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第8話  地道な一歩

 「冒険者が減ってる?」


 「はい。先日の戦いもそうですが、皇国が我が国を狙っているのことが響いているようです。彼らの気持ちを代弁するならば、このような負けると分かっているところにはいられないっと言ったところでしょうか......」


 オリバーはそういうと、人差し指で頭をぽりぽりと掻いた。それに対しユラも苦笑いを浮かべながら聞いた。


 「普通さ、敵が攻めてくるぞーってなったら、よし来いやーってなるんじゃないの?それが冒険者ってやつなんじゃないの?」


 「はい、ですが我が国は最近まで戦争を経験しておらず、強い魔物も出ません。ギルドが依頼するクエストも薬草の採取や兵士に代わっての街の見回りなど、はっきり言って大したことないものばかりです。なので今回のことになって、ほとんどの冒険者が雲隠れしてしまったのだと思います」


 本来シンシア王国にとっての長所が今回は裏目に出ていた。


 「基本的なことを聞くけど、ギルドに冒険者がこないとどう困るの?」


 「クエストを受けてくれる冒険者がいなくなってしまいますので、魔物の素材が不足してしまいます。そうすると素材から作れる道具や武具、ポーションなどが我が国で作れなくなってしまいます」


 「さすがにそれはまずいな......」



 少しの間、沈黙が場を支配する。数10秒後、ユラが苦笑を浮かべたまま言った。


 「この一件、預からせてもらってもいいかな?」


 「ユラ様、何か解決策がお有りなのですか?」


 「いや、今はまだ無いけど、この国に関わることだからね。いつ答えを返せるかはまだ分からないけど、なるべく早く策を考えるよ。それじゃあ今日はこれで」


 そう言ってユラは立ち上がり、部屋を出て行く。3人もユラに従いついて行く。その後ろ姿をオリバーは深く礼をして見送った。






 シンシア王国王城地下2階。1人用の独房が20部屋用意されている。そこにユラが捉えた侵入者の2人が留置されている。


 「隊長、何とかここから抜け出せませんか?」


 エルソンが右の独房にいるシホンへと尋ねる。 


 「そういうことはもう考えないほうがいいわよ。ユラ様が作った特製の独房らしいからね。正面にある鉄の檻の隙間には魔法障壁がかかってる。それに原理は不明だけど、魔力を吸収する床と天井。どんなに考えても脱出する手段なんか思い浮かばないわ。例えここを脱出したとしてもすぐにまた捕らえられるだけよ」


 そんなことを2人が相談していると、ほんの僅かにコツ、コツ、っと音が聞こえ、長身の女性が姿を表した。


 「さすがに自分の置かれている状況は分かるようね」


 「ミユリ様......」


 「どう?ここの住み心地は?」


 「最高ですよ、さすがユラ様が作った独房ですね。逃げ出せる気が全くしません」


 「それは良かった。それであなた達どうするの?このままだと確実に死刑よ」


 死刑という言葉を聞いてもシホンは表情を変えなかった。


 「なら甘んじて受け入れるしかありません。私達は囚われの身ですから」


 「ユラから誘われたでしょ?こちら側に来る気はないの?」


 「行った所で、どうせ皇国に滅ぼされます」


 「あなた以外と馬鹿ね。それを防ぐために私たちがこっちに渡って来たのよ。それに今の皇国のやり方に一番不満を抱えてるのはあなたじゃない?」


 「......」


 「そうねえ。それじゃあ今度見せたいものがあるから、それを見てから決めなさい」


 そう言い来た時と同じ靴の音を響かせながらミユリが去って行く。その言葉の意味を2人は聞こうとしたが、その時にはすでにミユリはいなかった。




 シンシア王国国王ティレウスが王城の外へ出ることは滅多にない。テラスフィア皇国が侵攻して来たせいで他の国家との交流が難しくなって来たからだ。もちろん国王がいなければ務まらない行事で出かけることはあるが、それ以外では治安の低下による国王暗殺などの危険性もあり、モリスとマリーの進言により執務を極力王城内ですませることになっている。


 そんなティレウスが王都クリスタ南部にある塔建設中の公園に赴いていた。塔建設の進捗具合をこの目で確かめるために赴いたのだったが、今彼の顔に出ている表情はまさしく驚愕の一言だった。



 「おぉ......これが......」


 ティレウスが見上げる先にあるのは建設途中の塔である。漆黒の色をした塔からは幻想的な雰囲気と圧倒的な存在感が感じられる。


 「実際に見ると何というか、凄いとしか言えないわね」


 「もしかしたら既に我が王城よりも高いのではないか?」


 モリスとマリーも口々に感嘆の声をあげる。


 「ユラ、この塔はあとどのくらい高くなるのだ?」


 ティレウスの前に跪いているユラが答えた。


 「はい殿下。この塔は丁度10階まで完成しております。最終的には80階まで建築いたしますので、現在の約8倍の高さになります」


 「はちば......」


 モリスが思わず呟いてしまう。ティレウスも完成したらどこまで伸びるのだろうと考えながら、青空を見ていた。


 「ところでユラ、あそこにいるのはあなたの息子、確かノラ君よね?それにサユリちゃんも。何で彼がここにいるの?」



 その問いにユラは少し自慢げな態度を隠せないまま説明を始める。


 「ノラはこの塔建築部隊のリーダーでございます。しかし稀に子供ながらに暴走することがあるので、それを防ぐためにサユリをお目付役として置いています」


 目をパチパチとさせながら今ユラが言ったことの意味をゆっくりとマリーは理解しようとしたが、やはり頭が追いつかないのでもう一度聞くことにした。


 「......あの、何でノラ君が?」


 「この塔を建築するには莫大な量の資材を調合、合成する必要があり、それには魔力を大量に使います。その点で言えばノラは魔法道具を作るのが趣味ということもあり、さらには魔力量だけで言えば自分に匹敵するほどのものを持っています。決して親バカで子供に手伝わせているわけではなく、ノラに塔の建築を手伝わせることによって塔の建築速度、精度ともに格段に上昇します」


 「今更だけど、あなた達何者なの?......」


 「それを説明するには私たちの生い立ちをお話しする必要がありますが、それはまたの機会に」


 驚きのあまり思わず聞いてしまったが、マリーは個人的にはあまりユラ達の生い立ちに関して深く聞こうとは思わなかった。留まっていれば地位を約束されていた皇国からわざわざ王国へ亡命して来たことなどから、深い事情があるのだろうと想像できたからだ。

 こうして王国のために力を尽くし成果をもたらしていることもあり、今の所はユラ達がいつか話してくれるのを待つとマリーは決めていた。


 「殿下、そろそろ王城の方へ」


 「そうだな。ユラ、良いものを見せてもらった。この調子で頼む」


 「はっ、殿下」


 そう言い残し魔道車で王城へ戻るティレウスをユラは悠々とした気持ちで見送った。





 ユラ達家族が王国へやってきて1ヶ月半が立った。季節が少し巡り草花が秋の装いを見せ始める頃。


 シンシア王国軍はミユリの育成カリキュラムによって徐々に戦闘力、練度が上昇していた。と言っても他国では当たり前となっていた部隊を戦士、魔法、弓など職業別に分けるということすらしていなかった為、この国が今までいかに平和ボケしていたかが露骨に浮き彫りとなった。


 ミユリが行ったことはまず部隊を職業ごとに再編した。そして職業毎のカリキュラムを作る。ここで役に立ったのがユラが地球から取り寄せたTV(てーべー)だった。部隊別、さらに細かく、剣、槍、など武器毎に基本動作、立ち回りなどをCAMERA(けめら)によって記録し見せることによって訓練の効率を大幅に上昇させた。


 魔法部隊は目で見るだけで訓練になる訳ではないからTV(てーべー)を使えない。よってユラとミユリが交互に訓練の面倒を見ることになった。魔法部隊は他の部隊と比べて人数が少なく80名ほどだったため、1人1人の技量をチェックしながら訓練を進めることができた。一度にこの人数を見れるほどユラ、ミユリの教官としての腕は優れていた。


 特に精鋭部隊の成長は目を見るものがあった。

 肉弾戦を主としてきたギュンター、レイは魔法を限定的ではあるが第6級まで実戦で使えるレベルに、魔法畑出身のルルと元から魔法寄りの両党のメリアはミユリによる鬼のフィジカルトレーニングによって体力を底上げされ、戦闘技術においてはミユリの剣術をたっぷりと教え込まれたことによりギュンター、ルイと互角の勝負ができるほどまで成長していた。


 そしてその精鋭部隊のメンバー一同が鍛錬の間に集められていた。いつものように一列に集められ、前にはミユリが対峙している。幾度となく見られた光景だが、これから行う内容は以前とは違うものだった。


 「みなさんも、大分成長されましたね。よくここまで頑張ってこられたと思います。今回はいよいよ重量無視(グラビティ)による飛行訓練を行います」


一同の反応は様々だった。ギュンターは相変わらず直立不動で淡々と話を聞いている。ルイは明らかに興奮した様子でミユリの話を聞き、ルルはゴクリと喉を鳴らす。メリアはわずかに微笑を携えていた。


 「まずは私が実際にやってみますね。よく見ててください」


 話終わるやいなやすぐにミユリの体が数センチゆっくりと浮いた。そして目で追えない程の速度で50メートルほど移動した。


 「あの、今のって飛んでたんですか?」

 

 いまいち釈然としない面持ちでルルがミユリに尋ねた。


 「ええ。数センチだけ体を浮かせて高速で低空飛行したのよ。飛行するといっても、ただ浮き上がるだけじゃ的になるだけだからね。実際に使うには今から見せるくらいのことは出来るようになってもらいます」


 ミユリがそういうと先ほどと同じように床の上を少しだけ浮いて飛行する。ただ先ほどよりも速度を落とし、肉眼で終えるほどの速度で低空飛行を繰り返す。そして徐々に速度を上げていき、低空飛行からツバメのように高速で空中を飛び回る立体飛行へと変化させた。


 「これをやれってんですか......」


 ルイは求められるレベルの高さに唖然とすると同時に、この技をものにしてみせるという意気込みを忘れてはいなかった。


 空中飛行をやめ、一同の前に降り立ったミユリが発破をかける。


 「さあ、やりますよ、練習すれば必ず出来るようになります!!」




 

次回の投稿は1月18日を予定しています。※変更の可能性あり


追記 申し訳ありません。作者病気のため、22日までに投稿いたします。ご容赦ください。

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