箱の中の悦楽 解決編
「念願の玉手箱を手に入れた江里口君は、一刻も早くそれが本物だと確かめたかった。一番てっとり早く確かめる方法がなんだか解るかい?」
「箱を開ける……ことですか」隆史はおそるおそる言った。
「そうだね。箱を開けて本当に老人になったら、それは間違いなく本物だ。江里口君はそう信じたことだろう」
「じ、じゃあ江里口君は本当に――」息を呑んだ恐山に、北条は指を振ってみせた。
「おいおい、あれが玉手箱なんかじゃないことは君がよく知ってるだろ。第一、開けた相手を老けさせる魔法の箱なんて、あるわけないだろう」
「丈さん。話が長い」日向ににらまれた北条が早口になる。
「江里口君にとって箱を手に入れることは宿願だった。彼は箱を自分のものにすることを一日千秋の思いで待っていたことだろう。一日が千年にも感じられる思いだったんだ。でも不幸なことに、箱はただの箱ではなく、手順どおりに動かさないと開けられない秘密箱だった。一刻も早く、この箱が玉手箱だと確かめたい。でも箱はなかなか開けられない。一方で立てこもった部屋は外から今にも開けられるかもしれない。あせりから秘密箱は余計に解けない。時間が刻々と過ぎていくなか、江里口君はどんどん年老いていった。1日=24時間が1000年ならば、1時間で約42年。1時間半ならば63年だ。1時間半後、ようやく箱を開くと同時に彼は力尽きた。2年生だった江里口君はおそらく17歳。17+63で享年は80歳になるだろう。でも彼はある意味幸せだったんじゃないかな。箱は彼の望んだ玉手箱ではなかったけど、現に箱を開いたとき、彼は玉手箱の魔法にかかったように、まぎれもなく老人になっていたんだから……」