。
「リッカ、見てみろっ。お前のドレインミストが変化してドレインボールになった」
「おぉ、ご主人はそんな事までできるんスね〜!?」
「誰にも言うなよ?以前それで面倒な事が起きたからなっ」
「了解ッス!!でもこのスキルも微妙ッスね?倒すまでに50発も当てないといけないんスね〜」
「文句言うなっ!それを当てていくのがお前の仕事だ。後は武器だな〜。本当に何も使えないのか?」
「ウチだっていろいろ試したんスよ。剣・槍・弓・短剣・棍棒どれもスキルがつかなかったッス」
「そうか、ならまだ試してない武器を試しながらおいおいやっていくぞ?」
「はいっス!!」
最後の返事はめちゃくちゃ嬉しそうだった。何かいい事あったんだろうか?まぁいい、今夜は俺にいい事があるからな。
冒険者の装備や魔石は明日売りに行くとして、ご飯を食べた後三人に全身を拭いてもらった。最初は「頑張るッス」と言ってたリッカも、俺がリッカの体を拭き始めると、借りて来た猫の様に大人しくなり、恥ずかしいのか伏し目がちになっていた。
改めてリッカを観てみる。赤い髪をツーサイドアップにしていて、目はパッチリしている。瞳の色はブラウン。身体つきは華奢で、胸はBだな。ただ胸の先端の色は3人の中で1番小さな美しいピンク色だ。八重歯がちょっと俺好みだな。
普段ボーイッシュな言動をしている女の子が、いざ行為となると大人しくなるのはなんかいいなぁ。
その後は3人を拭き、3人とした。
ピロートークの時、どうしてリッカが借金する事になったのか、これまでの経緯を聞いて見た。
「経緯ッスか?そぉッスね〜・・・特に面白い話でもないんスけど・・・」
リッカはポツリ、ポツリと話し始めた。
リッカは低階級労働者、つまり奴隷よりはマシってぐはいの家庭で育った。10歳の時に一攫千金を夢見て冒険者を目指す様になる。その頃、流行り病が流行して父親が死んでしまう。そうなると家の稼ぎはほとんどゼロになってしまったそうだ。
10歳のリッカには力もスキルもなく、リッカは雑用依頼を沢山こなしたらしい。
母親も無理をして働いていたが、過労により倒れる。後はその倒れた母親の薬代を稼ぐ毎日・・・。とうとう借金してしまうが、その苦労も虚しく母親も亡くなってしまったそうだ。
力もスキルもない自分が嫌になりいろいろ努力したが、何も実らなかったらしい。
作った借金を返す為に借金をする生活だったが、サポート系スキルが開花してからはパーティーに誘われる様になった。だが、今までの借金のせいでもうどうしようもない事になっていたらしい。
この世界の利息は元金の何割って感じらしい。リッカの場合は月に元金100万円の3割で月30万が利息として取られていた。生活費を切り詰めても、武器スキルが使えない為、武器の修理代が嵩む。結果大金貨2枚、日本円にして200万円まで借金が膨らんだ。13〜14歳の少女には酷な事だ。
「それで1発逆転しようと危険なギルドの依頼を受けて、捕まった所に俺たちが現れたと・・・」
「そぉッス、今思えば運命だったんスよ。それに・・・ウチが1番欲しかった、使える攻撃スキルを・・・戦う力をご主人はくれたッス・・・」
「よかったですね〜、リッカさん」
アイリスがウルウルしながらリッカを抱きしめ、ミネルヴァもウンウン言っている。
「力が無い無力さと言うのは本当に心を蝕むからなっ、良かったな・・リッカ」
ミネルヴァが言うと重みがあるな。ミネルヴァも力が足りず多くの部下を死なせたんだったな。
「ありがとうッス、ミネルヴァの姉さん」
毎日毎日呪ったそうだ。攻撃スキルがあれば冒険者として成功できて、母親にも楽をさせ、死なずに済んだのにと。攻撃スキルがあれば仲間を守れたのだと。
「呪いの様に攻撃スキルを習得出来なかったッス。習得しても周りを巻き込むダメスキル・・・。けど、ご主人がそれを与えてくれたッス。・・・かっ・・・感謝・・する・・・しまス」
「お前はもう俺のものだから感謝する必要はない。ハッキリ言って奴隷3人もいるんだ、バンバン稼ぐから、リッカにもバンバン働いてもらうぞ?わかったら早く寝ろ」
「はいっ、ご主人様!」
「了解した」
「おやすみッス」
はっきりと礼を言われると照るな・・・。
まぁいい、明日もやる事が沢山ある。
隣にあるしなやかな身体に抱きついた。
今日はミネルヴァが抱き枕になる番だ。
張りのある大きく柔らかな塊を手の平に感じながら眠りについた。




