シングルストーリー
「――なので、僕はこの文章を読んで『マシンは人間の代わりを務められない』というのが筆者の意見だと感じました」
「まあ……素晴らしいわ! みんな、竹田君に拍手! 彼はこの文章を正しく読み取りました!」
年老いた女性教師の命令に、生徒達は嫌々従う。ぱらぱらと、まばらな拍手が響いた。
「竹田君の言った通り、この筆者は、マシンは人間と同じ水準に立つことはできないと主張したいのですね。それを逆に汲み取った人がとても多かったですが、その人達はまだまだ読解力が足りないと言わざるを得ません」
生徒達のほとんどが、顔に反発や敵意さえむき出しにするが、女性教師はそれに気付いていないのか、生徒をこき下ろし続ける。
「ゲームやアニメに時間を費やすのも勝手ですが、母国語をまともに理解できないあなた達は将来ロクな大人になれないでしょう。もっと本を読んで勉強しなさい」
「なあ竹田、あれ、本音か?」
休み時間、竹田は友人に話しかけられた。
「はっ、んなわけねぇだろ!」竹田は笑いながら答える。「あのババアの授業で思った通りの答えなんか言ったって無駄だよ。あいつ言葉通じねえんだから」
竹田は一つ溜息をついて「大体あの小説、人間もマシンも馬鹿にしてるんだぜ。人間賛歌の要素なんか無いっての。ちゃんと読めば、勝った側は常に思い上がる、がテーマだってわかるだろ。な?」
「ああ、確かにな。俺もそうやって感想文書いた。んでバツくらった」
「だからな、あの授業に読解力なんて要らないんだよ。ババアの顔色伺って、思ってそうなこと復唱してやれば大満足して満点くれるってわけ。あいつ反マシン派だから」
「ふーん……」
「数学だったら、合ってる答えにバツなんてつけられねえけど、国語だったらいくらでもいちゃもんつけられるからな。ホント、お似合いの職業だよ」
竹田の歯に衣着せぬ物言いに、友人も笑うしかない。
「ま、国語に関して言えば、あのババアの言いそうなこと書くだけでいい点取れるな。どうせあのボケ、都合のいい所しか読めねえんだからさ」
友人は苦笑いを浮かべながら、いいことを聞いたと思う同時に、今までの勉強はなんだったのかと不満を抱えた。