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第4話  次の一手

 テラスフィア皇国、迷宮の間。そこに1人の男がいた。セラーノ・マレ。皇帝を補佐役の一人であり、今回のシンシア王国侵略の全体指揮を任されている。


 「セラーノ様!!お知らせしたいことがございます」


 部下が階段を息を切らしながら登ってくる。


 「どうした?王国はもう降伏したのか?啖呵を切っておいて、随分あっけなかったな」


 「ニールでの戦闘にて、我が軍は敗走しました」


 「......は?」


 「ですから、我が軍は敗れました。残った兵は3000程だと......」


 「言っていることの意味が分からんのだが」


 「ではこう申し上げれば分かっていただけるかと。我が軍はたった1人の魔術師に敗れたそうです」


 「1人?笑えん冗談をこれ以上言うような......まさか......」


 セラーノには心当たりがあった。もしそれが当たっていたらとてつもなくまずいことになる。 


「皇帝陛下へお伝えする。すぐに生き残った兵を招集しろ」


 「はっ、かしこまりました!」




 



 「綺麗なお家ですね」


 「でもまえのおうちよりせまーい」


 「こら、ノラ。折角殿下からいただいたお家なんだからね」


 ミユリがノラの頭をポンと叩く。


 「大きければいいってもんじゃないぞ、ノラ」


 

 ユラ達家族一行は、王国内の新居へ足を運んでいた。王城へ住んではどうかとティレウス殿下に提案されたが、ユラは堅苦しいことが苦手だったので、一般庶民が使うような家がないかとマリーへ頼んでいた。しかし将軍が一般の民と一緒に住むのは色々まずいということで、貴族街にある侯爵位の地区にある物件を紹介してくれた。結局堅苦しくなってしまったが、仕方ないとユラは頭を切り替える。


 「お母様、私のお部屋はどこですか?」


 「2階の奥の部屋よ。ささ、見ておいで」



 ユラ達家族の家は上から見ると横に長い長方形で角を丸くした形をしていた。この国は長方形にこだわりがあるのか、ユラはそう言ったこだりを持つ気持ちはよく分かる。ユラ自身にも細かいこだわりがあったからだ。そんなどうでもいいことを考えていると、ミユリから声を掛けられた。


 「ユラ、そういえば殿下から招集命令きてるんでしょ?」


 「うん?......あっ......やば!!」


 それを見たミユリがユラに手を振った。


 「いってらっしゃい、あなた!」


 「いやいや、ミユリも行くんだよ!まだ陛下にお目通りしてないでしょ!?サユリ、ノラをお願いね!」


 「はい、行ってらっしゃい!」



 


 2人は転移魔術で執務室へと転移し滑り込みで時間に間に合った。


 「時間ギリギリね」


 「申し訳ありません。でも間に合ったでしょ?それに細かい時間までは分からないはず」


 「正午かどうかくらいはわかるわよ」


 マリーは不機嫌ではなかったが、ユラ達が夫婦でいるところを見てある種の焦りを感じていたのか、おさげの髪を触りながら頬を膨らませていた。


 そんなマリーの様子を特に気にすることもなく、マリーはティレウスに向かって跪いた。


 「そなたががミユリ・ラフィエルか?」


 「はい、ミユリ・ラフィエルと申します。謁見のご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」


 「なに、構わん。それにユラに今回は助けてもらったからな」


 「私には勿体無いお言葉でございます、殿下。それにこれからが始まりでございます」


 「ユラ、マリーとモリスをミユリへ」


 「はっ」


 ユラはミユリを連れてマリーの元へと向かった。


 「ミユリです。よろしくお願いします」


 「マリー・レンよ。よろしくね」


 次に2人はモリスの元へ向かう。


 「こちらが、ミラージュ殿で」


 「ミラージュではない!!モリスだ!俺の頭はそこまで光っとらん!」


 そうモリスが訂正した時、ミユリの張り手がユラの頬を直撃し、10メートルほど吹っ飛ばされる。その様子を見ていたマリーがクスリと笑う。


 「主人が失礼いたしました。ミユリです。よろしくお願いします」


 「ユラのことは少しずつ慣れてきているから気にするな。モリス・レーゲンだ。よろしく頼む」


 紹介が終わると、仲良し夫婦は再びティレウスの前に跪く。ユラの左頬には紅葉が咲いていた。



 「さて、ミユリ、お主は如何程の実力を持っておるのだ?ギルドカードを見せてみよ」


 「はっ、殿下」


 そしてユラの時と全く同じ動作でギルドカードを差し出す。


 それを改めたマリーがため息交じりに呟く。


 「金色......夫婦揃ってまたなんというか......」


 マリー・ラフィエル


  冒険者ランク S


  剣術技量 SS


  魔術技量 S


  格闘術技量 S

 


 マリーはギルドカードをティレウスへと持って行く。


 「ミユリ、お主も類い稀なる実力の持ち主のようだ」


 「お褒めに預かり光栄です」


 「結果で示すというのは本当だったようだ。我もあのTV(てーべー)とやらで確認した。見事な働きだ。それで、次はどうする?」



 「殿下、課題は山積しており、しなければいけないことが星のようにと言っては大袈裟ですが、沢山ございます。その中で特に重要なのは次の3つでございます」


 

 1. 軍を強化する


 2. 我が王国の象徴となるものを造る


 3. 4年に一度行われる闘技大会「太陽杯」に参加する


 

 「順番に聞いていこう。まず、軍を強化する必要はあるのか?」


 「はい、ございます。我が国はまだ皇国の攻撃を一度退けただけです。現在の軍の規模、練度のままでは、敵勢力は何度でも侵攻することを諦めないでしょう。それに軍が強ければ、それだけ敵は侵攻することを躊躇します。軍を強化することは、抑止力にも繋がるのです」


 ティレウスは争いを極力避けたいと考えていたが、ユラの言う軍が抑止力となる点については同意しており、先を促すことにした。


 「軍を強化するというのは、具体的にどうするのだ?」


 ティレウスは一度ユラが結果を出していることもあって、それなりに期待して聞いてきた。


 「まず今いる兵士を鍛えます。ミユリが教育担当の責任職に就き、剣士、魔術師など分野ごとにカリキュラムを作り、軍全体の質・練度を上げていきます。それと同時に新兵も少しずつ募集します。これは王道なやり方ではないですが、鍛錬の間以外の王城内でTV(てーべー)を設置できる場所を作り、この前の映像を流します。これには2つ狙いがございます。1つ目はTV(てーべー)を一般の民に見せ、軍に入れば最新鋭の魔道具などが見れるのでは?と期待せることです。2つ目ですが、努力すればいつかはあの領域まで強くなれるのではと思わせます。要するに、引っかかった民を釣り上げるのです」


 それを聞いたティレウスの思いは、半分が素直な感嘆であり、もう半分がこいつは油断ならないというものだった。



 「あれを見て、もし本当に自分もあそこまで強くなれると思う民が出てきたらどうするつもりだ?出来なかった時にどう責任を取る?」


 「正直に申しまして、私のレベルまで引き上げれるかは保証できません。ですがミユリは、私情を抜きにして教鞭を執る才能は超一流です。なにせ皇国時代の最高教育官を務めていましたから。必ず立派な兵を育てることを保証します。そして私も教育に参加します。それと念のため、TV(てーべー)に案内人をつけ、補足の説明をさせます。勘違いしない民が極力出ないように。ここまででお聞きいただきましたが如何でしょう?」



 ティレウスは癖なのか、手を口元に当て数秒考えた。


 「今のところは、良しとしよう。続きを」


 「はい。軍の強化としてもう一つの肝がございます。それは()()を作ることです」


 「空軍?どういうことだ?」


 「私とミユリは重力無視(グラビティ)を用いた浮遊、飛行ができます。この飛行ができるまでの腕を持った兵士を数10人程度育てます。要は精鋭部隊ですね。皇国は一度撃退されているので、次には強力な兵士、魔術師を揃えてくる可能性が高いです。それに対抗するには我々も熟練の戦士を揃える必要があります」

 

 ティレウスはユラの話を時々頷きながら聞いていた。


 「よし、軍のことは検討しよう。次に、王国の象徴というのは?」


 「私が得た独自の魔法を用いて、他の国に真似できないようなとてつもない物を造るのです。今考えていますのが、天高くそびえる塔です」


 ティレウスは淡々と聞いていた。


 「それで、どのような塔なんだ?」


 「頂点の高さが、我が王城の7倍以上になる塔を考えております」


 その発言にユラ、ミユリ以外の3人は仰天した。思わずティレウスが前のめりになりながら、ユラに問う。


 「そんな物が、本当にできるのか!?」


 「半年程度の期間と私の魔法があれば可能です。ただ、建築に特化した錬金術師が必要です。陛下、その者の入国を許可をお願いいたします」


 ティレウスは天を仰ぎ、目を閉じている。それが側から見れば困ったようにも、これからの王国の発展を想像し期待しているようにも、どちらとも取れる表情をしていた。


 「本当に創り上げることが可能なのだな?」


 「はい、殿下。今回も結果で証明してみせます」


 「......よし、その者の入国を許可しよう。費用は国で負担する。だが極力予算は抑えるように。民の貴重な税金なのだぞ」


 「はっ。かしこまりました」


 「最後に、太陽杯への参加だが、これはなぜ必要なのだ?」


 「これには理由が2つございます。1つ目は、やはり周辺諸国への威嚇です。太陽杯には個人戦、国別対抗戦がございます。私が考えておりますのは、国別対抗戦に私が出場して、優勝を狙います。そして個人戦では我が軍の中から優良株を見付け出し、鍛え上げて出場させます。どちらかが優勝すれば、それだけでも国への名誉となりましょう。ですが私が狙っているのは、国別対抗戦で優勝した国に与えられる権利、即ち外界(アンノウン)を探索する権利でございます」


 「外界(アンノウン)だと!?」


 3人がまたしても驚愕した。ティレウスは玉座から立ち上がり、正気か?といった表情でユラを見ている。モリスは完全に頭を抱え、マリーは元々丸い目がさらに丸くなっていた。


 ティレウスが玉座から降り、ユラの元まであと1歩と言うところまで近く。


 「正気かユラ!外界(アンノウン)がどんな所か知らないはずはないだろう!」


 ユラに叫ぶが、ユラは一切動揺せず、跪いたままだった。


 「はい、殿下。今我々人類が住んでいるのはこの世界の2割ほどで、残りの8割は未開の地。なぜ開拓できないのか。それは人類生存圏とは比較にならない強さの魔物が潜んでいるから。それが外界(アンノウン)です。ですが殿下。私に言わせればそれは違います。魔物が強いのではなく、我々人類が弱すぎるだけなのです。アンノウン外界(アンノウン)へと進出できれば、今の人類生存圏とは比較にならない有用な資源があります。それに、他国を侵略せずとも新しい領地が手に入ります。私とミユリ、それにこれから鍛え上げる精鋭部隊の力があれば、攻略は可能でございます。」


 それを聞いたティレウスはゆっくりと玉座へと戻り、前のめりになった肘をついた。そして1分ほど経った頃、顔を上げた。



 「......太陽杯まで後どれくらいだ?」


 「4ヶ月でございます」


 ティレウスはふうっと息を吐くと、王としては本来ご法度な、投げやりな表情でユラに言った。


 「太陽杯への参加、外界(アンノウン)への探索については、4ヶ月後に部隊の熟練度を見て決定する。異論は認めん。それで良いな?」


 「はっ、殿下。必ずやご期待に応えてみせます」


 「お主が来てから胸がやけに痛むのは気のせいだろうか」


 「殿下お体の具合に異変がおありですか?でしたら私とミユリは治療魔法を習得しておりますので」


 「いや、そう言うことではない......」


 こうして半ば強引に王国の進む道が示された。 





 


 


 

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